第24話 殴り込み
ココロが元居たレギオンは、総勢20人ほどのさほど大きくはないレギオンだった。
それでも3階建てのレギオンハウスは、ロキ達のオフィスよりも断然大きい。
ロキはその玄関の入り口に立つと、臆することなく両開きの玄関の扉を蹴り破った。
バタン!という大きな音を立てて、扉が開け放たれる。
片側の扉は壊れ、二つの蝶番のうち一つだけがひっかかり斜めにぶら下がった状態になり、ギィギィと音を立てて揺れていた。
そんな大きな破壊音を聞きつけ、すぐにザワザワと人が集まってくる。
集まってきたのは屈強な探索者たち7名。彼らの目に玄関に立つロキの姿が確認できた時、ロキは大声で怒鳴った。
「ゴイスってのはどいつだ?!」
「ああ?!」
ちょうどそこにいたゴイスが答える。
ゴイスがココロとレギオンで揉めていた姿をロキも目にしていたため、その顔を見てロキはすぐに気が付く。
「てめえ、あのガキを引き抜いた世間知らずじゃねえか」
「おまえか!ウチのココロが世話になったな!」
ロキの言葉に、仕返しに来たことを理解する探索者たち。
「仕返しに来たつもりか?それも一人で?バカじゃねえのか?へへへ……、うおっ!」
頭に血が上っていたロキは、ゴイスにまっすぐ歩み寄り殴りかかる。
慌ててゴイスはその拳を交わした。と、同時に回りの男たちがロキへと襲い掛かる。横からの前蹴り、後ろからのパンチ、ロキは両手で頭をかばってガードするが、強い蹴りを食らって姿勢を崩して転倒する。
危うく危険を逃れたゴイスは、動揺しながら倒れたロキに声を掛ける。
「と、突然襲ってきやがって……頭おかしいんじゃねえのか?この人数相手に勝てるとでも思ってんのかよ?」
問答無用で殴り掛かってきたロキに対して焦りの表情を見せるも、転倒したままにらみつけるロキに対し、さらに言葉を投げかける、
「なんだその目は?気に食わなさそうな顔してやがるな?俺たちはただ後輩に教育をしてやっただけだぜ?お前に逆恨みされる覚えはないっつーの!」
圧倒的人数差で優位なゴイスは、にやにやとしながらロキを見下ろす。
「ココロはウチの仲間だ。てめえらに教育される筋合いはねえ!」
「それで仕返しに来たってのか?バッカじゃねえの?聞いたぜ?てめえD級探索者なんだってな?いくら俺たちのレギオンが小さいって言ったって、てめえみてえな低ランク一人でどうこうできるわけねえだろ?」
「力が弱い相手になら何したっていいって言うのか?」
「何言ってんだ?当たり前だろう?」
ゴイスはそう言うと、倒れているロキを蹴飛ばし、仲間たちに指示をする。
「おい!こいつを袋叩きにしてやれ!二度と俺たちに逆らいたくないようにな!」
ゴイスの声に、周りの男たちは一斉にロキに蹴りを入れる。
「チッ!」
ダメージを最小限に済まそうと体に力を入れて縮こまっていたロキは、そのうち一人の男の足首を掴む。「離せ!」という男の声を無視し、その足を両手で強く捻った。
「あっ!」
男は悲鳴を上げて転倒する。と、同時にロキは立ち上がり、取り囲んでいた男たちの隙間を駆け出し輪から抜け出す。
「てめえ……」
男たちは、離れたロキの方へと向かってくる。
この時ロキの頭の中は、先ほどまでとは打って変わって、いたって冷静になっていた。
向かってくる男たちの姿を見ながら、今の状況を分析する。
さすがにレギオンの中にいる時は、誰も武装していない。不幸中の幸いだ。
自分も頭に血が上って手ぶらでそのまま乗り込んで来てしまった。もしこいつらの中で一人でも武器を持っていたら、大けがを負わされていただろう。
それと魔法はタブーだ。火球を打ったら建物まで燃えてしまう。被害賠償を請求されたらたまったもんじゃない。
こいつらには、ココロが受けた暴行をそのまま味わってもらうだけだ。
つまり今から起こるのは、徒手空拳の殴り合いだ。
ロキは男たちに囲まれないよう、立ち位置を移動する。理想は一対一だ。
そして正面の男が自分に近寄ってきた時、ファイティングポーズを構えた。
半身になり、両手の拳を握りあごの前に構える。
相手が射程距離に入ってきた時、素早く左拳を突き出す。
「ウオッ!」
思わず男がのけぞったその時には左手は引き戻されており、代わりに思い切り振りぬかれた右拳が男の左顎にさく裂した。
ワンツーパンチ。
拳闘の基本中の基本。最もオーソドックスなコンビネーション。
ロキのパンチはそんな普通の攻撃だったが、みごとに決まり、相手は膝から崩れ落ちた。
「てめえ!」
次の男が襲い掛かってくる。同じようにけん制の左ジャブを打つと、今の攻防を見ていた相手は慌てて後ろずさろうとするが、大きく踏み込んだロキの次の攻撃は右ストレートとみせかけたハイキックだった。
想像と違った攻撃を予測できなかった相手の男は、クリーンヒットしたハイキックで失神し、同じように真下に崩れるように倒れる。
そしてロキはある一つの事実に気が付く。
迷宮探索者たちは武器を使って魔物と戦う専門家だ。この場にいる誰もが得意分野だ。だがロキは確信した。武器を持たない対人格闘において、この迷宮探索者たちは、全くの素人だ。
「こいつ、場慣れしてやがるぞ!」
「くそっ!ケンカ屋か!」
そんな彼らの言葉に対してロキは答える。
「残念ながらケンカは初めてだ」
事実、ロキはこれほど本格的なケンカをするのは前世を含めて初めてだった。
子供のころならケンカくらい何度もしたことがある。だがそれは怪我をするレベルのケンカではなかった。
「嘘つきやがれ!」
先ほどとは打って変わって、ロキを警戒し距離を保つ男たち。だんだんと横に広がり始める。
いくら一対一に自信があっても取り囲まれてしまうと勝ち目は少ない。
時間をかけるほど不利になる。ロキは前へと踏み出した。
「てめえ!」
ロキが向かった相手が覚悟を決めた。
いくら対人格闘に慣れていないと言っても、普段生死をかけた戦いをしている戦士である。臆病では務まらない。
男はロキに向かって思い切りパンチを振り下ろした。
ロキはそれを見て、後ろに下がろうとはせず、敢えて前に踏み出す。
大きく上体を下げて相手のパンチを交わす。と、同時に後ろに振りかぶった拳を顔面に向けて振りぬいた。
カウンターパンチ。
相手の攻撃しようとする勢いがそのままこちらの攻撃に上乗せされる。それだけでなく相手が防御行動に移ることができない意識外のタイミングでの一撃。
カウンターを受けた男は一撃で意識を失った。
すぐに横から別の男が殴り掛かってくる。
ロキはカウンターパンチが有効と分かり、もっと試してみたくなる。
殴り掛かる男の拳に向かって、前に踏み出す。
男は突き出されたロキの顔に向かって、振りかぶった拳を打ち出す。
だが、その瞬間にはロキの上体は斜め下にずれ拳は空を切る、それと同時にロキのカウンターが顔に当たり、男は意識を失った。
「何なんだてめえは……」
四人があっという間に倒されていた。
残っている三人は、あまりにも簡単に仲間が倒されてゆく光景に、恐れを抱き始めていた。




