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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
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第20話 老魔法使いマルコ

「そういうわけで師匠!よろしくお願いします!」


「誰が師匠じゃ?!」


「マルコさん、頼むよ!」


「呼び方変えたって駄目じゃ!わしはとっくに迷宮探索は引退したんじゃ!」


「そうは言ってもお金欲しいでしょ?」


「それなりに蓄えはあるわい!それに時々魔法講師で小遣いも稼がせてもらってるから、生活には困っとらんわい!」


「えー?そんなこと言わずに、お願いだから俺のレギオンに入ってよー!」


 ロキは今、かつてロキに魔法を教えてくれた魔法使いマルコの家に来ていた。

 マルコをレギオンに誘うためである。

 だが現在67歳になるマルコは、とっくに迷宮探索者としては引退しており、今回のロキの迷宮探索者への復帰の誘いに良い顔はしなかった。

 現役中は迷宮探索の最前線にいたマルコだが、引退後は様々なレギオンに頼まれ魔法の講師をし、それで生計を立てていた。

 そんな各レギオンでの講義の中、それまで魔法を使ったことのなかったロキに、魔法のいろはを教えたことがあり、ロキは今でも師匠と慕っている。

 マルコの実力も知るロキは、他のレギオンに所属していないという理由もあり、これから作るレギオンへ入ってもらいたいと考えていた。


「どうしたら一緒に来てもらえるんですか?」


「どうしたらもこうしたらもないわい!」


「あらあら、声を荒げちゃってどうしたの?」


 そこに、お盆の上に二つのカップを乗せた品の良い婦人がやってきた。

 マルコの妻であるノーラである。

 ノーラは二人の前のテーブルに紅茶の入ったカップを置く。


「ロキさんどうぞ」


「ありがとうございます!いただきます!」


「こんなやつに飲み物なんかいらんわい!下げろ!すぐに帰ってもらえ!」


 マルコにそう言われると、慌ててロキはカップを持って紅茶を飲み始める。


「オホホ。ロキさん、よく来てくれたわね。主人がこんなに楽しそうなのは久しぶりよ」


「何言っとるんじゃ!楽しくなんかないわい!」


「奥さんからも言ってくださいよ。迷宮探索者として復帰してくれって」


「まあ!いいじゃないのあなた。いつも私と二人で退屈してるでしょう」


「退屈なんかじゃないわい!」


「もう。ジャックが家を出てから、いつも退屈そうにしてるじゃない!」


「あっ、息子さんは王都に行ってるんでしたっけ?王都の迷宮に潜ってるんですか?」


「違うのよ。あの子学者になっちゃって。この人、跡を継いでくれなかったもんだからヘソを曲げちゃって、ちょっともめたのよ」


「へえー」


「やっぱりこの年になると、自分の技術を誰かに伝えて残したいみたいね。それでね、ロキさん、前にあなたに魔法を教えてた時ね、すごい若手がいたぞ!って楽しそうに話してたのよ!後継者を見つけたって」


「え?そんな風に言ってたんですか?」


「ふん!なのに魔法は本気でやるわけじゃないとか言いおって!」


「ああ、だって俺戦士のつもりだし、剣だけじゃなくて他にもいろんな武器の扱い方覚えなきゃって思ってたから」


「何でそんなに才能があるのに剣士なんかやっとるんじゃ!」


「えー?だって魔法教えてもらうまで使い方知らなかったし。そりゃ魔法を使えた時はうれしかったけど」


★★★★★★★★


 アルマはロキより先にギルドに来ていた。

 先日手に入れた臨時収入の中から、自分に合った装備を買えないかと考えたからだ。

 迷宮の入り口にあるギルド施設は、何でも売っている複合施設でもある。

 何店かぶらぶら見て回った中で目に留まったのは、装備者の魔力がアップしたり魔法の効果がアップしたりする杖、また指輪や腕輪の形で魔力を上げる効果のあるものなどがあった。だが手に持ってみても魔力アップの感覚が分からず、そもそも魔力不足を感じたこともなかったことに気付き、結局見ているだけでなにも買わずに時間だけが過ぎていった。

