第72話 邂逅
ロキたちの国王との謁見は少し遅れていた。だが聖鍵が本物だと無事に確認できたそうで、ついに迷宮踏破記念式典が執り行われることとなり、そこでロキたちは国王と謁見できることとなった。
国王との謁見こそ、レオンの目的。いよいよそれが叶えられようとしていた。
ロキたちが宿泊しているホテルの部屋では、今日も王国との連絡役をしてくれている宮廷魔術師モールから連絡事項を伝えられていた。
「先日採寸させてもらった式典に出席するための正装も準備できた。あとは式典の流れが決まり次第、そなたたちに当日の流れを伝えさせてもらう」
「俺たちなんて所詮迷宮探索者なんだから、別にいつものような恰好でいいと思うんだけどなあ」
「何を言うか。名誉爵とは言えそなたたちには爵位が与えられるのだぞ。それなりの恰好で出席してもらわねば示しがつかん。まあ妬む貴族たちもいるかもしれんが気にしないように」
「そういうもんかね……」
そんな話をしていると、部屋の外がバタバタと騒がしくなった。
お待ちください!という従業員の声。続いて、うるさい!という恫喝の声。そしてロキたちのいる部屋のドアがバタンと激しく開かれた。
部屋にいるロキたちの視線が、その闖入者に集中した。
「お前たちか?迷宮を踏破したというのは?」
部屋に入るなり、その男は不躾に偉そうな物言いをしてきた。
その男が何者であるか名乗る前であったが、横にいたレオンの張りつめた雰囲気にロキはその男の正体を察し、仲間を庇うようにその男の前に出る。
「そうだけど何だよ?」
ホテルの従業員がオロオロしていると、宮廷魔術師モールが従業員に下がっていいと伝える。
闖入者の男はロキたちを見回しジロジロと観察すると、最後にリーダーと思われるロキをじっと見つめる。
「本当に迷宮を踏破したのか?」
「そうだけど何か?」
「チッ、何で今まで黙っていた?」
男はモールにそう言った。モールは理由を話す。
「それは、この者たちが持ってきた聖鍵が本物であるかどうか確認をしていたからです。もし迷宮踏破が間違いであったら問題ですから。昨日間違いないことが分かり、関係者へ連絡が行われたところなのです」
「ということは、本当にこいつらが迷宮を踏破したんだな。チッ、前回は俺以外に迷宮踏破したやつなんていなかったはず……歴史が変わっているのか?」
男はぶつぶつと独り言を言い始める。
「突然部屋に入ってきて何のつもりだよ?名前くらい名乗ったらどうだ?」
「ふん!俺の顔も知らないのか?教えてやる、俺が勇者だ!」
何となく察していたが、男が自ら勇者であることを告げたことでロキたちに緊張が走る。
この男、勇者こそが、レオンの里の仲間たちを殺した張本人だ。ロキは勇者に対して警戒すると共に、レオンが無茶をしないようにも警戒する。前回は戦争をしたのかもしれないが、今は平時だ。もしもレオンが勇者に危害を加えてしまい傷害で捕まるようなことにでもなったら、国王と話すチャンスも失ってしまう可能性がある。
だからこの場は、レオンの代わりにロキが勇者に対して対応しなくてはいけない。
そんなロキたちの心情も知らぬ勇者は、言葉を続ける。
「城門外の土竜騒ぎもお前らの仕業なんだな」
「ん?ああ。そうだけど、あの時は王都に被害はなかったはずだぜ?」
「俺を呼び寄せて無駄足を踏ませやがっただろうが!」
「そんなん知らねえよ」
「土竜を倒したのはお前か?」
「そうだ。俺の魔法で倒した」
「はっ!貴様か。大魔導師とか言われているらしいな。だがあんな土竜程度、俺の雷撃でも一撃で倒せるけどな。それで大魔導師、貴様の名前は何だ?」
「俺は迷宮探索者のロキだ。お前だって名前くらい名乗れよ」
「俺は勇者ダイジローだ」
「だいじろうって、日本人かよ?!」
思わずロキは失言をしてしまった。その言葉をスルーするわけもなく、勇者ダイジローは驚いた顔でロキに問いかける。
「なんだと?おまえ日本を知っているのか?」
「し……知らない」
失言に気づいたロキは目を泳がせる。だが今更遅い。
「嘘をつけ!」
「……」
勇者の言葉にロキは何も答えられず、黙ったままだった。
勇者はさらに追及する。
「貴様も女神が召喚したのか?」
「女神?違う」
「じゃあなぜ俺の名前を聞いて日本人だと分かった?」
いよいよ言い訳しようがないと覚悟を決めたロキは、本当の事を告げる。
「……俺は前世の記憶が少し残っている」
「前世が日本人?転生者か。ギフトは?」
「ギフト?なんだそれ?」
「女神から与えられた特殊な能力のことだ!俺は身体能力向上[特]を持っている。力は最大で100倍、肉体も硬くなり普通の攻撃では俺を傷つけることもできない」
「そんな特殊能力も持ってるのかよ。無敵じゃねえか……」
「それで、貴様のギフトは何だ?」
「そんなんねえよ!そもそも女神なんて見たことも会ったこともねえよ」
「なんだと?じゃあ魔法を使えるだけか?」
「だけとか言うなよ……」
「なんだ、雑魚か。フフ、心配して損したぜ」
雑魚と呼ばれロキはイラっとする。
「雑魚とかうるせえんだよ。それよりもお前のほうこそ、俺は勇者だって名乗るの恥ずかしくない?勇者って普通周りから呼ばれる名称であって、自分で名乗るもんじゃねえだろ?」
痛いところを付いてきたロキに対し、勇者は顔を赤くして反論する。
「う、うるさい!」
「そもそも勇者ってなんだよ?私は勇気がある人間ですってこと?お前の勇気のあるなしなんて知らねえよ!」
「ば、バカ野郎!勇者と言うのは女神の使徒の通称だ!そんな単純な意味じゃない!」
「つーか勇者って魔王とかと戦う人のことじゃないの?魔王とかいるの?いないでしょ?じゃあ勇者とかおかしいよね?」
「き、貴様……、痛い目に会いたいらしいな」
「ああ?やんのか?」
迷宮探索者であるロキは気が短い。勇者に売られたケンカを買おうとしたロキに、仲間たちが動揺する中、黙って二人のやり取りを聞いていたモールが仲裁に入った。
「そこまでです、勇者殿、ロキ殿。ご存じのように王国は法治国家、たとえ勇者様であろうと迷宮踏破者であろうと、暴行は犯罪です。どちらかがどちらかに怪我を負わせたなら、すぐに警備兵を呼んで捕縛させていただきます。ご存じの通りこの王城周りでは、聖女様の最高結界が張られております。最高結界内ではお二人とも魔法も女神の加護も使うことはできません。王都内では法律に従っていただきますぞ」
「ふん!魔法だけでなく口も達者のようだな。だが所詮その程度だ。魔法を使える者なんてどこにでもいる。気にして損したわ」
勇者はそれだけ言うと、満足したのか帰って行った。
突然の勇者の訪問に、モールがロキたちに謝罪をする。
問題ないとモールに告げたが、ロキは勇者との遭遇で何事もなかったことに内心ほっとしていた。
国王との謁見が行われるまで勇者と接触するつもりはなかったからだ。
モールが帰って行ってからロキはレオンと話す。どうやら勇者は獣化したレオンしか見たことがないため、普段のレオンの顔を知らなかったらしい。
多少のバタバタはあったが、大きな騒動にならずに済んで幸いだった。
これで残すところは、迷宮踏破記念式典での国王との謁見である。




