12 女神様のお引っ越し。
今日はついに朝霧さんが引っ越してくる日となった。家で朝霧さんとお手伝いの小林先輩が来るのを待つだけだ。
今日は生憎、藍住隊員が他の仕事で来れない為小林先輩が来ることになった。今回は女性同士相談しあいながら、引っ越し準備を進めてもらったらいいと思っている。
事前に荷物は引っ越し業者が荷物置き場となっていた例の部屋に置いて行ったので、あとは荷物を整理整頓するだけになっていた。
元々部屋に荷物がそれほどなかったため、元の荷物の置き場所にはさほど困らなかったのが良かった。
当然、朝霧さんの私物を漁ったり触ったりなんてことはしていない。
引っ越しと同時にこの部屋で一緒に住むことになる為、実質今日から二人暮らしとなる。
あまり、今も朝霧さんと一緒に暮らすことになる実感が湧かないのだが、それは朝霧さんが女神様と呼ばれるほど遠い存在にいる人だからだろう。
学校で陰キャの自分に取って、みんなから好かれて頼りにされている朝霧さんはとても手に届かない存在だ。
そんな人と今日からほんとに暮らすことになるなんて当然思えなかった。
今日はさすがに正装だと堅苦しいと思い私服にした。といっても服のセンスなんてないので、選びやすくて動きやすいという理由で紺色のジャージを着ている。
センスがないのは理解してもらわなければならないと半分諦めている。最近の流行とか気にするほど暇な時があまりない。
待っているとなんだかソワソワして落ち着かないのでココアを入れてリビングで待つことにした。
この部屋もどんどん朝霧さんと過ごしていく内に変わっていくんだろうなぁと周りを見てみる。
今はごく普通の部屋で、藍色の布団やカーテンに男っぽさが感じられるぐらいだ。整理整頓や掃除は軒並みできるため散らかったりしているわけではないが、この部屋のままじゃ朝霧さんは落ち着かないだろうなと思う。
(カーテンは白めのやつに変えて、もう少し男っぽさををなくすべきだな)
そんなことを考えていたら、家のインターフォンがなった。
ガチャリ
「こんにちは」
「こんにちは、湊斗くん。今日からよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくおねがいします」
お互いに若干恥ずかしくなっていて、うまく視線が合わせられない。
朝霧さんは長い髪を後ろで結んで、白色の厚めの服に黒色のジーパンを履いている
相変わらず、ファッションセンスがいいので今日の私服もめちゃくちゃ似合っているし、厚めの服を着ていてもほっそりしている。黒色のジーパンが足の長さというか、細さを際立てていて綺麗だ。今日もキラキラしていて、今日からよろしくお願いしますなんて言われたのでこの先、本当に生きていけるのかが心配になってくる。
たまに会う分にはいいのだが、住むとなると……
「今日も洋服似合ってますね」
「あ、ありがとうございます」
「湊斗くんのそういう所良いわねぇ」
小林先輩が朝霧さんの後ろでうんうんと頷いてる。褒めてくれたのは素直に嬉しいけど、ニヤニヤしているのが若干気になる。
それから一緒に作業に取り掛かることにした。
朝霧さんの荷物はそんなになかったが、ベットの組み立てなどがあるため三人では時間がかかりそうだった。
といっても、異性のものをくちゃくちゃ見たり触ったりすることは出来ないので自分に出来ることは限られてくるんだが。
「湊斗くん、朝霧さんの着替えとか収納してる時にこっち来ちゃダメだからね」
「そんなことわかってますから」
案の定、小林先輩がいじってきたので、そんなことするまいという視線を小林先輩に送って睨んでおいたが効果はないようだった。
朝霧さんは自信満々に袖をたくし上げていて準備満々だ。
「それじゃ始めましょうか」
「始めよう!」
「湊斗くん、小林さんよろしくお願いします」
朝霧さんが律儀に頭を下げて引っ越し作業が開始となった。
☆☆☆☆☆☆
数時間後、作業が終わって女性陣たちが部屋から出てきた。
案の定、力仕事を主にしただけでほとんど作業に関わることはなかった。
それに加え「女子の部屋に入るのは禁制よ」とまるで自分の部屋かのように小林先輩に言われ、あんたの部屋じゃないだろと思いながらリビングで女性たちが楽しそうにおしゃべりしながら作業をしているの聞いているしかできなかった。
まぁ、普通の事なんだが少しもの寂しかっただけだ。
「いやぁー終わったぁ!姫奈ちゃんお疲れ様!」
「小林さんどうもありがとうございました。おかげでいい部屋になりました」
「いえいえ、いいのいいの。それより姫奈ちゃんはほんとおしゃれだね~!」
「え、あ、そんなことはないと思いますが……」
「ううん、本当におしゃれだよ!」
「ありがとうございます」
「湊斗くんも見てみてよ!いい部屋になったでしょ!」
異性の部屋を見るのはいかがなものかと思ったが、小林先輩が自慢げに言うし、朝霧さんの許可も取れたので部屋を見てみることにした。
中は想像していたピンク色だとかそういうザ・女の子の部屋みたいではなくて、シンプルな無地のものが目立ついかにも高校生らしいおしゃれな部屋だった。
窓から光が差し込んでいてキラキラと部屋の中を照らし綺麗さを際立てている。いかにも朝霧さんらしい部屋だ。
「いい部屋になりましたね。小林先輩の言う通りおしゃれで綺麗です」
「でしょ~!本当にいい部屋よね!憧れちゃうわ~」
「二人とも本当にありがとうございます……」
朝霧さんは褒められて、少し視線を下に下げつつ頬をほんのりピンクに染めて照れている。
こんなにもいい部屋が隣にできたので、見劣らないように自分の部屋もきちんと掃除していこうと自然と身が入る。
「もう湊斗くんの部屋に直結していて、いつでも行き来することができるね~」
「そうですね」
「でも好奇心で入っていっちゃダメよ~ここ境界線なんだから」
「分かってますよ……」
部屋のドアの所を指さして小林先輩が言うので、本当に一つの国でもできたような感じに思ってしまう。
それほどに、入るのには警戒するべき場所だと認識するにはちょうどいいのだが。
「湊斗くんは絶対にそういうことする人じゃないって分かってますから大丈夫ですよ……」
「ありがとうございます」
「あら、ちゃんと信頼されていてよかったね~」
朝霧さんはニコリと笑って言ってくれたが、少し恥ずかしそうにしていた。小林先輩は相変わらずジト目でニヤニヤしながらこちらを見てくる。
お昼過ぎから始めたのでもう夕方になっていた。外は冬なので真っ暗だ。
「あら、もうこんな時間。私仕事があるから帰るね~」
「分かりました」
そう言って玄関先で朝霧さんと一緒に小林先輩を見送ることにした。
「今日はありがとうございました。お茶も出せずにごめんなさい」
「いえいえ~そんなに気を使わなくても大丈夫よ。それじゃ二人とも健闘を祈りますぞぉ!」
「ありがとうございます」
そう言って、小林先輩は部屋を出て行った。
(最後まで相変わらず元気だったな)
そうして朝霧さんと二人きりになった。
本編の第一章はこの話を持って終了です。 次はいよいよ同居開始です!




