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18 お寝ぼけ女神様

 ピピピピ ピピピピ ピピピピ


(ん…………)


 聞き慣れているタイマーの音にうなされながら、ベットから体を起こしてタイマーを切った。

 近くにタイマーを置いているとすぐに止めてまた寝てしまうため、普段は遠くの位置に置いていて、強制的に立ち上がらせて起きるというテク二ックをとっていて、これが今までで一番効いている。

 普段から朝早く起きているというものの、また寝たいという気持ちはある。


 現在の時刻は朝の五時で、冬なので外はまだ真っ暗だ。


 フワァっと一発大きなあくびをしてから、眠気覚ましに洗面台に顔を洗いに行く。


 昨日の事で気が付いたことがある。自分は異性と関わったことがあまりなかった分、今まで良く分からなかったが、濃厚に関わると異性には弱いという事だ。

 本当は今まで見栄を張っていただけで、結構なヘタレだったわけだ。そのことに気が付いて、何だか今は気分がやるせない。


(そうえば、まだ姫奈起きてないな)


 寝ぼけていたので彼女がまだ起きてないことを忘れていて、慌てて荒れていた髪を整える。


 姫奈がいつ起きてくるのか分からないので、そのうち起きてくるだろうと思い、次はキッチンに行って弁当を作り始めることにする。

 毎日献立を考えるのはめんどくさいので、基本的には日にちごとに弁当に入れる具を大体決めている。

 それでも作るのがめんどくさいなと思ったら、近くのコンビニか学校の購買で買うことが多い。


☆☆☆☆☆☆

 

 そんなこんなで弁当を作り終えて、朝ごはんを作ろうとした時に姫奈が起きてきた。


「おはようございます。湊斗くん」

「おはよう。よく眠れたか?」

「はい」

 

 起きてきた姫奈の声は気が抜けていて、手で口を隠しながらフハァとあくびをして背伸びをした。男と一緒にいるという危機感がないのか、自然とした行為だ。

 

 不思議なことに髪が崩れていなくて昨日と同じ状態だ。よっぽど姫奈の髪がサラサラで髪質がいいのか、そんなものは知らぬみたいな様子でいつものように寝癖が付く自分にとっては羨ましい光景だ。


「今日は目玉焼きトーストにしようと思うんだが、それでいいか?」

「はい。大丈夫です」


 難なくあっさりと了承を得れたのでそのまま作ることにする。彼女が断ることはないと思っていたが、あっさり過ぎて少し驚いた。


 事前に姫奈に嫌いな物やアレルギーはあるかと聞いてみたら、基本的にないと言っていたので、そこは助かるところだった。

 朝食べるには重いものを作るのはさすがにないと思ったので定番だと思う目玉焼きトーストにしたのだ。


 姫奈はまだ寝ぼけているようで、ファ~と顔を緩めながらその場に立ち尽くしている。まるで頭の上に天使でも飛んでいるかのようだ。

 やや気になるものの、目玉焼きを作ろうと冷蔵庫から卵を取り出そうとしたら、背後からドサッという音がした。


 慌てて振り返ると、姫奈が自分のベットに倒れこんでいるのが見えた。


(えぇ、)


 一瞬の出来事で目を丸くして姫奈をみる。なんせ自分のベッドに異性が倒れこんだんだから、驚くのも仕方がない。

 急病で倒れたような様子ではなく、普通に寝ぼけて倒れたみたいなのでそれはよかったのだが、また同じように寝始めていた。


 寝顔が遊び疲れた子供のようで、気持ちよさそうに寝ている。ふいにかわいいと思ってしまったのが本心なのだが、この状況はまずいと思っていた。

 仰向けになって寝ており、胸元のラインが綺麗に出ている。


(無防備すぎるだろ……)


 思わず頭を抱えてしまった。本人が気にしないのならそれでいいのだが、完全に寝ぼけているし気づいた時にどうなることか心配だ。

 家にソファなんてものがないので、寝込むとしたら床か自分のベッドしかなかいので、しょうがないことだと思ったが。

 

(なんで、自分のベッドに戻らなかったんだ……)


 完全に思考が停止しているようで、完全に寝ぼけていたらしい。


 とりあえずどうしようもできないので、姫奈は学校に行かないし、時間があるのでそのまま起きるまで待つことにした。


☆☆☆☆☆☆


 目玉焼きトーストができて机に並べ始めた時に、姫奈は再度起きて立ち上がった。

 頭の上にアンテナがあるように反応して立ち上がったと思えば、鼻をクンクンとさせてこちらに近づいてくる。


「いい匂いがします」

「朝食できたぞ。今から食べられるか?」

「はい。食べます」


 二回ほど瞬きをして、こちらの方を向いたと思えば、まだ目が半開きで寝ぼけているようだ。おまけに話し方もカタコト状態だ。


「とりあえず顔洗ってきたらどうだ?」

「はい。そうします」

 

 そう言って、姫奈はニコリと笑って洗面台に向かっていった。まだ夢の中にでもいるようだ。そんなにいい夢を見ていたのか?と思って少し不思議に思う。


 そんなこんなで顔を洗ったみたいで、驚いたように姫奈がこっちに向かってきた。


「どうしたんだ?」

「あ、あの、私さっき何していました?」

「気持ちよさそうに寝ていたが」

「え!?ど、どこで、ですか?」

「さぁ」


 姫奈は頬を少し赤くして、今にも泣きそうな目でこちらを見ている。とっさに聞かれたので自分もごまかすしかなかった。


 姫奈はおずおずと自分のベッドの方を見て、指さす。


「このベットのしわ明らかにおかしいですよね」

「そうかな」

「そうです」

「そうかも」

「ひぇ……」


 なんとなく認めてみたら、姫奈の顔がますます赤くなってきて、下を向いてしまった。

 今日に限って上布団を半折にせずそのまま広げてご丁寧に被せておいてあったため、姫奈の寝た跡がくっきりと残っていたのだ。


「ごめんなさい、私うっかりしてて。湊斗くんのベッドで寝ちゃいました」

「全然いいんだよ。俺的には気持ちよさそうに寝てたからいいと思ったんだが」

「えぇ!?寝顔まで見られてたんですか」

「あぁ……」


 すんなりと声に出してしまったが、後から余計なことを言ってしまったと後悔してしまう。確かに人様に寝顔を見られるなんて恥ずかしいことだよなって考えると思うし、申し訳ない気持ちになった。

 でも、突然目の前で寝られたら、見えちゃうし見ちゃうものだ。


 姫奈はむむっとしてこちらを見てくる。


「ご、ごめん。でも、リビングで寝てたし見えちゃうだろ?」

「確かにこれは私のミスですが……」

「うん……でも忘れるから。ね?」

「はい……」


 あんな寝顔を見せられたら、忘れることなんて当然できなかったが、ここはこう言うしかなかった。

 姫奈は姫奈で反省しているらしく、少し暗い表情になっている。


「湊斗くん嫌じゃありませんでしたか?」

「全然嫌とか思ってないぞ。ほら、朝食が冷めるし食べよう」

「分かりました。ありがとうございます」


 姫奈は、顔を赤くしながらもおのおのと自分の席に座り込んだ。


(女神様もうっかりしている所があるんだな)


 そうして二人で朝食を摂ることにした。


 後々考えてみたらなんとなく姫奈が寝ぼけていた理由が分かった。普段、寝慣れない空間で寝たのと、入院生活で生活リズムが少しなまっていたからだと思う。

 あの父親の下で、ちゃんと起きていないなんてことはなかったと思うし。

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