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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
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第87話 45階層ボス戦とギルド内でのごたごた

 奇岩扉が崩れ去った後、扉の向こうの部屋へと続く道が現れた。

 ロキたちはその部屋へと足を踏み入れる。その部屋の中央には、3m四方くらいの大きさの樽型の岩がポツンと存在していた。

 五人全員が部屋の中に入ると、先ほどまで奇岩扉があった部屋の入口が突然現れた扉によって再び閉じられ、五人は部屋の中へと閉じ込められた。


「もしかして……」


 すると部屋の中央にある岩の上部からは岩でできた人型の上半身がニョキニョキと生え、岩の中央部には大きな顔の形状が現れた。


「ボス部屋か!」


 すぐに五人は戦闘態勢に入る。

 アルマとココロを守るようにアポロが身構え、アルマは三人を覆うような大きさで結界を展開する。

 レオンは敵に向かって突進し、その後ろでロキは魔法を唱えた。


「≪火炎槍(ファイヤーランス)≫!」


 ロキの放った炎の槍は、猛スピードでレオンを追い越してボスへとさく裂する。

 ボン!という音と共に煙が上がる。煙が消えるか消えないかのタイミングでレオンがボスへと接近し、拳を振り下ろした。

 レオンのパンチを受け、巨大な岩は後方へと弾き飛ばされる。

 ロキとレオンの攻撃を受けたボスは、中央の大きな顔の上にさらに人間と同じサイズの八つの顔が浮き上がると、上部の上半身の顔を含めた合計十個のすべての顔の目が見開かれた。


「十面岩とでも呼ぶか?」


 その外見にロキが思わず名付ける。

 通常未知の魔物を発見した際、最初に見つけた者がその名前を付ける。

 今回の45階層ボスについては、先に鉄壁パーティが遭遇しているのだが、鉄壁パーティは勇者との約束という名目で迷宮探索情報を秘匿していた。

 本来ギルドに迷宮探索情報を報告する義務があるのだが、面倒な40台階層の探索を鉄壁パーティに依頼をしている勇者が他のパーティに先行されるのを嫌がり、勇者という名前において特権を行使し、鉄壁パーティの探索情報を秘匿させたのだ。

 そのため現在45階層の途中からの迷宮の情報はギルドにないため、この後帰還して報告すればロキが名付けた名前が登録されることだろう。

 本来迷宮探索最前線の情報はギルドに報告することによって共有され、後に続く探索者たちの探索を進めやすくさせるのだが、鉄壁パーティが45階層以降の情報を隠していることによって後を追う者たちは最前線の探索をするのと同じように何の情報もなく探索を進めなくてはならなくなっていた。

 だがこれくらいのレベルの階層ならロキたちには情報がなくても大した問題ではなかった。

 迷宮都市では途中から最前線探索者となったため、何の情報もない最深部の探索をするのにも慣れていたからだ。


 45階層のボス、十面岩との戦いも、難なく進んでいた。

 ロキが弱点属性を探すためにいろいろな魔法を放って様子を見、レオンはその魔法攻撃の合間を縫って打撃を繰り返す。

 十面岩は口から炎を吐いたりジャンプして圧殺しようとしたり、上半身の腕からは魔法の矢を放って攻撃をしてきたが、レオンもロキもその全ての攻撃を難なく交わしながら攻撃を続けていた。

 そして一定のダメージを与えた時、突然十面岩の全身が真っ赤になり、すべての顔が怒りの形相へと変化した。


「第二形態か……」


 こうなると魔物の戦闘力が増し、それまで以上の激しい戦いとなるのがセオリーだ。

 だが、ロキとレオンにとって十面岩の第二形態であろうとも、その戦闘は作業でしかなかった。

 口から吐く炎が至近距離だけでなく遠距離まで届くようになり、放つ魔法の矢の本数も増えたが、迷宮都市において100階層すべてを踏破したロキたちにとっては、これくらいの階層のボスは敵ではなかった。

