第46話 デート
日が沈み街中を店の明かりが照らし始めると、日中は迷宮に潜っていた探索者たちが街へと繰り出し始める。
迷宮の入口にある迷宮探索者ギルドを囲うように並ぶレギオンの建物や酒場、その日の稼ぎを飲み代にしようと探索者たちが街を行きかう中、一人の美しい女性が大通りに立っていた。
ロキに言われ、普段着たことのないような洒落たドレスを着たカリナである。
通りすがる常連客にその姿を冷やかされながらカリナが店の前で待っていると、おそらく貴族が乗っているであろうこの地区ではめったに見ない上等な馬車が目の前に停車した。
邪魔になってはいけないと思い、カリナは馬車を避けて位置を移動しようとする。
すると馬車の扉がスッと開き、中から慌てた様子で出てきて声をかけてきたのは、ロキだった。
「カリナさん!逃げないでよ!」
「え?ロキ……なの?」
ロキもカリナに負けず劣らず、今まで見たことのない上等なジャケットを羽織り、そして普段ぼさぼさにしている髪をオールバックにセットしている。
ロキは右手を折り曲げ軽く頭を下げる紳士風の会釈をすると、カリナに挨拶をした。
「そうです。お迎えに上がりましたよ、お嬢さん!」
「まあ!お嬢さんなんて上手ね!それに何、その恰好!まるで上流階級の紳士じゃない?素敵よロキ!」
「お褒めに預かり光栄です。カリナさんこそドレスが良くお似合いで、素敵ですね!」
「やだ!勘違いしちゃいそうだわ!」
まんざらでもないという表情のカリナは、ロキにエスコートされながら馬車へと乗り込んだ。
御者が二人が乗り込んだのを確認すると馬に軽く鞭を打ち、そして馬車は静かに走り出す。
極力揺れを少なくなるよう操縦する御者。そして馬車の中では、ロキとカリナの会話が弾んでいた。
「まさかこんな豪華な馬車でお出迎えされるなんて思いもしなかったわ。それに私のこの衣装まで用意してもらっちゃって、高かったんじゃない?」
「こう見えて稼いでるんで!」
ふかふかのクッションが効いた革製のシートに座る二人。
ウインクをしながら人差し指と親指を円形にし、お金なら心配いらないというポーズを見せるロキだった。
「そんなになの?下世話な話で申し訳ないけど、今どれくらい貰ってるの?」
「そうだな、今月は少なくても100万くらいは……」
「ええ?そんなに?!だってあなた、前のレギオンの時は月15万から上がらないってぼやいてたじゃない?そんなに違うものなの?レギオンの代表になると。それとも他のみんなの分を取ってるんじゃないの?ダメよ、自分だけそんなにたくさんもらっちゃ。ちゃんと役割に応じた額のお給料を出さないと」
「や、出してますよ!レオンはソロでやってるからあいつだけ別だけど、俺らはパーティーで等分してるよ」
「え?アルマちゃんもココロちゃんもそれくらい貰ってるの?」
「そうだよ」
「すごい!……だって月に100万も稼ぐなんて、よそならB級探索者くらいにならなきゃもらえないんじゃない?あなたまだD級よね?」
「うん。まあ、ギルドの昇級試験を受ければすぐにでもC級くらいには上がれそうだけど。よそのレギオンは探索者の等級で給料が変わるけど、ウチは関係ないんで昇級試験受ける必要ないかなって……」
「……本当に出世したわね!」
驚いた顔でロキを見つめるカリナ。
ロキは、ちょっと照れ臭そうにしていた。
馬車は、金牛亭や迷宮探索ギルドがある地区から移動してゆく。
★★★★★★★★
「足元に気を付けてください」
先に馬車から降りたロキに手を貸されながらカリナが馬車から降りると、そこは豪奢な建物の前だった。
どこに連れて来られたのか理解できず、辺りをキョロキョロと見回すカリナ。
ロキに促され、建物の入口へと案内されるが、カリナは自分が場違いでないか不安になる。
「いらっしゃいませ」
入口にいる白髪のタキシードを着た紳士から挨拶をされる。
「予約したロキだ」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「行こう、カリナさん」
「えっと……ここ、どこなの?」
店内に案内され歩きながら、ロキはカリナの質問に答える。
「高台に迷宮都市の領主の館があるだろ?その周辺は高級住宅街になってるんだ。領主とコネのある金持ちたちや、レギオンの代表とかみたいなやつらが住んでいて、ここはその高台地区にある料理店だよ」
「はぁ~……私こんな場所一生縁がないかと思ってたわ……」
★★★★★★★★
ワインを飲みながら、次々と運ばれてくるコース料理を楽しむ。
テーブルマナーに不安のあったカリナに、ロキが簡単に説明をしながら食事が進む。
「意外だったわ。ロキがこんなお店に慣れてるなんて。よく来るの?」
「いや、俺も初めてで」
照れ笑いを浮かべるロキ。
「え?それじゃあどうしてこんなに慣れてるの?テーブルマナーなんてどこで知ったの?」
「それは前世では多少こういうお店に来たことがあったから。この世界はテーブルマナーとかもだいたい前世と変わらないみたいだ。数学はだいぶ遅れてるようだけどね」
「ねえ……あなた前から前世がどうこう言ってたけど、それっと本当の話だったの?」
「え?信じてくれてなかったの?」