 こういう買い物に慣れていない自分だけでは判断が付きにくいと思い、買う時はロキに一緒に選んでもらおうという結論にたどり着いたアルマは、この後の待ち合わせまでどうやって時間を潰そうかと考えていると、子供の泣き声が聞こえてきた。ギルドに子供がいるのは珍しく、また心配になってきたため、アルマはその泣き声の元へと足を向けた。


「約束が違うじゃん!」


「うるせえ!」


 そこには探索者としての装備をした一人の背の低い女の子を、数人の男の探索者が取り囲んで言い合いになっていた。


「なんでココロの取り分がこれっぽっちなのさ?均等に割り振るって言ったじゃんか!」


「それがお前の出来高だよ」


「何でよ!鍵開けも罠発見も全部しっかりやったじゃん!」


「そもそもおまえみたいなガキが、一緒に組んでもらえただけでもありがたいと思えよ。もし気に入らなかったら他を当たるんだな。お前みたいなガキが荒くれものの探索者たちとうまくやれるはずがないがな!」


「ココロはガキじゃない!」


「一人称が自分の名前なところがガキなんだよ!わはは!」


「わーん!バカにされた!」


 再び泣き出した女の子のところへ、アルマが割って入った。


「ちょっと!何、子供をいじめてるんですか!」


「ワハハ!子供だってよ!」


「ココロは子供じゃない!」


 泣きながら女の子は自分が子供ではないと否定する。

 アルマはわけもわからず女の子に謝る。


「ごめんね」


「そのガキはな、小人族(ハーフリング)だ。そのなりで大人なんだと」


 身長が120センチほどのその女の子のことを、まだ10歳かそこらの子供だと勘違いしていたアルマは、びっくりしてもう一度その姿を眺める。

 ハーフリングという種族の名前は聞いたことがあったが、目にするのは初めてであった。実際に見てみると、やはり子供にしか見えない。


「と、ともかく、なんで男の人たちが寄ってたかって一人の女の子をいじめてるんですか!」


「いじめてなんかねえよ!そいつが勝手に騒いでるだけだよ!」


「嘘だ!いじめだ!ココロの取り分を減らすのはいじめだよ!」


「ココロちゃんって言うの?何があったの?」


「あのね、この人たちと一緒に迷宮で探索したのにね、稼いだお金をココロにはちょっとしかくれないの」


「ちょっとー!ひどいじゃないですか!」


 ココロの話を聞き腹を立てたアルマは、再び男の探索者たちに詰め寄る。


「迷宮探索で得た収入は、パーティーで均等に割り振るのが普通でしょ?」


「そりゃああんたのレギオンの普通だろ?ウチのレギオンは話し合いで決まるんだよ!」


「探索前は同じ額だって言ってたじゃんか!」


「同じだけ働いたら同額だって言ったんだよ。おまえは戦闘になったらどこかで隠れて何も戦ってねえじゃねえか。宝箱が出たなら別だが、基本は魔物を倒した魔石が収入だ。お前がいくら扉の鍵を開けたり罠を発見しても、銅貨1枚にもなりゃしねえんだよ!ちょっとだけでも分け前があっただけでもありがたいと思えよ」


「話し合いって、給料制じゃないんですか?」


「給料制のレギオンばかりじゃねえよ。俺らんとこは稼ぎが悪けりゃ収入ゼロだってありえるんだ。ともかく嫌ならレギオンを辞めるんだな。もちろん知ってると思うが、この迷宮都市には他のレギオンを辞めたやつを雇うレギオンはまずないけどな」


