第92話 捕縛
王都への帰りは、馬車ではなく二台の魔道車に乗っての移動となっていた。
しかもいろいろあって、勇者パーティと同行している。
今ロキたちが分乗している二台の魔道車は小型バス程度の大きさのもので、王都で走っている一般的な四人乗りの魔道車よりもずいぶん大きい。どちらも勇者パーティが荷物を運べるように手配していたものだ。
一台には聖女レオーネが瞑想しながら結界を張り聖鍵を守っている。レオンは何かあった時の護衛のためにレオーネと同乗した。結界が解けたとしてもレオンがいればどんな魔物でも対処できるだろう。同じ魔道車にアルマと勇者パーティーのピートが乗っていた。
そしてロキはいろいろと話を聞くために、勇者パーティのバカラが乗っているもう一台の方の魔道車に同乗している。こちらの魔道車には他にココロとアポロ、そして手足を縛られ動けなくなっている勇者も乗っている。
最新の魔道車は馬車よりもずいぶん揺れが少ない。だがそれでもガタガタと揺れる車内の中で、ロキは暴れ出す寸前で勇者を止めたバカラに対し感謝の意を述べた。
「あんたのおかげで被害が出ずに助かったぜ。あんたは勇者側の人間だと思ってたけど、違ってたんだな」
勇者はバカラによって、女神の祝福を封印する結界の首輪を首につけられてその力を使えなくされていた。
言われたバカラは少し難しい顔をしながら答える。
「いや、決してそう言うわけではない。勇者様があそこで乱暴を働こうとしなければ、私たちは勇者様の部下として忠実に働いていた」
そう言うバカラの事を、勇者は恨めしそうに睨んでいる。
「だが私たちは、王国の平和を守る騎士団の人間だ。いくら勇者様と言えど、王国の法律に違反する行為を取った以上、こうするしかなかったのだ」
そうは言っても、勇者には元々問題行為が多かった。こうなる可能性はあると考え、あらかじめ封印の首輪を持たされていたのだろう。
手足を縛られて身動きの取れない勇者は、二人に殺気に満ちた視線を送りながら「殺す」とブツブツとつぶやき続けていた。
さすがにそんな勇者にいらだちを抑えきれなかったロキは、勇者に向かって睨み返す。
「お前今の状況分かってんのか?俺がその気ならお前をいつでも殺すことができるんだぞ?こっちはおまえがレオンを死刑にさせようとしたことを許してないからな?あ?」
そうしてロキに脅された勇者は、さすがに状況が悪いことを理解したのかつぶやくのを止めた。だがその視線に込められた殺気は消えていない。
「ロキさん、暴力は止めてくださいよ。あなたまで捕らえなくてはならなくなる。私たちは決してあなたがたの味方というわけではなく、王国の平和を守る立場なのですから。勇者様の罪は、裁判で裁いてもらいます」
「分かってるよ。だけどあれだな。今回の迷宮踏破の報酬は、勇者の資格はく奪を求めるつもりだったんだけど、その必要もなさそうだな。国王陛下もこいつの素行の悪さに悩んでたから、俺から頼むまでもないだろうな」
「それでしょうね」
「ところで、ルナさん……聖女は大丈夫なのか?ずっと結界を張るのは大変そうだけど」
「ええ、とても大変なことだとは思います。ですがこれまでもこうして聖鍵を運搬してきましたので、大丈夫でしょう」
「いろいろ話したいことがあったんだけど、王都に戻ってからにするしかないか。それにしても聖女って大変な仕事だよな」
「そうですね」
「踏破報酬は、聖女の待遇改善を求めるかな……」
★★★★★★★★
一方その頃、ロキたちと一緒に王都へ行けなかったアポカリプソンは、ブルームポートのギルド長室の中で一人で椅子に座っていた。
落ち着いているようで、その内心はひどく焦っていた。
本来迷宮踏破されたギルドのギルド長であれば、踏破した探索者たちと一緒に王都へ招待され褒美を与えられる。
だがアポカリプソンは踏破したロキたちと敵対し足を引っ張ることしかしておらず、逆にロキから罰を与えると宣言されている。
アポカリプソンが協力していた勇者は騎士団によって犯罪者として捕らえられ、もはやアポカリプソンの立場は風前の灯火だ。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
これまで築いてきた立場や権力が、ロキたちのせいで一瞬で失われてしまう。
アポカリプソンのの心の中には反省の気持ちは一切なく、ロキに対する逆恨みでいっぱいだった。
一念発起したアポカリプソンは、魔道通信機を手に取る。
その通信先は王都だった。
「もしもし……私は、ブルームポートの迷宮探索者ギルド長アポカリプソンだ。神殿の大司祭へと繋いでほしい……」
★★★★★★★★
ロキたちの魔道車の行き先に王都外壁が見えてくると、辺りにはロキたちが初めて王都に来た時に郊外で土竜と戦った跡がまだ残っているのも見えた。
さすがに土竜の死体は片付けられているが、えぐられた地面に空いた大穴や飛び散った岩石などが散乱している。
このままでは危険なため今後片付けられることになるだろうが、ロキはその光景を見て王都に初めて来た時を思い出していた。
それほど前のことではないが、ひどく懐かしい気持ちになる。
王都外壁に近づくと、城門にいる衛兵たちの姿が目に入る。
その制服もやはり以前と変わらず、そしてロキたちの乗る二台の魔道車が停車すると駆け寄ってきた者も懐かしい顔ぶれだった。
その魔法使いでもある衛兵の女性の顔を見て、魔道車から降りたロキはなんとか思い出そうとする。
「あんたは……確か王国の魔法の団体の……」
「お久しぶりです、大魔法使いロキ様。王国軍魔法師団長、エフェリーネです」
「そうそうそれ!」
ロキに続き他の仲間たちも続々と魔道車から降りてくる。
王都に入るためには全員の身元確認と荷物の確認をしなければならないためだ。
「ロキ様、再びお会いできて光栄です。そして此度の迷宮踏破ご苦労様でした。いろいろお話を聞かせいただきたいのですが、皆様には今すぐ神殿本部へ出頭してもらい、神前裁判を受けてもらわないといけなくなりました」
「ああ、それだけ事態は急いでるんだな」
ロキは後ろにいる、バカラに連れられて魔道車から降りてきた勇者の方を見た。
「お前もついに年貢の納め時だな」
勇者がロキを睨み返すと、エフェリーネは困惑した顔でロキに声をかけた。
「違うのです。被告人はロキ様なのです」
「はぁ?被告人って、裁判対象ってことだろ?俺?」
「そうです……」
「なんでや?」
「神殿からロキさんが訴えられたんです!」
エフェリーネの後ろにいた衛兵たちがロキを取り囲み、そしてその両手に手錠をかけた。
ロキは思いがけない出来事になすすべもなく従っていた。
「こっちだ」
そう言われて連れ去られていくロキを、仲間たちは困惑しながら見送る。
「なんでや~?!」
ロキの気の抜けた叫びがこだましていた。




