24 女神様と偶然の出会い
(ん?なんだか見たことあるような……?)
学校からの帰り道に少し買い物をしようと近くのスーパーに寄っていた。ガチで買い物をするわけではなく自分が食べたいものを買いに来ただけだ。
普段の食事の材料は姫奈に頼めばちゃんと買ってきてくれているし、自分でも買いに行くので買い忘れたという事で来ているわけではなかった。
制服で変装しながらの買い物は少し気が引けたがそこまで気にするのもめんどくさいので、躊躇なく買い物かごをを持って奥様方たちと一緒に買い物をしている。
いい年した兄ちゃんが一人で何をやっているんだという視線を感じて少し居心地が悪いが、世間はそんなもんだと思った。
それでお菓子売り場に行こうとしてスーパーを横に貫く商品棚に挟まれた道を行きながら周りを見ていたら、一瞬目に留まるものがあって立ち止まった。
女の子がしゃがんで几帳面に何か見ているのだが、横顔が姫奈にそっくりで本人じゃないかと思ったのだ。
家の近くなのでここにいるのはおかしい事じゃないし、雰囲気が凄い似ているのだが姫奈と違ってメガネを掛けている。
普段は掛けていないし他の似ている誰かなんじゃないかともとれる。
(どことなく似てるんだよな~)
目を細めてじっと見つめているが、周りから見ると変な奴だし、声を掛けて違ったら気まずいし、まぁいいかと思って立ち去ろうとした時、その女の子が立ち上がってこちらに振り向いたらしい。
もうお菓子売り場に向かって歩こうとしていたので姿は見えていなかったのだが、自分の姿は少しだけ見えていたようで背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「湊斗くん?」
「へ?」
一瞬ボケっとして後ろに振り返ったら、商品棚の角からさっきの女の子が曲がってきた。どことなく見たことがある表情を見て呆気に取られる。
「やっぱり湊斗くんだ。買い物かごまで持ってどうしたんですか?」
「姫奈……?」
「そうですけど」
ん?と首を少し傾げてる彼女を見ながらなんとなく理解することが出来た。さっきは横顔だったが、正面から見ると確かに琥珀色の瞳にぴょこんと飛び出た鼻、プルンとした唇は姫奈そのものだ。そこに黒縁のメガネが合わさって全体の印象を変えているのだ。
「なんでメガネなんかしてるんだ?」
「同級生にバレると嫌なので、湊斗くんと同じ変装です」
「なるほど」
彼女自身、二学期から学校には行っていないというのでさすがに同級生に見つかったら気まずくなるし、それでメガネを掛けていると言われたら理解できた。皆には休んでいる理由をどう説明しているか分からないが、人気者なのでバレたら長い間付け回されるだろう。
メガネの姫奈も、清楚系のインテリ系メガネ女子みたいな感じで凄く似合っているし、これはこれでいいなと思った。
「誰か分からなかったのですか?」
「うん。一瞬そう思ったんだけど横顔だけだったし、メガネ掛けてたから違うのかなって」
「そういうことだったんですね。確かに湊斗くんにメガネ掛けてる姿、見せたことありませんもんね」
「そうだな」
「それで買い物しに来たんですか?」
「うん。少しだけ食べたいものがあって来た。一緒にしようか?」
「そうしましょうか」
そう言って持っていた買い物かごを元に戻して、姫奈の持っていたかごを手に取って一緒に買い物することにした。
まだかごには何も入れてなかったので、商品を元の位置に戻す手間はいらなかった。
「ありがとうございます」
「これくらいは持つから。頼ってもらえばいい」
買い物かごを渡した姫奈は申し訳なさそうに眉を下げた。重い物を女の子に持たせるのはさすがに気が引ける。
「何だか二人で買い物なんて不思議な感じですね」
「そうだな。しかも異性とだなんて」
「うふふ。しかも二人揃って変装してるだなんて面白いです」
「確かに中々ない状況だな」
「そうですね。しかも二人とも黒縁メガネでペアルックですね」
「そうだな」
お互いに談笑しながらなんとなく流していたが、ペアルックだなんて言われて少しは気になる。特に本人は気にしていないらしく隣でニコニコとしているが、さらっとそういうことを言うのがやけにずるく感じた。
(そんなこと言われたら意識しちゃうじゃないか……)
あと、二人で平然と会話しているようだが自分は内心ドキドキしていた。今の自分は姫奈と違って学校の姿だし、同級生に見つかったら非常にやばい。
女の子といただなんて言われたら噂になるのは違いないし、そんなことが起きたらただでさえ窮屈な自分の学校での居場所が地獄と化して、もう学校になんて居られなくなるレベルだ。
幸い姫奈の今の顔は女神様だとバレなさそうだが、もしそうだとバレたら……
(やべーだろ、マジで。今でも人権ないのにあいつらに殺される)
不安は募る一方だ。
「湊斗くんは何を買いに来たんですか?」
「あぁ、なんかしょっぱいものが食べたくてな。ポテチでも買おうかと」
「そうだったんですね。お仕事のお供ということですか」
「そうなりますね」
横で当ててやった感の凄い顔の姫奈を見て、ふっと軽く鼻で笑ってからお菓子売り場でポテチを取って自分の一番の目的は達成された。まぁ他にも買うものはあるんだが。
一緒に歩いてて思うが、意外と自分の歩くスピードが速いんだなと感じる。少しでも油断したら横にいる姫奈と距離が開きそうだ。
「姫奈は買い物してくれていたのか?」
「そうですよ。今の時間はタイムセールしていますからね」
「なるほどな。そういう所まで計算してくれてるんだな」
「はい。節約出来るところは節約しなければいけませんし」
「確かにそうだな。ありがとう」
基本的に生活費は共有している感じなので、素直に感謝したら姫奈は照れ臭そうにしている。というか、さっきからチラチラとこちらを向いてくるのはなんだろう。
自分は割引のシールが貼ってあったら買う、なんてことくらいしかしてなかったので、時間帯までは気にしたことはなかったし、むしろこのスーパーにタイムセールがあったのを知ったのが初めてだ。
既に買い物かごにはいくつか商品が入っていて、もう半分ほどは買い物を終えていたらしいので残りもささっと回収して会計にすることにした。
「今日は私が払いますね」
「ありがとう」
そう言って、会計を済ませてから荷物を持ってスーパーを出た。まさか、姫奈と買い物するとは思ってなかったので自動的に会計は姫奈になった。共有財産なので問題はない。
マイバックを持ってきていたらしく、かごから荷物を移す手間がなくて楽なものだった。