第38話 休日
ーー拝啓、お父さんお母さん。
元気ですか?アルマは元気に迷宮都市で頑張っています。
ですが、この街へ来て最初に入ったレギオンでは周りとうまく馴染むことができず、このままやっていけるのか不安な毎日を送っていました。厳しい先輩ばかりで、何も役に立てない私は迷宮探索者に向いていないのかと思うようになりました。
そんなある日、迷宮の中で魔物の群れに取り囲まれ、逃げられなくなってしまったことがありました。その時に私たちを助けてくれたのは、当時別のレギオンにいたロキさんという探索者の先輩でした。その後いろいろあって、ロキさんが設立した新しいレギオンに私も入れてもらえることになりました。
それからは、毎日が一変しました。戦闘も魔法もなんでもこなすロキさんが中心となり、索敵担当のココロちゃん、魔法使いのマルコさん、そして私の四人でパーティーを組んで迷宮の攻略をするようになると、前のレギオンではほとんど役に立てなかった私の回復魔法も時々出番があり、みんなの役に立てている気がして、自信がわいてきました。まだ出番は少ないのですが、もっとみんなの役に立てるようがんばっていきたいと思います。
お父さんお母さんも健康に気を付けて、元気でお過ごしください。 アルマ
「アルマー!遊びに行こー!」
アルマが自室で実家へ向けた手紙を書いていると、ココロが元気よく扉を開けて飛び込んで来た。
ロキたちのレギオンでは、一週間に一日は完全な休日として迷宮に潜らないという決まりを作った。今日は、そんな週に一度の休日の日。アルマとココロは一緒に出掛ける約束をしていた。
「ココロちゃん、ちょっと待ってて。今実家に手紙を書いてるところなの」
「手紙?」
アルマの机の上にある手紙を覗くココロ。
「そうだ!ココロちゃんも手紙を書いたら?」
「私も?」
「ココロちゃんも字は書けるでしょ?」
「うん……」
この世界では、教育を受けていないために読み書き計算のできない者も多い。迷宮探索者であれば、最低限の字を読んだり買い物をする時の計算くらいはできて当たり前だが、手紙を書くまでの学力を持つものは少ない。
アルマは商家の生まれでそれなりの教育を受けており、ココロの生い立ちは不明だが同じくらいの学力は持ち合わせていたため、一定以上の良い家柄の出身だと仲間にも思われていた。
だがアルマに手紙を書くことを勧められても、微妙な表情を浮かべていたため、何か理由があるのかとアルマは心配になった。
「家に手紙を書きたくないの?」
「うーん……」
「もしかしてココロちゃん、お父さんもお母さんもいないの?」
「ううん、二人とも元気」
「それじゃなんで?」
「う~ん……ココロは家出してきたから……」
「えー!そうなの?でも、だとしたら余計に心配してるんじゃない?」
「そうかもしれないけど……」
「お父さんお母さんの事が嫌いなの?」
「嫌いじゃない……」
「何か家出したわけがあるのね?それじゃあ尚更、今は元気だと伝えた方がいいよ」
「でも……」
自分の居場所が家族にばれるのが嫌ならば、差出人の住所を書かずに投函すればいいと言われ、しぶしぶ筆を執るココロだった。
★★★★★★★★
ロキは事務室で税金の計算をしていた。
迷宮に行く日は疲れていて事務作業どころではない。そのため休日に集中して事務作業を進めておこうと考えているためだ。
だがまだ慣れない税金の計算はなかなかやっかいで、いちいち資料を確認しながら書類を作成しているため、とても時間がかかり、そして疲れる。
前世でも一般的な数学知識はあるが、経理を専門にやっていたわけではない。それに生まれ変わったこの世界の迷宮探索者ロキの肉体は、頭脳労働よりも肉体労働が向いているようだ。
そんなわけでロキが頭を抱えながら書類作成を続けていると、突然部屋のドアが勢いよく開かれた。
「よお!聞いたぜ!大魔導士ロキさんよ!」
「何だそれ?」
部屋に入ってきたのは、レオンだった。
なぜか大魔導士などという謂れもない二つ名で呼ばれ、どういうことなのか困惑する。
「おまえこないだ他所のレギオンの奴らの救出依頼受けたって言ってただろ?」
「ああ」
「そいつらがお前の噂を流してるらしいぜ!D級探索者なのに実は大規模攻撃魔法を使える魔法使いだって!」
「はあ?あいつらの前で使ったのは中級魔法の氷爆だぜ?俺は上級魔法は使えないぞ」
「多分噂話に尾ひれつけて広まってるんだろ?怒らせたら怖い大魔導士だってことになってるぜ!カッカッカッ!」
「なんだよそれ!つーかおまえ装備品買いに行ったんじゃねえのかよ?」
「いや、面白い話聞いたんで、買い物忘れて戻ってきちまった!もう一回行ってくるわ」
そう言い残してレオンは再び買い出しへと向かった。
「騒がしいやつ……」
レオンと入れ替わりにアルマとココロが姿を現した。
「あの……レオンさん戻ってきてまた出て行きましたけど、何かありました?」
「ああ。何でもないんだ。気にしないでくれ」
「あの、私たち出かけてきますけど……」
「ああ。せっかくの休日なんだ。ゆっくり出かけてこいよ」
「ロキさんも休まなくて大丈夫なんですか?」
アルマは、ロキの机の上に積み重ねられた書類の山を見て、心配そうな顔をする。
「ははは……。まだ税金の計算に慣れなくてな。そのうち慣れてきたらもっと手際よくやれるはずだから、それまでがんばるよ」
「ロキさん、休日返上して仕事をしてたら、言ってることと逆じゃないんですか?」
「う……確かに……。これじゃあ結局ブラック環境のままだ……。今まで休みをもらえず会社を恨んできたけど、元々こういう性格なのかもしれない」
「なにかお手伝いしましょうか?」
「いや、ありがとう。そのうち手伝ってもらうかもしれないけど、今日はしっかり休みを楽しんでおいで。どこへ行く予定?」
その質問に対し、ココロが答える。
「手紙を出してから、ケーキを食べに行くの!」
「そりゃいいな!楽しんできなよ」
「なんかロキさんって、お父さんみたいですね……」
「そりゃあ俺は前世では40歳だったから、精神年齢は40歳だから。アルマは娘みたいな感じだな」
「40歳……。私のお父さんより年上ですね」
「そうなのか……」
そうしてアルマとココロは出かけて行った。ロキは再び慣れない税金計算を始めるのであった。
★★★★★★★★
机で寝落ちしていたロキが目覚めると、窓の外はもう真っ暗になっていた。
「寝落ちしてしまった……。でもまあ大半できてるし、今日はもういいか……ん?」
気が付くと机の上には「おつかれさまです」と書かれた紙と、その上におそらくアルマが買ってきたであろうケーキが置かれていた。
「いい娘だ……。お父さん嬉しい……」




