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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
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第8話 今宵も酒場で愚痴る男

「えっ?ミノタウロスを剣で一撃???」


「ああ、たまたま急所に入ったから良かったけど、あれで仕留められなかったらダンジョンから戻って来れなかったな」


「いやロキ、もう一度聞くぞ?ミノタウロスを細剣の突き一発で倒したのか?」


「だからそうだって!運良く急所に刺さってだな……」


「おま!聞いたことねえよ!ミノタウロスに細剣なんか刺さらねえよ!アレは硬えよ!俺だって倒すのに時間がかかるよ!どんだけだよおまえ?!」


「いや、別に……、だからそんな話じゃなくて、結局大赤字だったって話だよ!」


 その夜も金牛亭では、約束しているわけでもないのにロキとレオンは同じテーブルに着き、いつものようにロキの愚痴をレオンが聞いていた。

 大きな声で騒ぎ立てるこの二人の姿は金牛亭では見慣れたものとなっており、その姿に違和感を感じる常連はいない。

 だが、とある集団が店に入ってきた瞬間、その集団が特段騒ぎ立てているわけでもないのに店内の雰囲気が一変した。

 その集団はただの酒場だというのに、迷宮に潜るときのように武装していたからである。

 店内の迷宮探索者たちの鋭い視線が集まる中、その集団の戦闘に立つ男は店内を見回すと、ある人物を見つけるとまっすぐに歩き出す。

 そして彼らはロキ達の座るテーブルの横まで来ると、立ち止まって声を発した。


「やはりこの店にいらしましたな。A級探索者、”金色”のレオン殿ですな?」


「あ?」


 不機嫌そうな顔つきでその集団を見上げるレオン。

 そんなレオンの感情を気にするでもなく、武装した男は話し続ける。


「我々はレギオン『先導する戦旗(リーディングフラッグ)』の筆頭パーティ『一番旗』。某は一番旗のリーダーでA級探索者のアモルファスと申します」


「今急上昇中のレギオンの皆さんが俺に何の用だ?」


「おお、我々のことをご存じでしたか?ならばお聞きになっているかも知れませぬが、我らもついに現在下層と呼ばれている71層へ到達しました。ですがここからは情報も少なく、後発の我らにとっては探索は困難を極めることは想像に難くありません。同じように単独探索者であるレオン殿も現在74層で止まっていると聞きました。ここでぜひ我らと手を組んでもらえれば、大手レギオンに追いつくどころか追い越せるでしょう……」


「帰れ」


「え?」


「酒が不味くなる。帰れ」


「なぜですか?悪い話ではないでしょう?別に我らのレギオンに入っていただかなくても構いません、共同戦線を張って協力して探索していただければ」


「ここは酒場だ。酒を飲まねえなら帰れ」


「いや、そういうわけでは……、では同席させてもらって……」


 そう言ってアモルファスが椅子に手を伸ばすと、同時にレオンも椅子を掴み、椅子を動かさせない。


「ここは常連の席だ。一見さんは隅の空いてる席に案内してもらうんだな」


「それでは話が……」


「おいカリナ!こいつらをどっか奥の席に案内してやんな!」


「レオン殿……」


 レオンに呼ばれ、すぐにカリナがやってきた。


「はいはい、いらっしゃい!こちらへどうぞ」


 カリナが彼らを席に案内しようとした時、アモルファスはカリナの肩を突き飛ばした。


 ガタン!


 すぐにロキが立ち上がり、カリナが転ばないように肩を支える。そしてカリナの前に出ると、アモルファスの前に立ち鋭い視線で睨みつけた。


「なんのつもりだD級探索者」


 ロキをバカにするような口調で睨み返すアモルファス。見下す言葉は続く。


「噂は聞いているぞ。レオン殿と仲が良いというだけでD級探索者風情が調子に乗るなよ?」


 不穏な空気の中、アモルファスの仲間たちはそれぞれ武器に手を伸ばしていた。


「止めなさい!」


 緊張感の走る空気の中、全員の動きを止めさせたのはカリナの一喝だった。


「あなたたち、お客じゃないなら今すぐ出ていきなさい!さもなければギルドに報告するわよ!『先導する戦旗(リーディングフラッグ)』だったわよね。このお店の営業を妨害したなら、それなりのペナルティは覚悟しなさいよ!」


「待ってくれ!俺たちはただレオン殿と話をしに来ただけなんだ……」


「だとしても帰る以外の選択肢はないだろう?俺はお前たちと組むつもりはない」


「なぜだ?そんなD級探索者とつるむことができて、同じA級探索者の我らの話を聞いてくれんのだ?」


「そりゃロキはお前らと違ってまともだからだ」


「まとも?」


「それに……、お前たちはミノタウロスを一撃で殺すことができるか?」


「突然何だ?ミノタウロスの皮膚は硬質だ。一撃で殺せるわけがないだろう。手数の多さで倒すに決まっている!」


「その通りだ。だがそれじゃ俺の横に並ぶことはできんな」


「どういう意味だ?」


「はいはい、だから注文しないなら早く出て行ってくれるかしら?」


 カリナが両手を叩き、二人の会話を中断させる。

 いよいよ諦めたアモルファスたちは、帰るそぶりを見せる。


「レオン、そなた後悔するぞ。我らはいずれ迷宮探索の最前線へと出る。後からやはり一緒にやりたいと言っても遅いからな」


「ああ、そう言って脱落してったやつらたくさん見てきたぜ」


「我らを脱落者たちと一緒にするな!ふん!」


 捨て台詞の後、武装集団は静かに店を出て行った。注目する客たちに、見世物ではない!と恫喝しながら。

 彼らが去った後、ロキはため息をついて大事にならなかったことにほっとした。


「カリナさん、危ないから気を付けてよ」


「何言ってるのよ!探索者相手のお店やってるんだから、これくらいのこと乗り切って当然よ!」


 ロキの心配を余所に、カリナは何でもないといった表情で再び厨房へと戻って行った。

 やれやれといった表情で再び椅子に座るロキ。


「まったくどうなるかと思ってビビっちまったぜ」


「何言ってんだロキ。怪我をせずに助かったのはあいつらの方だろう」


「何でだよ!A級探索者集団に囲まれて俺はビビりっぱなしだったんだからな!」


「どこが!」


「それにお前、最後の質問は何だ?まさか俺がミノタウロスを一撃で倒した話、信じてねえのかよ?」


「カカカ!違うよ!信じてるって!」


 その後、再びいつものロキの仕事の愚痴の話に戻り、それは延々と続いた。


「だからさ、お前みたいな深層探索者の方が給料が多いけど、なんだかんだ俺ら中堅の方が稼いでるわけよ。確かに迷宮から手に入れる財宝は深層の方が高額になるよ。だけどそれを手に入れるために揃える装備や使ったポーションの金額を引いたら、俺らの方がよっぽど利益率が高いんだって」


「まあ俺はおまえと同じ会社(レギオン)に勤めてるわけじゃないから分からんけど」


「分かれよ!」


 さんざん愚痴った後、店を出る時に手持ちの金があとわずかのためレオンにおごってもらい、情けない気持ちになるロキだった。

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