25 女神様と帰り道
かわいい猫のデザインが施されたバックを肩にかけながら姫奈と一緒に帰り道を歩く。
いつも通りの帰り慣れた道も、横に人がいるだけでまるで別世界のような感覚に襲われる。それは隣にいる存在が大きいからだろう。
ふと横目で姫奈を見てみると、ニコリとしていて何だか嬉しそうに歩いている。隣でこんなにニコニコされていたら何だかこちらまで嬉しくなってくる。
(もうこの状況、普通超えて、カップル超えて、家族も通り越してる)
スーパーの買い物袋を持って、家族でもない異性と同じ家に帰ることがあるだろうか、嫌ない。
一緒に暮らしている以上、普通なんだろうけど中々慣れないものだ。
こう姫奈を見てみると、結構背の高さが違うことに気づく。自分自身は背が高い方だが、姫奈も低いというわけではないはずだ。
見た目のスタイルがいい為にそう見えるのかもしれないが、頭一個分ぐらいの身長差が自分と姫奈にある。
足が長くて身長が高く見えるのか?と思ったけどよくは分からなかった。
こういう異性と二人きりで帰るっていう経験はもちろんないし慣れていない。
何だか緊張してしまって、話そうにも話せない。きっと話そうと思えば話せることはあるんだろうけど、考えようとしても頭に浮かんでこないのだ。
こういうところが自分の経験不足というか、異性と関わろうとしてこなかった自分が悪いんだけど、結構困る所だ。
何かないかなぁと辺りを見回しながら考えていると、恥ずかしい事だが自然と姫奈の方から話しかけてくれた。
「湊斗くん」
「なんだ?」
「湊斗くんって誰かと遊んだりしないんですか?」
「あんまりしないな」
「どうしてですか?」
「遊んでいる時間があまりないしな。友達もあんまいない」
「あの、何だかすみません」
「え?いや全然何も思ってないよ」
多分、自分の事を気遣って謝ってくれたんだと思うが、自分としては当たり前のことだし本当に何とも思わなかった。
姫奈は申し訳なさそうに下を向く。
「その、姫奈はどうなんだ?」
「私もあまり友達とは遊びません」
「そうなのか?」
「はい」
「結構友達いそうだけど、どうしてだ?」
「いや友達あまりいませんよ……その、家庭的な事情で遊べてませんでした」
「そ、そうか……」
自分も変なことを聞いてしまったなと後々後悔する。実は、聞く前から躊躇らっていた部分はあったし、父親に遊ぶのを制限されていたんだろうなっていうのがなんとなく分かっていた。
なぜかというと虐待の仕方が尋常じゃなさそうだったし、きっと周りのことまで色々と制限されていたんだろうなと思う部分があったからだ。
最初に姫奈の家に駆け付けた時は、彼女は全身がボロボロだったし家中が荒らされていた。自分が仮説を立てるとすると、父親に色々と制限されていて家の事は全部姫奈に任せっきりにしていたのだと思う。姫奈が家事ができるのも、父親に命令されて無理やりさせられていたという説がありえるかもしれない。
聞かないでおこうとも一瞬思ったが、一応姫奈の口からも制限されていたのかちゃんと確認しておきたかった。彼女には本当に嫌なことを思い出させるようで気が重かったが、この事をちゃんと確認できれば今後役立つことがあると自分の中では思っている。
まだ、どう虐待されていたかなどはちゃんと聞いていない。だから、我々もまだ何も分かっていない。まだ姫奈の精神的に直接聞けることではないと判断しているからだ。
でも、いつかはちゃんと相談して彼女が過去の苦い思い出から完全に吹っ切られるようにしたい。だから今一番近くにいる自分が少しでも何か聞いておいて、そこから自分なりに仮説を立ててから姫奈が気持ちよく相談できるようにしたかった。
実際に彼女の口から虐待の雰囲気を思わせるような言動が出たので、気が重いながらも本当だったのかと自分の仮説の正確さに少しは近づいたと感じる。
「家庭的な事情」と姫奈は言ったが、その言葉だけで十分に虐待が背景にあるのが伝わってきた。
彼女が虐待されていてと言わずとも、それだけで分かるものだろう。
とりあえず、そのままでは一緒に帰るのも気まずくなってしまうので話題を変える。
「姫奈って好きな食べ物はなんなんだ?」
「え、そうですね……桃は好きって言いましたけど果物全体が好きかもです。後甘い物……」
「甘い物か、俺も好きだ」
「本当ですか?」
「うん。恥ずかしいけどホイップクリーム直飲みしたことあるぞ」
「え、えぇええええ!本当ですか!」
「ほ、ほんとうだ……」
その話を聞いてやけに姫奈の目がキラキラになる。さっきまでどんよりとした空気が一気に冷めたのはうれしかったが、自分の隠していたことを話してしまって気まずい。
(そ、そんなに反応するものなのか……)
「分かりますよその気持ち。私はしたことないですが、いつかはしてみたいと思っています。湊斗くん、今度一緒にホイップクリームチューチューしましょう!!!」
「お、おう」
急なテンションの変わりように、少し困惑を隠せないが気分が晴れたようでよかった。といっても、一緒にチューチューしようってどんなことだよ。
想像するだけで笑えてくる。二人揃ってホイップクリームを直で飲んでいる姿だなんてどんな様子だよ。
姫奈自身、そういうことは出来なかったと思うので、嫌な事ではないし一緒に出来るのならいいと思う。
本当に笑えてきて、ふっと吹き出してしまう。
「私、スイーツの食べ放題に行ってみたいんですよねっ」
「そうか。俺で良ければ一緒に行くけど」
「本当ですか!!!行きましょう!甘い物いっぱい食べましょう!」
「そうだな。いっぱい食べよう」
ちゃっかりお出かけのお誘いをしたが、姫奈自身は喜んでくれて満面の笑みで承諾してくれたので悪くはないなと思った。
ああいうスイーツの食べ放題の所ってカップルや女性が多いイメージだが、彼女が行きたいっていうんだからしょうがない。
甘いものを食べるのは好きだし、彼女の食べている姿を見るのも好きだ。
「約束ですよ?絶対湊斗くんついてきてくださいね?」
「うん。分かったよ。約束だ」
それから姫奈はにっこりと笑って「楽しみだな~」と横で嬉しそうにしている。
自分もその姿を見てちょっぴり楽しみになってきて、自然と頬を緩めて微笑んでいた。