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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
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第83話 迷宮へ

 打ち合わせを終えてロキが宿舎に戻ると、なにやら騒がしい。何かと思えばココロの泣き叫ぶ声が響いていた。

 ロキは騒音の出どころであるココロの部屋へと向かった。


「アポロのばーかー!わーん!」


「どうしたんだ一体?」


「あっ、ロキさんおかえりなさい」


 ココロの部屋では泣きわめくココロと、心配するアルマ、困惑するアポロがいた。

 アポロは何やら奇妙な人形のようなものを抱えている。


「わーん!」


「姫様、な、泣かないでください!」


「アポロ、何だその趣味の悪い人形は?」


 趣味が悪いとロキが言うのは、その人形はロキからしたら少し不気味なくらい個性的だったためだ。

 藁を編んで作られているぼさぼさの髪は荒々しく、意思の感じられないボタンが縫い付けられている目は不気味さが漂い、顔の下部は横一文字に縫い付けて口を表現しているのだろうがまるで口が裂けているかのようでちょっと怖い。


「こ、これは姫様のだ」


「?」


「あのですね、ココロちゃんが今日マーケットで見つけて買った人形なんです」


 こんな変な人形は自分のものではないという事だけをアピールするアポロに、アルマが説明を付け加える。


「なるほど、それで?」


「アポロが壊しちゃったのー!ばかー!きらいー!」


 ロキの腹部に突進してきたココロをロキが受け止めると、ココロはロキに抱き着いたまま泣き続ける。


「アポロ、ココロを泣かせちゃダメじゃないか」


 やんわりとアポロを注意するロキ。

 アポロの方を見ると、なるほど人形の顔と胴体が分裂していた。


「姫様、き、嫌わないでください!すぐに直しますから!ちょっとお待ちください!」


 ココロはそう言うアポロの方をチラリと振り返り、アポロが人形を直す様を観察する。

 アポロは人形の胴体から出ている藁の先を、必死で首の中へ詰めて頭と胴体をつなげようとしていた。

 何とか作業が終わると、アポロは焦りながらそれをココロに差し出す。


「ほら!姫様!直りましたよ!機嫌を直してください!」


 アポロが差し出す人形を、ココロはじーっと見つめている。すると、人形の頭は再びころりと床へ落ちた。


「わーん!アポロのばかー!!!!」


 ロキのシャツを強く握って再び泣きわめくココロ。

 わたわたと慌てるアポロと、心配するアルマ。

 ロキは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「まあそんなことより、また迷宮を探索することになった。みんなまた力を貸してもらえるか?」


「え?迷宮に行くの?」


 ココロがロキを見上げる。


「そうだ」


「レオンさんはどうするんですか?」


「もちろん牢から出してもらう。バカ勇者が迷宮を踏破していろいろやらかす前に、それを阻止しなくちゃいけなくなったんだ。本来俺たちはもう迷宮探索をしなくていいくらいの財産を手に入れてしまった。だからもちろんもう迷宮に行くのがいやな奴がいたら無理にとは言えないが……」


