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11 女神様と引っ越しについて

「二人とも並んで座っちゃって、一体どうしたの?」


 小林先輩がきょとんと首を傾げてこちらを見ている。


 今日は朝霧さんと同居することに関しての手続きのことや注意事項などを色々と聞くために治安維持署に一緒に来ている。


 今は隣に朝霧さんが座っていて、机を挟んで前に隊長と藍住隊員が座っている。


 小林先輩はまだ同居することを知らないみたいだ。今から知らされることになると思うが、想像するだけで鳥肌が立ってくる。

 またああだこうだ言って自分のことをいじってくるんだろうが、できる限り気にせずにいこうと思う。

 きっと今まで見たことない以上に興奮して大変なことになると思うが……

 

 それはさておき、今の状況に少し緊張していてやけに落ち着かない。


 いい年した男性二人が正装で座っているのを前に、思春期の異性同士が二人きりで座ってるんだから、まるで市役所に何かの申請にきたカップルみたいな感覚だ。

 全く、こんな想像をしてしまう自分が情けない。


 別に異性に興味はないのだが、同級生で女神様と呼ばれるほどの美女と一緒に住むことになるのだから、思春期男子としての本能が少しばかり反応してしまうらしい。


 襲ったりしたいとかそういう卑猥なことをしたいわけじゃないが、普通に異性として意識してしまう。


 今日も、朝霧さんは私服で身なりを整えて大変おしゃれで綺麗な格好をしているので尚更(なおさら)だ。

  もうキラッキラッしちゃってる、ほんとに。

 

 女性慣れしていないのもあるかもしれないが、どちらにせよ今から親交を深めていく仲なので普通でいられるのは難しいことだった。


 当の朝霧さんも少しばかり頬を赤くして緊張してるんじゃないかと思う。こんなに緊張するのなら少しばかり自分のことも異性として見ていてほしいと思うが……


(んー)


 朝霧さんの方を見てみたが緊張している様子がまったくない。というか顔がニコっとしていて、一ミリも緊張していないみたいだ。


(なんでだ……)


 自分がちゃんと異性として見られていないのかとガッカリしそうになるが、勝手に決めつけるのはよくないし、そんなに深く気にすることでもない。


 ただ、いつもは頬を赤くして視線をずらしているイメージなので、今日の朝霧さんがどうして余裕がありそうに見えるのかよく分からない。


 同居することに期待しているのだろうか、いやそんなことはないか。

 どっちにしろ自分には分からないことだった。


「小林君はまだ知らなかったのかね。西園寺と朝霧さんは一緒に住むことになったんだよ」

「え!?噓でしょ!?湊斗くんマジなの?」

「そうですよ」


 小林先輩が今まで見たことがないくらいに目を見開いて驚く。


「えぇー!!!マジかぁー!」

 

 本当にありえないと思っているような顔をしているので、提案したのは小林先輩なのにと少し心の中であきれてしまう。


 小林先輩は脳内のアドレナリンが一気に放出されて、体の穴という穴から出ていっているんじゃないかと思うくらいに興奮している。


 予想通りの反応だった。


「えぇ、それって朝霧さんが決めたことなの?」

「え、あ、はい、そうです」


 小林先輩のテンションに押されたのか、さっきまではニコリと笑っていた朝霧さんの顔が急に赤くなる。

 さすがに自らが異性と同居することを決めたのかと聞かれると恥ずかしくなっちゃうよなぁと思う。 


 でも、朝霧さんは自分が決めたことに対して真剣に向き合ってくれていてちゃんと答えてくれた。


「へぇー!そうなんだね!いいじゃんいいじゃん!うちの湊斗くんは優しいから幸せにしてくれると思うよ~!」

「はい……」


 いや、なんだか褒められたのはとても嬉しかったのだが、幸せにしてくれるって結婚する前とかに言うんじゃないかと思ってしまう。

 実際に幸せにしたいとは思っているが、あくまで他人としてなのでそんな深い意味ではない。でも小林先輩の言い方だと非常にそう聞こえてしまう。


 こういう所が小林先輩の苦手なところというか、別にそのノリが好きな人もいそうなので悪いとまでは言わないんだけど。


 ついでに、朝霧さんがこっちを向いて顔を赤くしながらも微笑みかけてくるので心臓がドクンと跳ねる。


(ほんと心臓に悪い……)


 今のこのシチュエーションで女神様の微笑みなんて、さすがの自分にもくるものがある。


 体温が一気にあがって、頬がジーンと赤くなってきた。


「湊斗くんもよかったね!こんなにかわいい子が一緒に住んでくれるって言ってくれて最高じゃん!」

「そうですね」


 それはとてもそう思うんだけど。

 

 それから小林先輩の口が止まらずに会話が数十分続いた。


☆☆☆☆☆☆


「それで本題に入るんだが……」


 隊長がやれやれと少しあきれたように一息吐いて、こちらを見る。


「はい」


 朝霧さんは一緒のタイミングで返事をして、隊長の方を向いた。

 小林先輩のおぉ~息ぴったしじゃんみたいな視線を感じたがここは無視しておく。


「まずは引っ越しに関してだが、引っ越しの費用などは全額、治安維持隊で国の制度などを活用しながら負担する。普段の生活費なども同様にだ」

「ありがとうございます」

「うむ。書類関係も治安維持隊が担当するからそこは安心してくれ。次に西園寺と一緒に暮らすことについてだが、まずある程度の期限を定める」

「期限ですか?」


 朝霧さんは少し驚いたような顔をするが、自分はこの事を知っていた。


 長く一緒に暮らし続けるのも限度があるだろうとして、朝霧さんが社会的にちゃんと復帰できるようになって一人でも生活できるようになるまでにするのが自分の任務になった。


 だから一定期間だけ一緒に暮らすことになっている。


「そうだ。一応来年の三月までとする。そこで朝霧さんの気持ちを聞いて、一人暮らしや他の暮らし方が出来そうならそうしてもらえばいいし、まだそれじゃ無理というのなら西園寺と暮らし続ける選択肢でもいい」

「はい」


 今は、十一月の終わり頃だった。だから朝霧さんと同居するのは、四ヶ月ほどとなる。

 その期間で、朝霧さんに元の状態に戻ってもらえれば成功なのだ。


「朝霧さんとしてはどう思うかね?長かったらもっと短くしても良いんだが」

「いえ、それで大丈夫です。湊斗くんと一緒に暮らすのには何も心配していませんし」

「そうか。それならいい」


 朝霧さんがそう言うのなら安心した。もっと短い期間がいいと言われたらそれはそれでいいと思うのだけれど。


 心配されていないだけ十分だと思った。

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