「うぐっ……」


 再びココロの目が潤みだす。

 泣き出しそうな彼女の顔を見たアルマは、思わず口走る。


「ココロちゃん、私と一緒にやろう。私と一緒のレギオンでやろうよ」


「うん」


 一切悩まずに恐ろしいほどの速さの即答をするココロ。

 周りの男性探索者たちは一瞬言葉を失う。


「お、おまえ、迷宮都市の常識を知らねえのか?レギオン間での引き抜きを防止するために、他のレギオンを辞めた探索者を雇ったレギオンは、迷宮都市全体のレギオンから孤立するぞ?そんな簡単に約束して、後で困っても知らんぞ」


 おそらくその忠告は親切心からだろう。だがアルマは先ほどの言葉を取り消す気持ちは微塵もなかった。

 アルマはココロに、一昨日までの自分の姿を重ね見ていた。

 戦闘では役に立てず、パーティーメンバーから邪険に扱われる毎日。そんな自信を無くしていた自分を認めてくれたのはロキだった。ロキなら何とかしてくれる。根拠はないが、なぜだか自信はあった。


「大丈夫だよココロちゃん。私たちのレギオンにおいで!」


「うん」


 先ほどから騒ぎを目にして周りには人だかりができていた。

 そんな野次馬の中からアルマに声を掛ける者があった。


「アルマ!そんなとこで何してるんだ?トラブルか?」


「ロキさん!」


 ロキの横にはフードのついたローブを着た魔法使いらしき老人が一緒にいた。

 アルマはその老人が、今日ロキがスカウトに行ったレギオンの新しい仲間だと直感する。

 それと同時に、今の状況をどうロキに説明しようかと頭を悩ませた。

 ロキの了解も取らず、このココロをレギオンにスカウトしてしまった。

 他のレギオンに所属している探索者をスカウトしてはいけないという探索者たちの暗黙のルールを破っている。

 反対されたらどうしよう、という不安が頭をよぎる。先ほどまでの自信がどこへいったのか。


「あの、実は……」


 アルマは意を決し、全てをありのまま話した。


「そうか!ココロ、おまえは何が得意だ?」


「鍵開けや罠の発見だよ」


「魔物の索敵とかは?」


「それも得意だよ!」


「いいね!そしたら俺は前衛に集中できるな」


 ロキが心と話すその言葉を聞いて、アルマは理解する。


「ロキさん……」


「アルマよくやった!これで5人そろったな」


 丸く収まったロキたちに、ココロの元仲間たちが突っかかる。


「おい!おまえ何を簡単に考えてんだ?そいつは俺たちのレギオンに所属してたんだぞ?引き抜きはマナー違反だろ!」


「マナー違反?なんだそれは?」


「他のレギオンの探索者を引き抜くのはタブーだろうって言ってんだよ!」


「そのルールはどこに明文化されてるんだ?」


「そりゃどういう意味だ?」


「ギルドの規約か?レギオンとの契約書か?この世界じゃそこまで細かく契約書に書かれていることはないはずだけどな」


「何を突然難しいこと言ってやがる?引き抜きをやったら、他のレギオンを敵に回すぞって言ってんだよ!」


「敵に回る?いいぜ。かかってこいよ。返り討ちにしてやるぜ。今ここでやるか?」


「何言ってやがる?ギルド内で喧嘩なんかできるかよ!ちっ、何が起きても知らねえからな!」


 捨て台詞を吐くと、ココロの仲間たちはロキ達の前から去って行った。

 不安そうな顔をしているアルマに、ロキは説明をする。


「心配すんな。ぶっちゃけA級探索者とかを引き抜くようなら相手のレギオンだって黙ってないかもしれないけど、下っ端一人くらいで大々的に動くようなことはないよ」


 ほっとした顔をするアルマ。そしてロキは、連れて来たマルコにアルマたちを紹介した。


「ココロ、それじゃすぐに辞表書いて提出してきて。それでレオンが来たらこのメンバーで新しいレギオン登録をしよう」

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