09 おうち見学②と女神様の決意
同じ高校の同級生というのがバレた所で、その話はいったん落ち着き次の話題へと移った。
「湊斗くん、リビングで寝ているんですねぇ」
「はい。すぐに寝られるようにしているんですよ。まぁ部屋はすぐそこなんですけども、リビングの方が落ち着きますからそうしてます」
「そうなんですね。確かにその気持ち分かります」
(いや分かってくれるんだ)
真面目な性格の藍住隊員にとって、部屋があるのにリビングで寝てるなんて信じられないことなんじゃないか?と思ったが、意外と彼にとっては普通のことだと思っているらしい。
藍住隊員も自分の家に入るのは初めてなので、自分としては学校の先生を部屋にあげているなんて違和感の塊だ。
基本的に一つの部屋で過ごしていたいタイプなので、睡眠も食事も全部リビングで済ましている。
リビングが狭くなってしまうが、別になんとも思っていなかったし自分的には便利でいいと思っていた。
なので、リビングの横にある部屋は空き部屋となっている。だからもし朝霧さんと生活するようになればその空き部屋を使ってもらったらいいと思っている。
「それじゃ、そこの部屋は何の部屋なんですか?」
「今は荷物置き場ですかね」
「ほぉ。だったら、姫奈さんが一緒に住むようになったらそこが姫奈さんの部屋になると」
「まぁ、そうなりますね」
平然とした顔で藍住隊員は恥ずかしい事を言った。朝霧さんが一緒に暮らすことを前提に見学をしにきているので、そういう話がでてきてもおかしくないのだが、いざ言われてみると緊張してしまう。
というか、見学が始まった時から一緒に暮らすことを前提に見られていると思っていたのでその時点から緊張していたのは間違えではない。
朝霧さんも少し照れているのか、顔が少し赤くなっている。
実際に朝霧さんが来たらどうなるのだろう。ここにベットが来て、ここに着替えをいれるタンスがきて……
想像するだけで変な気分になる。むしろリビング兼自分の部屋に直結して同級生の女子の部屋があるというシチュエーションなんだかやばくないか。
「うちに来たらきたで、この部屋は自由に使ってもらったら大丈夫ですよ。荷物もたいしてありません」
「はい……」
「姫奈さんがここにきたらどんな部屋になるんでしょうかね。ここにベットでこう、カーテンの色とかも変えたりして女の子らしい部屋になるんでしょうか」
「藍住先生、まだ一緒に住むって決まったわけじゃないですから」
「すみません、つい気持ちが高ぶっちゃいました」
あははっと藍住隊員が笑うので、朝霧さんの顔がますます赤くなる。
自分も藍住隊員がこういう事言うんだなと思ってしまう。別に悪い事じゃないが、小林先輩に洗脳されてるんじゃないかと心配になってしまう。
普段はおおらかでいい人なので、そんな一面を見て複雑な気分になった。
☆☆☆☆☆☆
おうち見学もひと段落終わって、一服しようと二人をイスに座らせた。
マンションの周辺は、来る時にちょこちょこと二人で見てきたようなので大体は分かったそうなのだが、朝霧さんが今どんな気持ちなのかが気になる。
いろいろと見てきたわけだが、一般的な家庭の部屋とさほど変わりはないし特徴的なものも置いてないので刺激は少なかったろうから、住めるか住めないかが一番朝霧さんが見ていたところだろう。
学校からそう遠くはないし、駅もお店も歩いて行ける範囲にあるので不便な所ではないと思うが。
実際どう考えているのかは、朝霧さんを見ていても分からない。真剣で積極的に質問をしてくれていたので、真面目に考えているんだろうなというのは伝わってきたが。
「すみません、お茶とちょっとしたお菓子しかありませんけど」
「いえいえ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
朝霧さんと藍住隊員が並んで自分の反対側で座っている。
客人なので一緒に座らせた方がいいと思ったが、なんとなく二人と対面している上に今から大事な話をしようとしているので緊張してしまう。
ずるるるるる……
お茶を一口飲む。何だこの空気は。今にも飲み込まれそうな変な空気。
「あの~、どうでしたか?」
何だか畏まってしまって、普段より控えめな声で話してしまう。気持ち悪いと思われてないか心配だ。
「え、あ、はい、そうですね、すごくいい部屋だなぁと」
「それはありがとうございます」
朝霧さんも緊張しているのか、少しだけ声が震えている。
「私も湊斗くんの部屋はすごくいいと思いましたよ。清潔で暮らしやすそうだなと思いました」
「藍住先生までありがとうございます」
「すぐに一緒に住むかどうかは決められないと思うので、またじっくり考えて決めてもらえればいいと思いますよ」
「いえ、私決めました」
「へ?」
自分も藍住隊員もポカンとしたように朝霧さんを見る。
(え、今なんて言ったの彼女。決めたっていったの?へ?)
予想外の回答に驚きを隠せない。こんな短時間でちゃんと決まったのだろうか。
いろいろ思うことはあるが、朝霧さんの続きを聞く。
朝霧さんは真剣な顔をして自分と視線を合わせる。
「湊斗くん……」
「はい」
「私をここに住ませてください」
「あ、」
予想だにしなかった言葉に、口から呆けた声がでてしまう。
こんなにも緊張して驚いたのはいつぶりだろうか、いや生まれてから一回もないかもしれない。こんな経験、後にはもうないだろう。
朝霧さんがここに住みたいと本当に言ったのか半信半疑になってしまう。こんなに早く決めていいものなのか?
藍住隊員も、驚きの回答に目を見開いている。それはそうだろう。
「う、うそじゃないですよ。ちゃんと考えて決めましたから」
「あぁ、朝霧さんのことなので簡単に言っているようには思いませんでしたが、本当にそれでいいんですか?決めるのにはまだ早いと思いますが」
「いいです。これがいいんです。湊斗くんは嫌ですか?」
「いや、全然嫌なんてことはないです」
今にも泣き出しそうな瞳で見つめられながら言われたので、さすがに嫌だなんて言えなかった。別に嫌なんて一ミリも思っていなかったが、おねだりの顔が反則だ。
藍住隊員も理解したらしく、「姫奈さんがそう言うのならそれがいい」と言ってちゃんと同意している。
正直実感が湧かないが、朝霧さんははっきりと言ったし言ったこともちゃんと覚えているので間違えない。
(これからどうなるのやら……)
こうして、朝霧さんのおうち見学が終わった。