 およそ一時間弱の戦いを終え、十面岩は魔石へと姿を変えた。

 ロキは魔力回復のために何度かアルマのヒールを受けたが、レオンにおいては怪我どころか獣化するまでもなかった。


 通常一週間ほど寝泊まりして1階層を攻略する迷路階層である40台階層の一つ45階層を、結果的にロキたちは一日で攻略した。

 それでもボス戦を終えたころには、地上では夕方になろうという時間だった。

 ロキたちは一度46階層へと足を踏み入れた後、地上のギルドへと戻った。


★★★★★★★★


「いやー、久しぶりに体を動かしたって感じがするな!」


「私たちは久しぶりに歩いただけですけどね」


 ロキの呟きにアルマが笑いながら答える。


「何を言ってるロキ、体を動かしていたのはほとんどレオンだろう」


「でもみんなで探索するの楽しいね!」


 アポロがロキに突っ込み、ココロは楽しそうにニコニコしていた。

 そんな仲間たちの緩い雰囲気に連れられ、レオンも思わず笑みがこぼれる。

 そうして5人が受付に今日の探索の報告に行こうとした時、ばったりと彼らと顔を合わせてしまった。


「なんでてめえらがここにいるんだ?!」


 その声でにこやかなロキたちの雰囲気が一変する。

 緊張に包まれ厳しい表情になったロキたちの視線の先には、勇者ダイジローがいた。

 そんな勇者の声に、勇者パーティーの仲間たちもロキたちの存在に気づく。

 そしてその中の一人、聖女レオーネも驚きの表情でロキを見つめていた。


「俺たちは迷宮探索者だ。迷宮を探索しに来たに決まっているだろう」


 勇者に対しロキがそう答えると、勇者の視線はレオンに移る。


「何をしに来た?なぜ牢屋に入ってるはずの貴様がここにいる?俺の命を狙いに来たのか?」


「レオンが牢に入れられたのは冤罪だ。俺たちの目的はおまえなんかの命じゃない。この迷宮の探索だと言ったろう」


「ああ?今すぐここで殺してやろうか?」


 そう言って勇者は迷わず聖剣を抜く。

 先ほどから言い争いをしている二人に、何事かと見守っていたギルド内の者たちからざわつきが起こる。


「正当な理由もなく誰かを殺したら、例え貴族だろうが勇者だろうが、この国の法律では殺人罪だぞ。そんなことは子供でも知ってるだろう?」


「ふざけるな!」


 怒りの形相の勇者に対し、その聖剣に臆することなく睨み返すロキ。

 今にも始まりそうな戦いに、ギルド内には緊張感が漂っていた。

 そこに状況も知らずに、一人の男が現れた。


「おおこれは勇者様!本日も探索お疲れさまでした!むむ?勇者様、彼らと知り合いでしたか?」


 その声の主はこのギルドのギルド長、小太りのアポカリプソンだ。

 だが近づいてきて様子がおかしいことに気づく。


「どうかされましたか?」


「ふん!」


 興が醒めたのか、勇者は剣を腰の鞘へと納めた。

 その雰囲気に、ギルド長も気軽に話しかけていけない雰囲気を察する。

 そして勇者はロキたちにこう告げた。


「やはりこの迷宮を踏破した報酬は、貴様らを処刑してもらうことにする」


 そんな勇者の考えをある程度予測していたロキたちは、そこまで驚くほどではなかったが、その言葉を聞いて誰よりも動揺したのは今は勇者パーティーの一員である聖女レオーネだった。


「そんな。勇者様、迷宮踏破の報酬は、王位継承権と王国軍司令官の地位では?」


「はあ?何言ってやがる、それは前回の話だ。もうそんなもんには興味ねえし、欲しけりゃ4つ目の迷宮も探索すりゃあいい。そんなことより目障りなこいつらに死んでもらうことの方が先決なんだよ」


