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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
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第13話 モンスタートレイン

「くそ!また来やがった!クソ!クソ!」


 女戦士ロイダは、ラットマンに大剣を叩きつける。

 フルプレートアーマーを身にまとい大盾を持ったロイダは、180cmを超す長身で一見すると男と見間違える姿だ。


「ロイダ!こっちにもラットマンが!」


「数が少ないほうを突破するよ!」


「分かった!≪火球(ファイヤーボール)≫!」


 進行方向にいた二匹のラットマンに向けて魔法使いサンドラの火球が放たれる。

 二体のうち一体に炸裂し、ラットマンの頭部を赤く燃やす。

 ひるまずに向かってくるもう一体に、矢を使い果たしてしまった弓士のベロニカが、短刀(ダガー)を手に向かってゆく。

 後ろでは女戦士ロイダが、わらわらと湧いてくるラットマンの群れと戦闘を続けている。

 するとわき道から突然姿を現したラットマンが、サンドラに向かって木の棒を振り下ろした。


「ぎゃー!」


 大した怪我をするほどの一撃ではないが、サンドラは大げさに悲鳴を上げる。


「くそ!こっちだ化け物め!」


 サンドラに向かうラットマンの攻撃先を変えさせるため、ロイダは手に持った大盾と剣をぶつけてガンガンと大きな音を鳴らし、注意を向けさせる。

 魔物の大群からの逃避中にずっと繰り返されるその行為が、騒音を聞きつけた魔物がさらに集まる原因となっていることにロイダたちは気づいていない。


「ちくしょう!きりがない!」


 ベロニカがサンドラに襲い掛かっているラットマンに向かってダガーで切りつける。

 先ほどから何匹も倒しているが、騒ぎを聞きつけて次々とラットマンが集まってくる。


「大丈夫か?助けに来たぞ!」


 と、そこに突然男の声が聞こえてきた。


「誰だい?誰でもいい!早く手を貸してくれ!」


 男の声に、すぐに助けを求める。姿を現したのは四人の男の迷宮探索者たちだった。すぐ近くを通りかかったパーティーだろう。


「うわ!なんだこの数は?!」


 先頭の男は驚きの声をあげる。

 威勢が良かったのは一瞬で、ラットマンの大群を見て、男たちは萎縮してしまっていた。


「早く助けろって言ってんだよ!」


 言いながらもラットマンに一撃を食らわせている、ロイダはすぐに動かない男たちにいら立つ。


「なんだ、ババアか……」


 男の一人がロイダの顔を見て呟いた。

 さらに隣の男が呟く。


「よく見りゃ全員ババアじゃねえかよ」


「はあ?テメエ今何つった?!」


 元々凶悪な顔のロイダが、さらに輪をかけて恐ろしい形相でそう言った。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 女性の悲鳴を聞き、意気揚々と救援に向かったはずのアドンは今、愕然としていた。

 角を曲がり、悲鳴を上げた女性迷宮探索者たちの姿を発見した時、まず彼女たちを取り囲んでいるラットマンの数に愕然とした。あまりに数が多すぎるのだ。

 そして助けを求めている女たちを見て、あからさまにやる気をなくした顔に変わった。

 自分たちと同年代の中年で、決して容姿が優れているとは言い難い顔をしていたからだ。


「なんだ、ババアか……」


 思わず言葉がもれる。

 よく見てみれば、その場にいた三人の女性探索者は全員が、一言で言えばブサイクな風貌をしていた。


「よく見りゃ全員ババアじゃねえかよ」


 女性の悲鳴を聞き、かっこよく助ける姿を異性に見せつけたい。あわよくばお近づきになりたい。そんな下心だけでここへ救援に向かってきたアドンたちだったが、三人の顔を見た瞬間、その勢いは消沈していた。

 人の事を言えたものではないブサイク中年である彼らですら敬遠するほどであったのだ。

 だがアドンの呟いた言葉に、助けを求めていた女戦士の形相は怒りに満ちていた。


「はあ?テメエ今何つった?!」


 女戦士ロイダは戦っていたラットマンに対し、無防備にも背を向けると、まっすぐにアドンに向かって歩き出す。

 その姿に怯えたアドンが後ずさりをするが、ロイダの振りかぶった大剣に慌てて盾を構えて防御の姿勢をする。

 次の瞬間、ためらうことなく振り下ろされたロイダの大剣が、アドンの巨体を吹き飛ばした。


「ぶっひいー!!!」


 盾がなければ死んでいた。

 盛大に吹き飛び転倒したアドンは、鼻血を出しながらロイダに向かって抗議をする。


「なんだ貴様!助けに来てやったのに襲い掛かってきやがって!殺す気か?!ギルドに訴えてやるぞ!」


「ああ?死ななかっただけでも感謝しな!」


 ロイダの迫力に他の男たちは言葉を失っていた。


 そんな中ロキだけは冷静に、状況を把握しようと観察を続けていた。

 それぞれ杖とダガーでラットマンと戦っている女二人と、この女戦士と合わせて三人。パーティーとしたら人数が少し少ない気がする。パーティーを組むのなら普通四人から六人というのが鉄則だ。

