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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
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第22話 前世ではそろばん3級でした

 試験の翌日、ギルドに行くと合否発表が張り出されていた。

 そこには全ての受験者の名前と点数が書かれており、90点以上が合格という厳しい基準があった。

 合否発表の掲示板の前には、ゲイズ親子が来ており朝から大きな声で騒いでいた。


「0点……」


「き、気を落とすなボイド!試験は減点式だから、収益報告書の最初の方で計算を間違うと、それ以降全部数字が違ってきてしまうんだ。0点だから全くダメだったというわけではないんだ。よくあることだ。今回は運が悪かっただけだ。後ろの方のミスならもっと減点は少なかったはずだ!」


「そ、そうだね、父さん。それに僕もまだ試験を受けるのはこれが初めてだし、これで試験の雰囲気も分かったよ。勉強し直して次は必ず受かるよ!」


「そうだ!がんばれよ!」


「ところで、昨日のあの人はどうだったんだろう?」


「ハハッ!ロキか!素人に収益報告書を作成できるわけがないだろう!0点、いやマイナスもありえるな!」


「ロキ……あった!」


「何点だ?」


「……え?」


「……ひ……100点?合格?だと?」


「よう!ゲイズ親子!どうだった?」 


 ゲイズ親子のところにロキと、付き添いで来ていたレオンが近寄ってきた。

 声を掛けたロキは、彼らよりも少し前にここに来ており、先にお互いの合否を確認していた。


「息子さんの名前はボイドだっけ?えーっと、あれ?見間違いかなあ?俺の目が確かなら、0点って見えるけど。おかしいなあ、王都の高等学校を優秀な成績で卒業されたのではありませんでしたっけ?」


 そんなロキの口ぶりに、レオンは笑いをこらえるのに必死だ。

 馬鹿にされたゲイズ親子は、顔を真っ赤にして怒っている。


「き、きさまぁ!どんな不正をした?!カンニングしたのか!知っているか?不正であれば、永遠に税理士資格は剥奪だ!」


「今回俺以外合格者いないのに、誰の答案をカンニングしたっつーんだよ?」


「くっ……確かに。じゃあ何でだ?何で合格したのだ?どんな不正をしたのだ?!言え!」


「だから何で不正した前提なんだよ!普通に回答しただけだよ!資料見ながら受験できるんだから、全部できて当たり前だろうが!それに今回は絶対におまえらに負けたくなかったから、収益報告書は三回見直ししてやったわ!ガハハ!受験前におまえらと会わなかったら、見直しもせずにミスしてたかもな!」


「嘘をつくな!見直しなんてする余裕があるわけがないだろう!収益報告書を作成するためにどれだけ計算をしなきゃいけないか分かってるのか?普通に受けたら時間ギリギリ、慣れない者なら全て完成させる余裕もないわ!」


「え?なんでそんなに計算に時間がかかるの?昨日借りた資料の中に掛け算の表とかあったし、もしかしてこの世界、掛け算九九すらない?」


「なんの話だ?!」


 怒り心頭のゲイズを余所に、ロキはなるほどと納得をする。


「7かける7は?」


「何だ?私だって税理士資格持っているんだぞ!それくらい分かるわ!7、14、21、28、35、42、49、49だ!」


 ゲイズは指を折りながら数字を足していくと、そう答えた。


「さすが父さん、高速計算だ!掛け算表を使わずそんなに早く計算できる人は、学校にもいなかったよ!」


 その姿に感嘆する息子。

 父親は鼻を高くしたながら答える。


「そりゃあそうさ!私は十年以上現場で税金の計算をしているからな!学生ごときには負けていられないだろう」


「そうか、やっぱりこの世界は数学が著しく遅れてるのか。良かった、俺前世でそろばん3級持ってて。前世じゃ級が低すぎて何の役にも立たない資格だったのに」


「さっきから何を分けのわからないことを言っている?お前の方こそ掛け算はできるのか?12かける12はいくつだ?」


「144だろ」


「ハハハ!父さん、二けたの掛け算を言うのはいじわるだよ!……え?」


「で、でまかせを言いやがって、12かける12は、えっと12、24、36……」


「レオン、行こう」


「お、おう!」


 指を折りながら計算をしているゲイズを残し、ロキは合格通知をもらいに受付に向かった。


★★★★★★★★


 即日発行されたロキの税理士資格証明書を受領すると、ロキ達はマルコが契約してきてくれたレギオンのオフィスにする予定の物件の確認へ向かった。

 そこはギルドから徒歩15分ほどの、程よい距離の場所にあった2階建ての一軒家だった。


 玄関をくぐると、そこには先に来ていたマルコ、アルマ、ココロがいた。

 昨日はレオンが迷宮に潜っていたため、全員が一堂に会するのはこれが初めてだ。


「へえー。マルコさん、ちょうどいい感じの建物を見つけてきたじゃないか」


 そう言いながら扉をくぐるロキに、マルコは開口一番


「どうだった試験は?」


 と問う。

 ロキはにやりと笑い、もらったばかりの税理士資格証明書を懐から出すと、マルコに見せつけるように正面にかざした。

 アルマとココロは「おー!」と声を上げ、ロキに拍手を送った。

 5人の中で、マルコだけが目を丸くして驚いていた。


「ほ、本当に受かったのか?いつそんな勉強をした?」


「いや、本当にそんなに難しくなかったんだって。今度みんなに教えてやるよ」


「うーむ、そうすると昨日声を掛けておいた知り合いの税理士に、断りの連絡を入れんといかんな……」


「え?そんなことしてくれてたの?」


「そりゃあ、いきなり受かるなんて誰も思わんわい!」


 その後、マルコへ簡単にレオンを紹介すると、建物の中の確認に回った。

 一階は今話をしていたロビーに、全員が集まることができる大きな部屋が一つ、その横には収納部屋とキッチンもあった。

 ロビー正面の階段から二階へ上がると、個人の寝室があった。

 ロキとアルマは前のレギオンを辞めてからレギオンの寮を出て割高な宿屋に泊まっていたため、ここに住むことで家賃の削減ができるだろう。もちろん昨日レギオンを辞めてきたココロもだ。

 アルマとココロは今年デビューした駆け出しであったため、寮では相部屋だったらしく、自分の部屋を持てることを喜んだ。

 部屋の確認をしていて、レオンがココロに向かって、アルマと一緒の部屋の方がいいんじゃないか?一人じゃ寂しくて眠れないだろう?と声を掛けて、ココロは子供じゃない!と怒らせる一幕もあった。

 レオンは稼ぎも多いため、ロキは今住んでいる借家のままでも良いと言ったのだが、せっかく初めてレギオンに入ったのだからみんなと一緒に住むと答えた。

 マルコだけは自宅から通う。そのためにギルドへの通り道であるこの場所の物件を選んだらしい。


 そして色々と話をした後、マルコは帰宅し、他の四人はそれぞれの荷物を取りに行った。

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