 勇者のその言葉を聞いたレオーネは絶句する。

 そしてまだ状況が呑み込めていないギルド長が勇者へと質問する。


「勇者様。勇者様と彼らは敵同士なのですか?」


「当たり前だろう。こいつらこそ俺が今一番殺したいやつらだよ!」


「なんと……。ロキと言ったな、貴様私を騙したな!」


「だましたって何だよ!」


「ギルド本部からの連絡も嘘なのだろう!ギルド本部が勇者様と敵対しているおまえたちに肩入れするわけがない」


「嘘じゃねえよ!迷宮探索者ギルド本部は俺たち寄りってことだよ!」


 そう言ったロキの言葉を聞き、勇者はギルド長の肩に腕を回し、ギルド長へと囁く。


「だとしたらギルド本部は許せないな。この迷宮を踏破した後に大幅な人事変更をさせる必要がありそうだ。ところでギルド長、おまえはどっち側に付くんだ?」


 究極の選択を求められ、アポカリプソンの額から一筋の汗が流れ落ちる。

 ロキたちが言うことが正しいのであれば、職務上ロキたちに協力し、勇者とは敵対関係になる選択をするべきだ。

 だが勇者が言うには、勇者がこの迷宮を踏破した後にロキたちに協力したギルド本部職員たちは左遷され、大幅な人事異動が起こりうる。その時勇者に協力的な者ほど出世することに間違いはない。

 瞬時に理解したアポカリプソンは口角を上げて勇者の質問に答えた。


「それはもちろん勇者様に協力させていただくにきまっています!このような昨日今日ここに現れた野良探索者など、クソみたいなものですよ!ハハハハハ!」


「あっ、言ったなてめえ!」


 コロコロと手の平を返すアポカリプソンに対し、ロキは苛立つ。

 だが勇者はまんざらでもない顔をして、怒るロキへと告げた。


「おまえたちに協力するやつらなんか、片っ端から潰してやるよ!この勇者様の権力を舐めんなよ!」


「何が勇者様だてめえこのやろう!この迷宮は俺たちが先に踏破して、お前の権力を全て奪ってやるよ!」


「は?」


 ロキの言葉を聞いて勇者は一瞬驚いた顔をするが、その表情はすぐに爆笑に変わった。


「ハハハハハハハハ!俺たちよりも先にこの迷宮を踏破する?できるわけないだろうが!お前たち今何階層だ?俺たちは今55階層なんだぞ!」


 思いの他進んでいるなと嫌な気持ちになったロキが答えるよりも先に、アポカリプソンが勇者へと答える。


「この者たちは今日45階層へとキャリーしてもらったところでございます!」


 アポカリプソンは、たった今ロキたちが45階層を突破したことを知らない。


「45?鉄壁のやつらにはキャリーしてもらえなかったのか?」


「ええ、ええ。彼らは勇者様との契約を優先しておりますので」


「45か。残念だったな。迷路階層は俺たちですら1階層突破するのに1週間はかかる。おまえたちがいくらがんばっても46階層にたどり着く前に俺たちがこの迷宮を踏破してるぜ!ハハハハ!」


「あ?どういう計算だよ!俺たちだって一つの迷宮を踏破してるだぞ」


「まあ時間があればお前たちでもこの迷宮を踏破できたのかもな。だがな、この迷宮は60階層までしかない。この迷宮を知り尽くしてる俺たちはあと1週間もかからずに踏破する予定なんだよ!お前たちが間に合うわけがないだろうが!ハ~ッハッハッハ!」


「60階層?!」


 ロキは知らなかった。ロキたちが踏破した迷宮は100階層まであったため、この世界のすべての迷宮が同じであろうと思っていたのだ。

 そして単純に計算して気づく。勇者たちは一日で一階層突破するつもりでいる。つまり後6日。ロキたちがいくら頑張っても46階層から50階層までの迷路階層は一日一階層しか突破できない。それで5日。残り10階層がどんな階層なのかは知らないが、10階層を一日で突破するのはまず不可能だ。


「おいどうした?顔色が悪いな。体調が悪いなら迷宮探索を止めて帰ったらどうだ?だがどこへ逃げてもお前たちへの処刑命令は絶対だがな!ヒャーッハッハッ!」


 満悦の勇者はさらに一オクターブ高い笑い声になり、そして先に迷宮を踏破するのが困難なことを悟ったロキの顔は、みるみると青ざめていった。

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