第64話 王都激震
ワイバーンの群れを引き寄せるだけ引き寄せてからロキが≪竜巻≫の魔法を唱えると、三本の竜巻が発生しワイバーンたちを呑み込んでいった。高速で回転する風の刃によって全身をボロボロに切り裂かれたワイバーンたちは、竜巻から吐き出されぼとぼとと地面へと落下していく。そのたびにドスンドスンと重い音を立て、地面に転がってゆくワイバーンの死体。迷宮とは違うその光景にアルマたちは顔をしかめた。
ロキは迷宮内で上級魔法を使っていた時には魔力を凝縮し規模を小さくしていたため、広い屋外で遠慮せずに魔法を打てたことに気分を良くしていた。
「どうだ?!」
満面の笑みでアポロにドヤるロキだったが、アポロは特になんのリアクションをするでもなく、その反応にロキはいささか物足りなさを感じた。
ちなみに今王都城壁で多くの衛兵たちにロキが魔法を放っているところの一部始終を見られていることに気づいていない。
馬車の中では、魔物たちの追跡を逃れついに見えてきた城壁に安堵を覚えたのか、ギルド長がみんなに向かって呟いた。
「ついに王都だぞ」
王都の周りには、魔物たちが入り込めないよう大きな城壁によって守られていた。迷宮都市のそれよりも何回りも大きいそれは、初めて来たロキたちを圧倒した。
「ついにやって来たな……」
度重なる魔物の襲撃を退け、ついに目的の王都へと辿り着いた感慨にひたろうとしたその時、再びココロが声を上げた。
「ロキ、今度は前に何かいる!」
そう言って指さすのは、王都へつながる道だけだ。辺りは荒野で生き物の姿は目に入らない。
「何もいないじゃないか。透明な魔物でもいるっていうのか?」
「わかんないけど……」
「?」
首をかしげるココロ。
一体何がいるのだろうかと一同が馬車の進行方向を見つめていると、突然馬車に衝撃が走った。
「一旦馬車を止めろ!」
ギルド長に言われ、御者は馬車を急停止させる。
馬車は止まるが、揺れは止まらない。馬は混乱し、御者はそれを制止するのに必死だ。
停止した馬車から素早く降りたロキは、地面自体が揺れていることを確認する。
「地震か?」
グラグラと激しく大地が揺れる。王都まであと少しだというのに天災に襲われるとは。だが馬車にも馬にも被害はない。揺れが収まるまでしばらく待てばいいか。
ロキがそう考えていると、再び揺れが大きくなり、馬車と王都との間の地面に地割れが起こる。
その光景にあっけにとられていると、地面の割れた部分が盛り上がってゆき、そして大地の中から黒い塊が頭を出した。
「なんじゃありゃ?!」
「土竜?!」
叫び声を上げたロキの後ろで、ギルド長が一言呟いた。
ロキは聞きなれない言葉に聞き返す。
「え?土竜?」
「違う!土竜だ!大地の中に棲息するという竜種だ!私も見るのは初めてだが」
「竜なのあれ?」
そう言ってロキは前方の黒い塊を見つめる。
だんだんと下から盛り上がってきた黒い塊。岩肌のような硬そうな皮膚。図体の大きさのわりに小さく感じる丸い目、左右に大きく裂けた口。鼻先からは長い二本の髭のような触覚が生えていた。そして頭の下左右からは、掌のような形のひれが付いている。
その異形を見たロキは思わず言った。
「竜っつーかモグラっつーか、あれナマズじゃね?」
「土竜だ!間違いない!文献に乗っていた通りの姿だ」
「竜なの?」
いささか納得いかない表情を浮かべるロキ。
その正体についてゆっくりと考察をする暇もなく、土竜はこちらへと向かって来た。
「≪竜巻≫!」
先ほどワイバーンの群れを撃退した竜巻の魔法を唱えると、土竜は素早くその体を地面の下へと潜り込ませる。
土竜の体の上で竜巻が暴れるが、土竜自体に何のダメージを与えていないように見える。
その間にロキはアルマに回復を頼み魔力を回復させておく。
