16 お風呂タイムはソワソワだ……
「そ、その、お風呂先に入りたいか後に入りたいかどっちだ?」
湯船にお湯を張っている間に思い切って姫奈に聞いてみることにした。やけに声が震えてしまって、変に思われてないか心配だ。
レディファーストは基本だが、ここは本人の意思を聞いてみないといけないことだ。
姫奈は目線を下にして頬を赤くしながらソワソワしている。彼女も多少は意識しているみたいだ。
「そ、そうですね。ん、湊斗くんはどっちがいいですか?」
(え……)
いや考えてないだろっとツッコみたくなるようなスピードで返事が返ってきたのでこちらも返答に困ってしまう。おそらく、本人も考えていていい案が思いつかなかったのだろう。
ここはちゃっちゃと男の自分が決めるべきか。
「そうだな。女の子は色々と体洗うのとか時間かかるだろうし、俺がちゃっちゃと体洗って出てくるわ」
「湯船は入らないんですか?」
「うん」
「なんでですか?ちゃんと湯船に入って温まらないと、風邪引きますし疲れ取れませんよ!?」
「まぁ確かに、それはそうなんだけども」
思った以上に真剣な眼差しで答えが返ってきて、またどう返答をしていいか分からなくなってしまう。
言われなくても分かっているしお気遣いは嬉しいのだが、いくらなんでも同じ湯に浸かるのはまずいだろう。
別にそんなに気にすることではないし、自分の体さえ綺麗にすればいいんだけど。
「いや、普段からちゃんと健康管理はしているつもりだからそんなに気にすることじゃない。さすがに同じ湯に入るのはまずいだろ」
「そ、そうですけど。ダメです!ちゃんと湯船は入ってください!」
「お、俺が入ったら姫奈が入れなくなるだろ!」
「そ、それは、そうなるかもしれませんが、その……」
「ここは、男の俺に任せればいい。女の子は男よりかは体は丈夫に出来ていないんだし」
「む……」
他にも色々と言ってみたのだが、姫奈の顔色は依然として変わらなかったし考えも変えてくれなかった。
結局、一旦は湯船に浸かることにしてその話は終わりとなった。
お風呂も沸いたことで風呂場に行こうとしたら姫奈がじーっとこちらを見てくる。
「どうしたんだ?」
「お風呂から上がってきて体から湯気出てなかったら、もう一回強制的に入れますからね」
「えぇ、」
本当にしそうな勢いで見てきたので、なぜそこまで気にするのか逆に不思議になってくる。
(お母さんですか……?)
姫奈としては慣れていかなければならないと言ってくれてるんだろうが、もっと仲良くなってからでもいいんじゃないかと思う。
とりあえずは服を脱いでお風呂に入ることにした。
☆☆☆☆☆☆
一通り体を洗い終わってから、ずっと湯船の方に目を向けていた。簡単に言えばまだ迷っていたのだ。
蓋は開けたもののそんなことは知らまいと湯船から出てくる湯気に、今は冬でお湯を浴びないと寒いわけでつい気を取られて入りそうになってしまう。
(この湯船に姫奈が入るのか……)
変な想像はしたくなかったのだが、どうも男のつくりというものは厄介で、考えようとしなくても自然に沸きあがってくる。
あんな美少女が裸で自分の家の風呂に入ることになるだなんて……あまり異性に興味がなかった自分でも少し顔が赤くなってくる。
(はぁ、もう出るか……)
手を額に当てて考えていたが、時間を稼ごうにも寒くて厳しい状況だったためシャワーで体が温まっているうちに出ることにした。
もちろん、何かとバレそうな雰囲気を感じているがしょうがない。
風呂を出てドライヤーを掛けてからリビングに行こうとしたら、ドアから姫奈がこちらを覗いているのが見えた。
「ちょっと……お風呂出るの早すぎませんか?」
「気のせいですよ」
「なんで敬語……」
「別になんでもない」
ぷいっとそっぽを向いてみたら、姫奈はあきれたようにため息をついた。そんなに心配してくれなくても自分で体調管理はするんだが。
さすがに過保護すぎるのではないのかと思ってしまう。
「湊斗くん気にしすぎじゃないですか?私そんなに深く考えずに入るつもりだったんですが」
「さぁ、本当に入るとなると変わってくるかもよ」
「むっ……」
さすがにいい年頃をした男子高校生が入った風呂に、深く考えずに入っても姫奈の調子じゃまた自滅しそうな感じだ。
「もう一回入れとは言いませんが、ちゃんと体は温めてくださいよ」
「はいはい」
それからも姫奈がじ~とジト目でこちらを見てくるので「大丈夫だから」と言っておいてリビングに戻る。
パジャマを着てドライヤーまでかけた挙句、もう一回入れだなんて言われたらどうしようかと思ったが、さすがに姫奈は許してくれた。
だけど体へのお気遣いは本当に嬉しかった。
「湊斗くんが今着てる服、パジャマ何ですか?」
「そうだけど……」
「ほぉ~そんなの着るんですね」
「そんなのってなんだよ……」
「いや、パジャマ何着るのか気になっていたので」
「なにそれ恥ずかしいんですけど」
今着ているのは全身が黒一色の普通のパジャマだった。
普段生活している中で普通、こんな姿は見せないので自然と羞恥が襲い掛かってくる。気になっていただなんて言われたら尚更だ。
「……姫奈のパジャマも期待しとくよ」
「やめてください。そんなたいそうな物ではないので」
「そんなことはないと思うぞ。むしろ異性がパジャマ着ているのを見れるだけで」
「それ以上は言わないでください!」
姫奈の顔が赤くなってきたで、さすがに自分でも暴走してしまったと後悔する。いや、でも言っていることは間違っていないはずだ。
「ちゃんと浸って来いよ」
「お気遣いありがとうございます。でも私の言う事を聞かなかったことは許しませんからね?」
「すみません」
なに意地張ってんだと思いながらも、こんなに心配してくれるのは自分だけでなく一人の人として心配してくれているんだろうなと思い、女神様は面倒見がいいと言われるのも納得がいった。
☆☆☆☆☆☆
自分の洗濯物を取り出して姫奈と変わりばんことなり姫奈はお風呂に入っていた。そこでまた一人リビングで悩みこんでいた。
また一つ大きな問題が発生したのだ。
(洗濯物どこに干そうかねぇ……)
普段リビングで洗濯物を干しているので、そのままリビングで干すというのは死活問題だった。普段から着る服が大体決まっていたため、洗濯を畳む手間を省くために干した服をそのまま着ていた。
普通の服だったら全然よかったのだが、問題は下着だった。
下着は洗面台にかけて干していたのでリビングに干すところがない。今洗面台に行けば確実に姫奈の姿が風呂の扉越しから透けて見えてしまう。
ふぅ……
とりあえずはハンガーと洗濯ばさみで強引に引っ付けて、ある程度空間のあるタンスの中にしまいこんでおいた。
なんとか危機は脱出できた。
--SAFE--
姫奈が干す分には、姫奈の部屋に自分が境界線で行けないので困ることはないから安心だ。
そんなこんなで色々としていたら、姫奈が風呂からでてきた。




