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22 女神様のお供探し。

 姫奈との生活は早いことで一週間が過ぎ、それなりに慣れてきて前の生活よりも充実しているような気がしている。


 そう感じるようになったのはやはり彼女のおかげだ。本当に自分の方が頼っていることが多くて申し訳ないと思うことが多い。

 自分も精一杯姫奈をサポートしようと最善を尽くしているのだが、どうも姫奈がこの生活に積極的で、何だか違和感を感じるほどだ。


(なんか過保護なんだよな……)

 

 後、姫奈を見ていると、時々下を見つめてどこか悲しい顔をしていることが多い。毎回、「大丈夫か」と聞いても、「大丈夫です」としか答えてくれなくて何か聞き出そうにもまだ聞き出せない状況だった。


 今の自分では彼女の傷を完全に理解するにはまだ時間が必要だった。別に恐れている訳じゃなくて、今このタイミングで中途半端に彼女と話をしても完全には彼女の不安を取り除けないと思ったからだ。


☆☆☆☆☆☆


「伊織、相談があるんだが」

「ん、なんだ?」


 横で彼の妹が作った弁当に夢中になっている伊織がこちらに振り向く。というのも最近気になったのが、姫奈が一人で家にいる間色々と家の事をやってくれているのだが、それだけでは時間が立たないだろうし、一人だけじゃどうも寂しいんじゃないかと思ったのだ。


 姫奈は友達と遊びに行っているわけでもないし、たまにカウンセラーと会っているみたいだが基本的には一人だと思う。


「姫奈が一人でいる時、寂しいんじゃないかって思ってさ」

「あぁ、確かにな。さすがに一人じゃ寂しい所もあるだろうな」

「で、どうすればいいかと思って」

「あぁ」


 今日の伊織はいたって冷静だった。弁当に集中しているものの、ちゃんと自分の話は聞いているみたいだ。

 そのあたりがいつもと違って気味が悪いのだが、それはそれでいいのかと思うことにする。


「なんだ、そうだな……ぬいぐるみとかいいんじゃないの?」

「ぬいぐるみ?」

「あぁ、なんか女子ってぬいぐるみ抱いて寝たり、ぬいぐるみ撫でてるイメージあるだろ?」

「どういうイメージだよ」

「えぇ、そういうイメージあるだろ?特に朝霧さんはそういうイメージだ」

「はぁ」


 なんか年齢層を間違えているような気がするが、ああいうのってまたアニメや漫画の世界だけなんじゃないのか。

 あまりの冷静さ上に言い切った感の凄い顔で言われたので、テキトーに考えてるんじゃないかと思えて、ため息をついてしまった。


 でも言われてみれば動物は家では買えないし、そういうものが妥当なんじゃないかとも思う。伊織に言われた通り、不思議と姫奈にはぬいぐるみが似合いそうだ。


「まぁ、確かに言われてみれば」

「おぉ、湊斗も朝霧さんがぬいぐるみを抱きしめているところが見たいんだな!?」

「ちげぇよ」


 急に元のテンションに戻ったので気が引けたが、そんなことはねぇよと睨んでおいて、とりあえずぬいぐるみ探しを伊織をお供にして開始することにした。


「でかして、女神様のお供探しだな!」

「うるせぇ」

「湊斗隊員、そんな感じじゃ良いお供は見つからないぞ」

「はぁ」


 伊織の方がノリノリだった。


☆☆☆☆☆☆

 

 放課後、ぬいぐるみ探しを開始して町の一画にある有名な家具屋に来ていた。というのも有名なキャラクターものじゃなくて、シンプルで大きく、抱き心地の良さそうな物がいいということになってこの店を選んだ。


 もう抱く前提になっているが、抱きしめられるほどの方が存在感があっていいし、ぎゅっと抱きしめて癒されればなと思ったのだ。


 自分的には姫奈が好きな、猫のかわいい物があればいいと思っている。


「いい年した高校生が制服で放課後に家具屋だなんてすげぇ状況だよな」

「すまんな。付き合わせちゃって」

「いいのよ別に。湊斗のそういう気づかいが出来るとこ好きだぞ」

「ありがとう」


 こういう言葉がすんなりと出てくるところが優男だなと感心しながら、口を緩めて感謝の意を伝えておく。


 あぁだこうだ言いながら話しているうちに自然と抱き枕のコーナーにたどり着いていた。結構な大きさのコーナーで、今は冬時の色々な種類の抱き枕が置かれている。


「お、結構あるじゃないか。どれも良さそうだな」

「ほんとだな。このクマのやつ、なんかいい顔してんな」

「おぉ、見てるこっちが眠くなってきそうなほどいい顔して寝てやがる」


 自分が手に取ったクマの抱き枕を見て伊織が顔をいじりだしたので、「やめてやれ」と言って元の場所に戻しておく。


 お目当ての猫の抱き枕を探すことにして辺りを見回しているとハッと声を上げるほどにいい物を発見した。


(これだ)


 まるで待ってたかのように現れたそれは、憎めないほどかわいい顔をしていて、いい感じのサイズで抱き心地が良さそうだった。

 手に取ってみると、思った通りの触り心地でこれはいいと購入を即決定するほどだった。


「おぉ、良い感じだな」

「だろ。これにするよ、かわいすぎだろ」

「湊斗、お前がテンション上がってどうすんだよ」

「うるせぇ。かわいいもんはかわいいんだよ」


 やれやれとした顔を伊織はしていたが、このかわいさに気づけないのは損をしているなと思いながら会計を済ませることにした。

 お金はあったので良かったのだが、持ち帰るとなると少し大きいサイズだ。


☆☆☆☆☆☆


 帰り道に、体の前に猫の抱き枕を抱えて歩いていたら伊織がニヤニヤしながら笑い出した。


「湊斗、なんだかかわいくなったな」

「うるせぇ」

「朝霧さんがこれを抱きしめている姿を想像して買っていたのか?」

「ッ……」

「なんで黙るんだよ。まぁそうじゃなきゃ買えないわな」


 想像していた事実に恥ずかしくなってきて伊織と反対側を見ていたが、伊織の言う通りそうしなくちゃ買えないものだ。


 袋から猫の顔だけがぴょこんと飛び出ているのを見ながら帰りの道を歩いて行って、伊織と別れる所までたどり付く。

 

「ふんじゃあな、湊斗。朝霧さんがどんなことをしてくれるか楽しみだな」

「余計なこと言うんじゃねぇよ。全く。でも今日はマジ助かった。感謝だわ」

「おう。また何かあれば言えよ」

「ありがとう。それじゃ」


 そう言って伊織に手を振ってから、自分の家までの道を帰ることにした。


 いつの間にか早く、姫奈の料理が食べたいと感じるようになるほどに彼女の料理の(とりこ)になっている。


(にしてもかわいすぎて自分の分まで買うべきだったな)


 ゆらゆらと揺れる猫の抱き枕を見ながら、また姫奈がこれに抱き着いている所を想像してしまって自分の頭を叩いてやりたい気分になった。

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