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08 おうち見学①

 そして例の日曜日になった。今日は藍住隊員と朝霧さんが家に来る日だ。


 事前に藍住隊員が朝霧さんを病院まで迎えに行ってくれているので、自分は家で二人が来るのを待つだけだ。


 今日の為に部屋の掃除や片付けなど色々と準備をしてきた。

 まず、部屋全体に掃除機をかけて隅々まで確認し、必要に応じてホコリをモップで拭き取り、カーテンや布団などの洗えるものは洗濯機にぶちこみ、窓やキッチンは、雑巾で吹いてペーパーで光沢が生まれるまでピカピカに磨き上げた。

 

 あとは家具や物の位置を少しだけ変えた。少しでも見栄えが良くなるように慎重に考えて、不自然にならないよう自分なりに工夫したつもりだ。


 なんだか前とはだいぶ違ってしまっていて半分詐欺みたいなところは色々とあるが、あまり悪い雰囲気を朝霧さんに持ってほしくないという思いが勝ってしまった。


 昔、祖母が一人で何でも出来るように自分の事を鍛えあげてくれたので、家事全般は人並みに出来る。だから今回の掃除も難なくこなせた。


 集合は午後14時。昼ごはんを食べてからの方がいいだろうとなり、そうなった。


 今日は休日で何もない日だが、なんとなく朝霧さんに私服を見せるのが恥ずかしかったのでいつも来ている治安維持隊の制服を着ている。

 それもあってか今日は妙に自分の家なのに落ち着かない。


(ふぅ、)


 そんなことで、椅子でソワソワしながら待っていたらピンポーンとインターフォンがなった。


「はーい」

「どうも、藍住です。姫奈さんも連れてきましたよ」

「分かりました。少しお待ち下さい」


 ガチャリ、


「ようこそおいでくださいました。どうぞ中へ入ってください」

「こんにちは、湊斗くん」

「こんにちは、朝霧さん。どうぞ遠慮せず中に入ってください」

「ありがとうございます。お邪魔します」


 そう言って、朝霧さんと藍住隊員を中に招き入れた。


 気になったのは藍住隊員は自分と同じ治安維持隊の制服を着ているのだが、朝霧さんの服装がいつもと違っていた。


 今日は私服だ。いつもは病衣を着ているため、朝霧さんの私服なんて見たことがなかったので、なんだか新鮮だ。

 赤色のベレー帽を頭につけ、上は白いニット、下は黒いロングスカートだ。


 もちろん似合っている。元々スタイルが良いし、というか元の素材自体が恵まれているので何を着ても似合うと思うが、彼女のファッションセンスもいいと思った。(特にベレー帽がいい……)


「今日は私服ですね。とても似合っていていいですね」

「ありがとうございます。外まで病服はさすがに困りますからね」

「そうですね」


 うふふと笑いながら、朝霧さんは自分の部屋を見渡し始めた。

 

 今いるのはリビングだ。

 自分の部屋は一般的な1LDKの部屋で、玄関を入ると廊下があり左側にお風呂やトイレが並んでいる。


 奥に行くとリビングがあって、その隣に一部屋だけ洋室がある。


「すごく綺麗にされているのですね」

「あ、まぁ恥ずかしくない程度には」

「素敵です」

「湊斗くんは何でもできますからね。男子高校生一人暮らしの部屋とは到底思えませんね」

「ありがとうございます」

 

 見学早々二人に褒められて、頑張って準備したかいがあったなぁと、とても嬉しい気持ちになった。あまり私生活のことで褒められることはなかったので、なんとなく恥ずかしさもある。


 さすがに朝霧さんと藍住隊員が来るので整理整頓しておきましただなんてドストレートなことは言えないので黙っておくことにしたが。


 と、朝霧さんが何か発見したように目を見開いて、「え!?」と声を出す。

 視線の先にはいつも着ている高校の制服がある。


「私が通っている高校の制服……もしかして湊斗くんって同じ高校なのですか?」

「そうですよ」


 朝霧さんは驚いたようにこちらを見ている。

 それもそうだろう、彼女に同じ高校に通っていることは一度も言ったことがなかった。高校では苗字を変えて目立たないようにしているし、同じ学校に通っている事なんて知らなかっただろう。


 だからそのことが言えずにモヤモヤとしていたので、リビングに堂々と掛けておいて朝霧さんが発見できるようにしておいた。

 普段は治安維持隊に所属していることを隠しているが朝霧さんにはバレてしまったし、今後黙っておいても得な事はないだろうと思ったからだ。


 朝霧さんはちゃんとしているし、自分の秘密も守ってくれると思うので心配はしていない。

 だから、自分にとっては見つかっても大丈夫だった。


「そうだったのですか。それなら早く言ってくれればよかったのに」

「それはそうだったのですが、言うタイミングがつかめなくてどうしようか悩んでいたんです」

「なるほど……何組なんですか?」

「六組です」

「それじゃ、一緒の階じゃありませんね。って藍住隊員も湊斗くんと私が一緒の高校だったことを知っていたんですか?」

「あぁ、知ってましたよ。湊斗くんは治安維持隊に入っていることが知られてはいけないので黙っていたんですが、こうなれば知らせておいてもよかったですね」

「そうだったんですか」


 今気づいたのだが、今まで周りに秘密にしていたことを話すぐらいには自分の事を話していて、もう一緒に暮らすだろうみたいな感じになってしまっているんじゃないかと思って焦っている。

 もちろん、そんなつもりで制服を見せびらかすように掛けておいたわけではないし、むしろ今気づいたので、あの時もう少し考えればよかったと思う。


「どうして、治安維持隊に入っていることがバレてはいけないのですか」

「まぁいろいろと事情がありましてですね……この事は絶対に秘密にしておいてください」

「分かりました。こんなに普段普通に生活していてバレることはないのですか?」

「いろいろと学校では工夫してますので」

「確かに湊斗くん高校で見たことありません。階が違っていても、廊下などで見かけることはありえると思うのですが。一体どんな工夫をしているんですか?」

「それは、高校にまた通いだしてからのお楽しみで」

「どうしてですか」


 気になったのかやたらと真剣な顔をして質問攻めをしてくる。

 まぁ一緒に暮らすことを前提にしておうち見学させてもらっている人が同じ高校の同級生だったら気になるのも無理はないだろう。


 朝霧さんは高校では有名な人らしいので、探しにきて目立つようになったらそれはそれでいけないが。

 そのことはまた彼女が高校に通い始めてから言えばいいだろう。というか、苗字変えているし顔も変えているので黙っていればバレることはないと思うが。


 なんとなく朝霧さんに同じ高校と知られて距離が近づいたように思えた。

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