「迷宮行く!」


 誰よりも早くそう答えたのは、先ほどまで泣いていたココロだった。

 あまりの即答ぶりに多少困惑するロキ。


「レオンさんも帰ってくるんですね!良かったでです!もちろん私も行きますよ」


「姫様が行くというなら私も行くに決まっているが……」


 三人とも快諾してくれたことに、安堵と喜びを感じるロキは思わず笑みがこぼれた。

 そんなロキの笑顔を見て、つられてココロも顔をほころばせる。


「行こー!迷宮行こー!」


 嬉しそうにはしゃぐココロに、先ほどの人形を持ったアポロがおたおたしながら声をかける。


「あの……姫様、この人形ですが……」


「あげる」


「へ?」


「それアポロにあげる。大事にしてね」


「え、いや、いらな……」


 ★★★★★★★★


 港町ブルームポートは、交易で栄えている町だ。だが数年前に町外れに発見されたダンジョンの入口のおかげで、迷宮の町としてさらなる発展を始めた。

 迷宮から出土されたアイテムは船を使って世界へ売られてゆく。流通の優れているこの町では、迷宮産アイテムが他の町よりも高く売買されている。

 おかげでそれに関わる者たちは栄え、他の町から金のためなら命を惜しまない者も集まってくる。


 そんなブルームポートにある迷宮探索者ギルド内では、王都から来た四人の来訪者によって、かつてない緊張感に包まれていた。

 その四人とは、勇者ダイジロー、騎士団の重戦士バカラと怪力ピート、そして聖女レオーネである。

 正確にはその四人の活動をサポートするための事務作業、雑用などをする仲間がさらに数人いるが、中でも迷宮探索を行う勇者パーティーの四人は、要人待遇でギルドの接客室に案内されていた。

 ソファの真ん中で足を組みながら深く腰掛けている勇者。横で静かに座る聖女。騎士団の二人は後ろで起立していた。

 勇者の反対側にいる小太りの男はこのブルームポートの迷宮探索者ギルド長で、この張り詰めた空気の中、勇者の機嫌を損ねないよう緊張を隠さないでいた。

 そこに扉をノックする音が聞こえると、ギルド長は待ち侘びたかのように自ら扉を開けに向かう。

 入室してきたのは見るからに迷宮探索者という格好をした5人組だった。


「おお、待っていたぞ!勇者様、こちらが我が探索者ギルドにおけるA級探索者パーティー鉄壁(インプレグナブル)のメンバーです!先日ご連絡をした通り、この五人がついに当迷宮の51階層へと進出致しました!」


 部屋に入ってきた五人の姿を見た勇者は、ニヤリと笑う。

 五人の内、リーダー格であろう全身鎧を着た体の大きい男が一歩前に出ると、勇者に話しかけた。


「お、俺がこの鉄壁のリーダー、プログレだ。あの話は本当だろうな?」


「もちろんだ。俺たちを51階層まで連れていくだけで、お前たちのパーティーに10億セルを払う。これまでの探索ご苦労だったな」


 それを聞いた五人からは、おお!という歓声が漏れる。いくらA級探索者とはいえ、10億のも大金を稼ぐのは何年かかるか分からない。ましてや貯金する習慣のない探索者では、いくら稼いでもなかなか財産が増えてゆかないものだ。それが即金で十億、一人当たり二億セルを手に入れられると言うのだから、家を買うなりしても良いしそのまま引退しても良いと考えるのも良いくらいの話だ。

 こんなにおいしい話はなかなかない。本当に良いのか念を押したいギルド長は、もう一度勇者に尋ねる。


「勇者様、これまでも彼らは勇者様の情報を元に40台階層を探索してきました。ここまでしてもらって本当によろしいのでしょうか?」


 笑いをこらえられず、ニヤニヤした表情を隠そうとしないまま、勇者は答える。


「もちろんだ。40台階層、いわゆる迷路階層は潜るたびに道が変わる。突破するには迷宮内で泊まる準備をして数日かけて一階層を突破しなきゃいけない。しかも最後はボス戦もある。それを41階層から50階層までの10回も繰り返さなきゃならないなんて、面倒くさくて仕方ねえ。そこを超えたところからやらせてもらうんだ。10億くらい払わせてもらうぜ」


 それを聞いて、再び五人はおお!と歓声を上げる。


「だがよ、俺たちが来たからには、近いうちにこの迷宮も踏破する。探索者を続けたきゃ、また別の迷宮へ行くんだな」


「さ、さすが勇者様です!」


 ギルド長はただただ頭を下げた。


★★★★★★★★


 暗い牢の一室では、上半身裸の男が腕立て伏せを続けていた。体から流れる汗が、冷たい石でできた床へと落ちる。

 番兵がやってくると、その男がいる牢の扉を開錠し、声をかけた。


「出て良いそうだ、レオン。お前の仲間が迎えに来ている」


 それを聞いたレオンは、汗の滴る金髪を振ると、ゆっくりと立ち上がった。


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