第29話 個室居酒屋にて
「話がある」
そうマルコに言われて、迷宮探索が終わったロキが連れて来られたのは、個室の酒場だった。
普段大衆酒場しか利用しないロキは、厳かな店内の雰囲気に戸惑いながらも、マルコと二人で個室へと入った。
「この街にもこんな店があるんだ……」
「何を言っとるか!一流の探索者ほど、こういう情報が他人に漏れることのない店を使うもんじゃ!」
「どうせ俺はD級だし、聞かれて困るような情報とかも持ってないしー」
「拗ねるな!」
ぺしぺしと、ロキがマルコの持つ杖で叩かれる。
「痛いなーもー」
「そんなことよりも本題じゃ!」
マルコの話というのは、やはり想像していた通りの事であった。
それは今日の迷宮探索でのこと、なぜ魔力回復薬を飲まずに魔力が回復したのかということだった。
「何か隠しているようじゃが、説明してもらおうか?おまえ明らかにアルマのヒールで魔力が回復してたじゃろう?あれは何なんじゃ?どういうトリックじゃ?」
「何から話していいか……。えーっと……前にね、レオンと四人で飲んでる時にもその話題になったんだけど。俺がアルマのヒールをかけてもらった後の体調がすごく良いっていうことを話したら、レオンもヒールかけてくれって言いだしたんだ」
「バカな。ヒールは怪我を癒す魔法で、体調管理の魔法ではない。それは日々の自己管理するものだ」
「ああ。俺もそう思ってたんだ。そしたらさ、なぜかレオンがビックリして、酔いが醒めたって言ってさ」
「ヒールで酒酔いが醒める?確かに『酔い』というのは『毒』や『麻痺』などに似た状態異常かもしれんが……」
「でも怪我を治すヒールで状態異常が治るわけじゃないだろ?」
「そうだ。もしかしてうっかりキュアーを使ってたのか?」
「うっかりで使う魔法間違える?」
「いや、ワシはないが……」
「アルマは『ヒール』って唱えてんだよ?唱えた呪文と違う魔法発動してたらヤバくない?」
「たしかにそうだが……。それに、まだ状態異常を治すなら分かるわい。お前今日は魔力を回復していたじゃろう?魔力を回復させる魔法なんぞ、聞いたことがないぞ!」
「うん。……だよね」
「だとしたらあの子は何者なんじゃ?あまりに規格外れのヒーラーじゃないか?」
「レオンが言うには……、アルマが使っているのはヒールじゃなくて、聖女が使う神威代行魔法じゃないかって……」
「何だと?!」
「ほら!声が大きいって!せっかく個室なのに、そんな大きな声を出したら他の部屋にも響くって!」
ロキに注意され、気まずそうな顔をするマルコ。
すぐに気を取り直して言葉を続けた。
「アルマが聖女だと言うのか?まさか?もしそうだとしたら『神殿』が黙ってないぞ?!……いや、神の力の代行者である聖女は一つの時代に一人きり。当代の聖女は勇者のパーティーの一員でもある聖女レオーネじゃ。アルマが聖女のはずはない!」
「そうだよね。レオンが言ってることっておかしいよね」
「いや、待て。だがアルマが使っているヒールが、神威代行魔法だというのなら全てに説明が付く。あの子は今まで魔力切れをしたことがないと言っていた。普通は魔力切れまで魔法を使うことで、最大魔力量が増えてゆくものだ。最初から絶大な魔力を持っているなんていう天才は今まで聞いたことがない。だが聖女だというのなら説明が付く。神威代行魔法は神の力を代わりに行使しているため自らの魔力を使うものではない。つまり魔力切れをすることがない。怪我の治癒、状態異常の回復、魔力の回復……いずれも神威代行でできるはずだ……。だが、だとしたらなぜこの時代に二人の聖女が?」
一人でぶつぶつと考え事を始めるマルコ。
それをロキは黙って見ていると、突然マルコははっとしてロキに尋ねた。
「そもそもレオンはなぜそう思ったのじゃ?聖女様なんて、正直ワシらには手の届かない存在じゃ。ワシだって目にしたこともない。やつは聖女の神威代行魔法のことを何かしっておるのか?」
「さあ?あいつ、あんまり自分のこと話さないから……」
「そうか……、それにしてもどうする?もし本当にアルマが聖女だったのならば、神殿……いや、統一神教会がアルマを確保しようとするぞ。それはあの子の望むことではないと思うが……」
「そうだな。アルマはどっちかっていうと平穏な毎日を送りたいみたいだし」
「アルマには話したのか?」
「いや、何も伝えてない」
「そうか。じゃとしたらこのまま黙ってヒーラーとして迷宮探索を続けているのが一番かもしれんな」
「そうだよね……」
二人は、とりあえずこのことは自分たちとレオンの三人だけの秘密にしようと約束をした。




