35 クリスマスの予定とプレゼント探索
前回の続きから。
「……どうしたの?湊斗くん」
「い、いやなんでもない」
パソコンの画面で隠していた顔を上げて咄嗟に返事をすると、姫奈は少し頬を赤く染めながらやや首を傾げてこっちを見ていた。
「顔赤いよ?」
「き、気のせいだ」
(誰のせいだと思ってるんだよ……)
姫奈自身は普通に返事をしただけだと思うけど、自分に取ってはそれは普通じゃない。これは彼女が悪いわけではないし自分が弱いだけなのだが……
「本当にいいんだな?」
「うん。私も湊斗くんとが良い」
「そ、そっか」
今の発言もやや心臓にくるものがあったが、このまま悶えていても話が進まない為、返事をしてそのまま続行することにする。もう顔が赤いとかどうだっていい。
しっかしまた自分とが良いとか、返事は「うん」だけでよかったでしょ……(別に嫌なことではないが)
「他に呼びたい人とかいる?」
「いないよ。二人きりがいい」
「そうか」
(やけにグイグイくるな……)
「姫奈はクリスマス何がしたい?」
「え、えぇーと。お部屋を飾り付けしたり、一緒にケーキを作って食べたり、後、湊斗くんと一緒に写真撮りたい」
「な、なるほどな……」
姫奈が望んでいたことは至って普通だと思った。自分は深く考えすぎていたかもしれない。一緒にお出かけしたりとかも考えていたが、彼女は家でまったりと過ごしたい方らしい。
一緒にお出かけって確かにハードルが高いし、そっちの方が都合が良さそうだ。
「ふんじゃ、そうしよっか」
「うん!」
不器用ながらも口元を緩めて微笑みかければ、姫奈も頬を赤く染めながら満面の笑みで目を細めながら笑う。
子供のような無邪気で純粋な笑顔。
(……かわいいな)
病院で会った時から姫奈の笑顔は何回も見てきていたが、今の彼女の笑顔が最高に愛おしい。
見ている人の心を癒すし、幸せにしてくれる。今の姫奈は女神様を演じていないが、演じなくとも女神様のような力を彼女は持っているのかもしれない。
姫奈は最高の笑顔を見せてくれた後に、机に顔を伏せて大きく息を吐いた。
「はぁーーー楽しみだなぁ……」
「……俺も楽しみだよ」
まるで感慨に浸っているような小さな声で姫奈はそう言った。自分もとても楽しみで机に伏せている彼女を見ながら思った通り言ったが、どうして彼女が顔を伏せるのかはよく分からない。
その後顔をあげた姫奈の顔は、なぜかさっきよりも赤くなっていた。
☆☆☆☆☆☆
(やべぇな……)
今めちゃくちゃ焦っている。もう明後日がクリスマスというのに、まだ姫奈へのクリスマスプレゼントを決められていないからだ。
ずぅーっと一人で考えていたが、このお年頃の女子高校生が何を求めているのかさっぱり分からなかった。
ネットで調べてみても、これって明らかにハードルが高くて重いものなんじゃないか?と思えるような物ばかり出てきて、どれが正解なのかまるで分からない。
明日が二学期の終了式で明後日から冬休みだ。だから、今日はもう早帰りだったため今から見に行こうとしている所だ。
治安維持隊の仕事はまだ余裕があった為よかったものの、念のため小林先輩に電話をかけておいたら「は?まだプレゼント買ってないの?何してんの湊斗くん?」と言われ、電話越しに少々の説教を受けた。
それからプレゼントについて相談したら、またになにやら如何わしいことを言い始めたのでそのまま電話を切ることにした。
とりあえず何も得れなかったため、そのままプレゼントを探すことにする。
学校の姿のままで行くのはさすがに気が引けたため、一旦家に戻って変装を解いてから、またショッピングモールに行くことにした。
☆☆☆☆☆☆
ショッピングモールについてから、何があるかなと辺りをふらふらと見回していると後ろから軽い衝撃を受けた。
なんだ?っと思って振り返るとそこには伊織ともう一人、伊織の妹がいた。
「こんなとこで何やってんだよ湊斗」
「な、何でもいいだろ」
「……怪しいな」
いつもの調子で突っかかってくる伊織に対し、その隣で伊織の妹が不思議そうに自分らを見ている。
黒色の長い髪に赤色の瞳、背丈は姫奈と同じぐらいで髪にみかんの髪留めを付けている。
彼女の名前は杠葉蜜柑だ。実は伊織は双子で彼女とは同級生だ。
蜜柑とはクラスが違うため学校ではあまり話さないが、彼女は伊織の事が大好きだから外で会うと一緒にいる確率が高い。
だから会った時に話すこともある為、蜜柑と話せないというわけではない。伊織の妹とということもあり、気を遣わずに話せて楽だ。
蜜柑はかわいいなんて言われていて、結構モテるそうだが普段から伊織とのじゃれ合いを見ている自分にとってはよく分からない。
この兄弟、羨ましいほど仲が良く相思相愛な為、この人らに彼氏彼女が出来ないのも見た目で納得がいく。
めちゃくちゃイチャついているわけではないが、周りに反感を買わない程度に二人で過ごしている。
まぁ、自分的にはお互いがブラコンなんだなと思っていて、それはそれでいいと思っている。
あと、伊織の本当の苗字は蜜柑と同じ、杠葉だ。
「きっと、クリスマスプレゼントを探してるんだと思うよ。朝霧さんの」
「いやいや、そんなことはないだろ。だってもう明後日だぞ」
(いやあるんですね実は)
的確に蜜柑に当てられてしまって、自分の愚かさを感じる。その反面、伊織がそれを否定して「それはないだろ」と手を広げながら首を振るので、伊織にそれを言われるととてもウザく感じる。
自分はスゥーっと音が聞こえる程度の息を吸って、彼らを見ているしかなかった。
「おい湊斗。なんで反応しないんだよ」
「別になんもない」
「はぁぁあ、俺の妹に的確に当てられてしまうとは、全く不器用な奴だ」
「ふふふ。お兄ちゃん、西園寺くんは真面目だから色々と考えてるんだよ」
「全く、朝霧さんに惚れちゃってるじゃないか」
「ちげぇよ」
惚れちゃっていると言われると、そう感じる部分もあるというかないというか、きっぱりとは分からない表現だ。
自分は姫奈の事は好ましいとは思っているけど、あくまで今は彼女の事を見守ってあげたいと思っているだけなんだろうと思っている。
異性と関わることはあまりなかったので、今はちゃんと分からない。
「湊斗や。わしらがいるからには安心しろ。わしらには心強い味方、蜜柑様が付いておる。これで君も素晴らしいプレゼントが見つけられるはずじゃ」
「……プレゼント探し手伝ってくれるのか?」
「私はいいよ。同年代の女の子として、少しだけどアドバイスできると思う」
「名案じゃろ?」
「うん。ありがとう。とても心強い」
蜜柑は姫奈と同じ同級生で学校の立場的にも似ている所があるし、姫奈の好きそうなものを的確にアドバイスしてくれるだろう。
伊織と二人では決まりにくい所もあるだろうし、姫奈と同性の蜜柑がいればとても心強い。
これで何か素敵なプレゼントを選べるだろうと思う。少し安心した。
でも、彼らの意見だけに流されようとは思っていない。だって、自分が上げるものだし気持ちの籠ったものを上げたいからだ。
それから自分たち三人は姫奈へのプレゼント探しに向かった。