竜巻が消え去るとダメージを受けていない土竜は再び頭を持ち上げてこちらを見た。
「風の上級魔法なのにノーダメじゃん。何なら効くの?火にも雷にも耐性ありそうだし……」
ロキは迷宮での経験を踏まえ、目の前の敵の弱点属性を探る。
こういう時はだいたいイメージが大切だ。魔法を操るのにもイメージが重要になるが、魔法を敵に浴びせた時にどうなるかについても頭にイメージを浮かべて、それになぞらえた通りにするのがいい。
「口の中だ!」
ロキがひらめいた。
堅そうな外殻を攻撃するより、口を開けた瞬間に口の中に魔法を浴びせてやればいいと。体の中はそこまで硬くないはずだ。
馬車の馬が怯えて暴れ続けている。必要以上にこちらへ近寄らせてはまずいと思ったロキは、土竜に向かって走り出した。
土竜も地表を割りながらこちらへと向かってくる。
そしてロキの狙い通り、ロキを食らおうとした土竜が大きく口を開けた。
「今だ!≪爆炎≫!」
ロキは土竜の口へ杖を向け、魔法を唱えた。真っ赤な巨大な炎の塊が土竜の口へとさく裂する。同時に土竜はその炎を食らうように口を閉じた。その瞬間炎は爆発を起こし、轟音とビリビリとした衝撃を辺りにまき散らす。土竜は鼻から煙を吹き、そしてゲップをした。
一瞬動きが止まったかのように見えたが、再び土竜は口を開けてロキを食べようと襲い掛かる。
「効かねえのかよ!」
その少し前に馬車ではレオンが他の人間に聞こえないようにアルマに結界を張っておくよう指示をだし、馬車から飛び降りる。ロキが苦戦した場合に、自ら突撃して肉弾戦に持ち込む考えだ。最悪自分が盾になり馬車には先に王都に逃げてもらうのもいいと考えた。
だがレオンの出番はやって来なかった。
やけくそになったロキは、持てる魔力全てを次の呪文に込めたのだ。
「≪隕石落とし≫!」
土系統の上級魔法、メテオ。赤熱した巨大な岩の塊が上空から降ってくる。それはものすごいスピードでロキの前にいる土竜へと激突した。
言葉にならない轟音が鳴り響いた。それは城壁の向こう側、王都にも聞こえただろう。
爆風で馬車は馬ごと転倒し、荒野には熱風が吹き広がった。
隕石の直撃を受けた土竜は、血しぶきを飛び散らせて圧死していた。見るも無残なその巨体は、直視に耐えない惨状だった。
馬車が転倒したせいで怪我をした者たちにアルマが慌てて治癒魔法をかけ、転んで苦しそうにしている馬たちも回復させた。
★★★★★★★★
転倒した馬車はレオンに起こしてもらったが、車輪の軸が曲がってしまったのか、揺れが激しくなってしまった。だがもう追ってくる魔物はいなさそうなので、そこからはゆっくりと王都へと進む。
ロキたちが馬車から先ほどの戦闘の跡を眺めると、平坦だった荒野が凸凹になってしまっていた。
土竜をそのままにしていいのかどうかについては、素材が取れるはずだから王都で誰かに片づけを依頼すればいいという結論になった。
王都の巨大な門の前には、整列した軍隊がロキたちを迎えるように並んでいた。
調子に乗ったロキは馬車の中から手を振ると、軍隊は敬礼をして応えた。
「なんだ?大歓迎だな?」
ロキはその対応に少し気分が良くなる。
馬車に同乗しているギルド長は、無事に聖鍵を王都に持ってこられたことに安堵しながら呟く。
「まさに王都への凱旋だな」
だがその言葉にロキがツッコミを入れる。
「凱旋って戦いに勝って帰ってくることじゃなかったっけ?俺らは迷宮踏破してきただけで戦争に行ってきたわけじゃないけど?」
「今さっきワイバーンの群れや土竜と戦ってきたじゃないか」
「だとしても俺ら王都出身じゃないし、帰ってきたわけじゃないんだけど?」
「こ……細かいことはいい!」
普段渋いナイスミドルを気取っているギルド長も、今日ばかりは浮かれているようだ。




