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10 異性との関わり方について

「なにぼーっとしてるのかな、佐藤くん」

「なんだよ」


 昨日の出来事が中々頭から離れずに考え事をしていたら、伊織がいつもと違う気味の悪い口調で話しかけてきた。


 いつもはちゃんと正確な判断ができるように睡眠はしっかりと取るようにしているが、今日はあまり思うように眠れずに若干寝不足気味だ。


 もう朝霧さんと一緒に住むことが決まったようなもんなので、これからどうするかと色々と悩んでいたわけだ。


 おかげで授業に身が入らずにぼーっとしてるんだが。


「いつもと調子が違うと気が狂うんだが」

「別になんでもないよ。湊斗どうしたんだよ?」

「別になんでもない」

「なんでもないような雰囲気じゃないんだよな~朝霧さんとなんかあったのか?」

「なんもねぇよ」

「ほぉ~これは噓をついている湊斗くんですね」

「あのなぁ」

 

 ニヤニヤしながらこちらを見てくるのでいつも通りウザい。嘘をついている顔と言われ、どこで分かったんだと疑問に思ったがここは流しておくことにする。

 

 最近、伊織がやたらと朝霧さんとのことについて聞いてくるので、こちらとしては少し面倒だった。

 確かに有名な同級生の事だから気になるのは分からないわけではないが、あんまり聞かれるとこちらとしても困る。

 だから、朝霧さんが家に見学に来ることも言っていなかった。


「伊織に言ったら面倒だからパスで」

「なにぃそんなことないだろ。俺だって治安維持隊に入ってるんだからある程度のことは配慮するぞ」

「この前、大声をあげたじゃないか」

「それはすまないと思ってるから。あんなの誰だって急に言われたら声出して驚いちゃうだろう」

「まぁ、そうか……」

 

 いつもは面倒と思っていた朝霧さんの話も、今回の朝霧さんとのことについてはぶっちゃけ伊織とも相談がしたかった。なんせ、異性との経験がないためどうしていいのかさっぱり分からない。

 伊織は変装していない状態は容姿に優れていて、顔も整っているので中学生の時にそういう経験は何度かしたことがあるらしい。

 維持隊員としてそれなりの常識は持っているので秘密にもちゃんとしてくれると思う。


「声出さないから教えてよ」

「はぁ、耳貸せよ」

「ほい」


 自分としては自らが相談したいことだという感情が漏れないように素っ気なく振舞っておく。


 伊織は好奇心旺盛な子供のようにすぐに口元に耳を傾ける。


「朝霧さんと一緒に住むことになったんだよ」


 出来るだけ小声で周りに聞こえないように伊織に話した。

 伊織は固まったようにこちらを向いて驚いた顔をした。

 

(想像以上の顔だな)


 大声をあげなかったのは幸いだったが、何か未知の生物でも見た時のような顔をしている。


「内緒にしといてくれよ」

「それはしとくけどよ。え、お前どういうことだよ」

「まぁいろいろとあってだな、こうなったんだよ」

「同棲?」

「違う、同居だよ」


 変な方向に話を持っていこうとした伊織のほっぺたをつねっておく。もちろん人として好きだが、恋愛感情としては好きでも嫌いでもないので同棲ではない。


 伊織としては冗談で言ったんだろうけど。


「ひたたたた、冗談に決まってるだろ。お前が女神と付き合えるわけがない」

「なんだよその言いようは。もっとほっぺたつねるぞ」

「ごめんって、やめてくれ」

「まったく」

「それで、なんで同居することになったんだよ」

「朝霧さんがこれからを考えて行き場所がないからって俺と同居することを選んだんだよ」

「朝霧さんが決めたのか?」

「おん」

「ほぉー」


 何やら目を細めてまたニヤニヤし始めたのでまたつねってやろうと思ったが、ここはやめておくことにした。

 その気持ちは分からんでもないが、別に自分として異性と暮らすのは普通の男子高校生並みに興味はないし、変な感情が沸き起こってくるわけでもない。


 あくまで一緒に過ごしながら彼女をサポートするだけだ。


「それでだな、伊織」

「どうしたんだ?」 

「お前、異性との経験あるだろ?」

「おん」

「俺はそういう、女と関わった事がないから伊織に色々と相談にのってほしいんだ」

「おぉ、湊斗も彼女が作りたい時が来たのかぁ」

「違う」

「ふんじゃなんだよ」

「普通に女の子と接する時に気を付けることとか役立つことを教えてほしいんだよ」


 伊織が何だか自分をバカにするような目でこちらを見てくる。全く、こちらとしては真面目な話がしたいんだが。


「はぁ?んなもん普通に男子と関わるときと一緒でいいんだよ」 

「へ?なんかお前テキトーに言ってね?」

「言ってない」

「そんなもんなのか?」

「おん」

「気をつけることは?」

「生理だな。あと女は傷つきやすいからちゃんと守ってやんないといけない」

「なるほど」

「あぁ、あと一緒に住むんなら定期的に褒めてやったり、お祝い事とかはちゃんと祝ってやったりしないといけないぞ」

「ほぉ」


 ちょこちょこ茶化してくるのが面倒だし、伊織を見ていた感じテキトーに言っているように見えたが、なんとなくは真面目に考えてから話してくれているようだ。

 

 確かに女子は男子と違って女の子の日ってやつもあるし、ホルモンバランスが原因で気持ちが変わりやすいと聞いたこともある。

 そこは配慮しないとなと自分でも思う。


 褒めることも大切だと思うし、記念日なんかはちゃんと祝うつもりだ。朝霧さんの誕生日は三月だしそう遠くはない。


 さすがは伊織だなと感心したが、もっと気をつけることとかあるんじゃないかと心配になってくる。


「まぁ、湊斗はなんでもできるし俺として心配してないけどな」

「そうかよ」

「ああ。お前普通に優しいし、他の人が気づかないところもちゃんと気づける人だと思うぞ」

「そうか。ありがとう」

「おう」


 何だか褒められてしまって、照れているのを隠すために素っ気ない返事をしてしまったが、本当は嬉しかった。

 伊織は伊織で面倒なところもあるがこういうところもあっていいなと思う。馬鹿にされていても、本気で怒るようなことは言わないし、一緒にいて気が楽なのでいい奴だ。


「俺は朝霧さんが湊斗と暮らすならとてもいいと思うぞ」

「ありがとう」

「俺も朝霧さんとの関係をもつ一歩となるし」 

「俺を利用しようとしているのか?」

「まぁね」

 

(やれやれ)


 なんとなく朝霧さんとうまくやっていけそうな気がした。

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