ヤバいエルフが来た!!
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「金貨、貸してください !!!」
「はっ…?」
迷宮の守護者であるミノタウロスは唖然とした。銀髪のエルフの少女がサーベルを投げ捨て、土下座をする。
「いや、待て。俺と闘って倒し、財宝を持っていけばいいではないか ?」
「私があなたに勝てると思いますか!!?
パーティーすら組んでもらえないダメ冒険者ですよ!!?
ここまで来るのも大変だったんですよ!!?」
「知らんわ!!」
確かにこのエルフは、ここまで一人で到達している。
ならば、それなりの実力者であると戦斧を身構えていたが、話を聞く限り、迷宮にいる魔物から身体強化の魔法を使い、逃げてここまで来たというのだ。既に体力も魔力も限界まで使い切っている様だった。
「お願いします!!必ず返しますから!!!
何ならここで身体で返しますから!!!
エルフなんてピーーーされてナンボの種族ですし、おっぱいは小さいですけど…脱ぎますよ!?」
「他のエルフに謝れ!!!
お前、ここに何にしきたのだ!!?脱ぐな!!
バカ!!」
余りにも必死に懇願し、同族を愚弄した挙げ句、服まで脱ごうとしてして金貨を借りようとするエルフに嫌気が差し溜め息を付いた。
戦闘種族であるミノタウロスは闘いこそが嗜好である。相手にするのが面倒になり、自らが守護している財宝に手付け、エルフの前に放り投げた。
「闘う気がないならそれをもって出ていけ…俺は弱者をいたぶる趣味はない。
ミノタウロスの誇りは強者と闘い、己を鍛える事…」
「話のわかるミノタウロスでよかった!
ありがとう~!!」
金貨を渡した瞬間、軽口をいい地面に散らばった金貨を拾い集め、エルフは来た道を戻っていってしまった。しかし、最深部まで来るまでも大変だったと言っていたが、地上まで持つのか疑問ではあった。
「出口、何処なのぉ~…」
エルフがクタクタに疲れた様子で泣きながら戻ってきた。
金貨を渡して、地上まで戻る最中に魔物に襲われてくれれば好都合だと思っていた。
このエルフはもっていたサーベルで魔物と戦闘し、ここまで戻ってきた様だった。
実力はあるのは認めようと一度は考えたが、余りの泣きっぷりに鳴き声が迷宮内に鳴り響きその評価は間違いだと認識した。
「うぅ…私なんでこんなダメなのかぁ…迷宮のボスに土下座して身体まで売ろうとしたのに…
あ、私、リザーナっていいます」
「…迷宮の守護者に金貨借りて、
挙げ句、帰り道が解らず戻ってきたのはお前が初めてたぞ…」
迷宮の壁を背にいじけた様子で膝を抱え蹲っていた。ここまで来るともう戦う気にもなれず、ミノタウロスも側に腰を降ろした。迷宮の守護者として生まれ、冒険者とは幾度となく闘った。
だが、こうして言葉を交わすことは無かった。
「…で、リザーナよ。どうするつもりだ…?」
「ピーーーされてもいいから、泊めて下さい…!!!」
「ここでそんな事する暇があるなら、地上で借金を返せ…そっちのが手っ取り早いだろう?」
ミノタウロスにそう言われるとリザーナはエルフである自分にそんな価値は無いと言うのだ。
森人であるエルフはある一定の種族のみと交流があり、人族や獣人族から毛嫌いされており、誰も彼女と親しくしようとはしないそうだ。
街で暮らすにしても金は必須の為、冒険者として働いてはいるが稼ぎが足りず、借金をし、この迷宮の財宝を目当てに攻略しに来たのだ。
「エルフの冒険者も何度が来たが、ここまで酷いエルフはお前が始めてだ…」
「アハハッだと思う!
私、里から追放されたからね!」
そんな事を自慢するなと呆れた口調で話すと、リザーナは外に出るにはどうしたらいいか尋ねた。ミノタウロスはここから出たことがない。この迷宮の守護者として財宝を護る事が使命である。ここから出て、外に出る等、生まれて一度たりとも考えた事がない。
「俺が知るか…ここの守護者が外に出たら誰が…」
「でも金貨くれたじゃん?
これって、守護者としても義務、果たしてないんじゃない?」
渡した金貨を見せる。
そう言われると、確かにその通りであった。 財宝の守護者として冒険者と闘っていたが、そもそも、魔物であるミノタウロスが財宝を守護する必要が何処にあるのであろうか。
食い物は迷宮に住み着いた魔物、飲み水は壁から沸き出た地下水を飲んでいる。財宝は人に取って価値があり、魔物からしてみれば、護るほどの価値は無い。
自らの意志で護っていたのでは無く、【誰か】に護るよう頼まれた筈だ。それが誰だったのかミノタウロスは覚えていない。
「…俺もバカなのかもしれないな…
価値の解らんモノを護り闘い、ここしか知らん。
お前の事をバカにできんな…」
「そんな事はないよ。いや、待てよ…」
リザーナは考え込む様に口元を手で覆った。そして閃いたように飛び切りの笑顔を向けていた。
「ミノタウロスさん、私を養う為に仲間になりませんか!?」
「……は?」
思わず声を出してしまった。迷宮の守護者であるミノタウロスに養ってもらう冒険者など聞いたことがない。例え上級の魔物使い相手でも抗う事ができる力があるミノタウロスをただの口頭のみで仲間にしようというのだ。
「ここで挑戦者を待つよりも外に出て、自分よりも
強い魔物と闘えばいいじゃん?
なら、あの金貨を使って私を養う事ぐらいできるでしょ!?」
「本当とんでもねぇエルフだな…」
-だが、この話自体は悪いものではない。
財宝を守護する理由もここに留まる意味もない。それならばこのリザーナについていき、闘いに明け暮れた方が面白そうだ。
襲ってる冒険者がいつ来るかも解らず、ただここで鍛練の為に戦斧を振り回し、時折挑みにくる冒険者や魔物だけでは物足りない。
ミノタウロスはリザーナの話を受け入れ、生まれて初めて迷宮の外へ出ようと決心したが、その相手は既に眠りこけていた。起きたら伝えてやろう。
そうしてミノタウロスも眠りについていった。
初投稿になります。ここはこうした方がいい等、コメント貰えたら嬉しいです。