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34 姫奈にとっての定期的とは

「ただいま」


 そのままドアを開けて中に入ると姫奈はリビングから抜け出して満面の笑みでこっちまで駆け寄ってきた。


「おかえり!」


 駆け寄ってきた姫奈は待ちわびていたかのように声を上げて微笑みかけてくる。


(いやぁー本当に妹が出来て迎えられているみたいだ……)


 この状況は自分が一人っ子な分感じられる事かもしれないが、その反面、姫奈のお迎えに慣れてしまっている自分が怖い。

 

「……誰かと思ったよぉ、怖かったぁ……」

「ごめんな」


 それから姫奈は瞳を泳がせて見つめてくる。「怖がらせてごめん」と言い頭を撫でると、姫奈は安心したように顔を緩めてそのまま自分に抱き着いてきた。


(お、え、まじか)


 これまた抱き着かれるとは思わなかったので混乱してしまう。


「あったかい」

「そ、そっか」


 姫奈はそのまま自分の胸に顔をうずめて体温を味わっているようだ。当然彼女の方が温かくて、ぶっちゃけこっちの方がご褒美をもらっている気分だ。

 今日は正面からだったので、やけに恥ずかしくて自然と体が熱くなってくる。


「こ、これは定期的にするギューに入るやつか?」

「うん、入るよ。毎日のね」

 

(え、今なんてこの子言ったの?)


 毎日って、、、、定期的って毎日っていう意味だったのか?いや、自分の考えからすると週に一回とか二回とかと思ってたからやけに多く感じる。

 別に嫌じゃないしかわいいのだが、毎日すると言われると自分の理性が持つかどうか心配になってくる。そのうち襲いそうで怖い。

 それに加え、小林先輩がさっき言ってた「セッ……」を思い出してしまって、もっと頭が混乱し始める。


(あの人め……余計なことを言うから)


 考えるな考えるなと、頭の中で唱えながらその場をしのぐしかなかった。


 そのまま自分も姫奈の後ろに腕を通して軽く寄せ付けたら、彼女は反応して力を少し抜く。

 

 無言の時間……


(ふぅ、、、いやぁドキドキする)


 女の子って包容力というか、周りに暖かい空気があってそれに包みこまれるようで、安心するしドキドキもして何だかもどかしい。


 これが彼女のサポート役の役目だとしても、何だか彼女の弱みに漬け込んでいるようで後ろめたい。


 複雑な気持ちを抱えながら姫奈のことをしばらくの間抱きしめて、彼女は満足がいったのかそのまま顔を上げてこっちを見てきた。


「ご飯食べよ?」

「う、うん」


(この生活が憎い……)


 上目遣いに優しい声で囁かれてまた体が熱くなってきたものの、とりあえずは返事をしてその場をしのぐことにする。


(もう俺世の中の男に殺されるだろ)


 そう思いながらリビングに向かった。


☆☆☆☆☆☆


 ご飯を食べ終わって風呂に入ってから、また二人で椅子に座ってそれぞれの作業をしていた。

 ずーっと考えていたが、クリスマスに姫奈と何をするかはまだ決まっていなくて何も思いついていない。

 こういうところがまだまだというか、もっと女心?ってやつを勉強しないといけないなと思う。もっと彼女のことを引っ張っていきたし、姫奈の為にもっと気持ちを分かってあげられる男になりたい。


(こんな事思うのも初めてだな)


 今まで異性と関わってこなかった身として、女なんてどうでもいいと思ってたから、今を思うと結構自分が変わったなと思う。


 だって、今は姫奈の事が放っておけないし見放せないって思う。サポート役としてでだけでなく、個人として彼女の事を見守っていたいと思っている。


 だから自分がへこたれてたら姫奈にもっと迷惑をかけることになる。それは絶対に嫌だ。


 そんなことになる前に自分が変わらなければならない。


 だからもっと男として精進せねばだ。西園寺家も背負ってることだし。


 いっそのことクリスマスの件もまた伊織に相談するかと思ったが、今回は伊織に頼むのはなしにして何がやりたいのか直接彼女に聞いてみようと思う。


 そんなに隠すことでもないし、直接聞いた方が準備も早いだろう。


(いや、なんか緊張するな……)


 今はお互いに集中していてどちらも話しておらず、ノートを書く音とキーボードを押す音しかなっておらずやけに静かだ。チラッと前を見てみると真剣な顔で勉強と向き合っている姫奈がいるし邪魔するようで怖い。

 しかも異性と過ごすクリスマスのことを話すのだからやけに緊張してしまう。

 心臓がばくばくしてきて頭が真っ白になってくる。

 

 ゴホンっと一旦喉を鳴らして少し姫奈が顔を上げてこちらに反応したところで、とりあえずクリスマスの話を彼女に切り出すことにした。


「あの、姫奈さん、少し相談がありまして……」

「……ん?どうしたの?」


 やけに姫奈の返事が遅くなったのは、きっと自分の不自然な話し方と顔が赤くなってきているからだろう。今なら本当に今でも自分が女の子慣れしていないのが目に見えて分かるはず。こんなことで緊張していてはダメだろう。

 前にあるクリっとした琥珀色の瞳がこちらを見つめてきてさらに緊張が増した。


(ちょ、ま、いちいちかわいいなぁおい)


「あのな、クリスマスのことについてなんだが……」

「ク、くりすます……!」


 やけに姫奈がクリスマスと聞いて反応する。少し目が大きく開いて、声のトーンが上がる。彼女も何かあるのだろうか……


「うん、そうなんだけどさ、姫奈は何か用事とかある?」

「ないよ、ないない」


(おぉ、)


 即答だった。すっごいスピード。


「それじゃ、その、俺休み貰ったんだけどさ、俺と一緒にクリスマス過ごしてくれないかな……?」

 

 息を呑んで聞いてみる。

 

「……いいよ?」


 その返事を聞いたとたんに、自分はとっさに前に置いてあったパソコンの画面で顔を隠した。


(やばすぎだろ、なんだよ今の返事の仕方。もう死ぬって)


 そう、もう耐えれなかったのだ。自分の顔が一気に赤くなるのを感じる。今の自分の姿を見られたらもうこの先生きていけない。


 姫奈の返事の仕方。それ反則過ぎんか????????

 ま、まず、一瞬目が揺らいだ後に、一旦視線を落としてからもう一度こっちを見てきて、少しニコリと笑ってから「いいよ?」

 いや、なにそれ、その返事の仕方に耐えられるとでも思ってるのか????

 絶対殺しに来てるだろ……


 あと、俺と一緒にって言ったけど、結構なんか、うん、これはもうデートのお誘いというかそういうのだよな!?

 あと、なんかクリスマスって恋人たちの日って感じだし、ひとまず誘うだけでも恥ずかしい。しかも、なんかいつもの調子が出せなくて変な感じで言っちゃったし、もう死にたい。

 伊織と小林先輩は本当に要らないことを自分に吹き込んでくるから、こういう時の為にもやめてもらいたい。


 あぁもうダメだ。普通の自分に戻りたい。いつもの自分に戻りたい。こんなの……違うだろ……


 そう一人でしばらくの間、悶絶(もんぜつ)していた。


 次話に続く……

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