 特別優れたバランスが取れているというのなら人数が少ない場合もある。この女戦士はそこそこの腕前のようだが、他の二人は正直それほどでもないように見える。だとしたらやはり三人は少ない。他にもこの女たちの仲間がいる可能性がある。


 それとこのラットマンの数だ。これほどの大群が発生するのは明らかにおかしい。

 ロキが今まで遭遇したことのある数は、多くて6から8匹だ。

 だが、このように大量発生することも考えられなくもない。

 ロキは近寄ってきたラットマンを一閃すると、その言葉をつぶやく。


「モンスタートレインか?!」


 先ほどの女戦士が剣と盾を打ち鳴らして魔物のヘイトを稼ぐという動作、例えば戦闘で苦戦しこの女戦士が混乱して、魔物がポップする部屋のすぐ近くで繰り返したとしたらどうなるか?次々と部屋から魔物を呼び寄せてしまい、魔物がいなくなった部屋が次の魔物をポップさせるという現象を繰り返すことになる。

 また倒しきれずに魔物から逃亡しながら、大騒ぎを続けていると、道すがら魔物を集めることになる。

 その結果、長い魔物の行列が作られることとなり、それはモンスタートレインと呼ばれ探索者たちからは非常に忌避される行為となる。

 そんな馬鹿なことをしたというのならば、愚かと言う他はない。

 今もまだラットマンに苦戦している仲間をほおっておいて、容姿をバカにしたアドンと口喧嘩を続けているくらいだから、愚かであることは間違いないだろう。


「ロイダー!助けてくれ!」


「チッ!こっちだ化け物ども!」


 杖でラットマンと戦っている女魔法使いが助けを求めると、女戦士は再び大声を張り上げ、ガンガンと剣と盾を打ち鳴らす。

 さすがにこれ以上魔物を集められては適わない。ロキは大声で女戦士に怒鳴りつける。


「バカヤロウ!今すぐそれを止めろ!これ以上魔物を集めるんじゃねえよ!」


「あ?!」


「さっきからその大声と武器の音で次々と魔物が集まって来てんだろうが!これ以上ピンチになってどうすんだよ!」


「誰に向かって口きいてんだテメエ!」 


 最後の女戦士の言葉を無視し、ロキはラットマンに包囲されてしまった二人を助けるために向かって走り出す。

 大けがをされてしまったら連れて逃げることは困難になる。自力で逃げてもらえる体力が残っているうちに助け出したい。

 ラットマンを切りつけながら、二人の元までたどり着く。


「た、助けて!」


 女魔法使いは、ロキの姿を見てすがるように言った。

 もう一人の短刀を持った女は、肩で息をしていた。かなりばてているようだ。

 ロキは次々と寄ってくるラットマンを切りつけながら、声を上げる。


「ダミアン!フーゴ!退路を確保してくれ!」


「そ、そんなこと言っても……」


「無理だよう!」


 二人は情けない声を出す。

 だが、ロキは女二人に逃げるよう声を掛ける。


「走れ!あの二人のところまで行け!」


 ロキは女二人とラットマンの間に立ちふさがり、二人が逃げるのを助ける。

 それでも隙を縫って二人を追うラットマンがいたが、ダミアンの火球が運良くそいつの足元に当たり、ラットマンは転倒した。

 その転倒したラットマンが障害物となり、後続のラットマンがそれに躓き転倒。その隙に女迷宮探索者たちはアドンたちのところまでたどり着いた。


「ロイダ!今のうちに逃げよう」


 そう言われ、アドンと口喧嘩をしていた大女も状況を理解する。そして「ああ!」と相槌を打つ。


「待て!お前ら、三人だけか?他に仲間は?」


 ロキの呼び掛けに、目を合わせる女探索者たち。


「アルマがまだ……」


「よしな、もう間に合わないよ」


「他にも逃げ遅れた仲間がいるのか?」


 女探索者たちはロキの質問に答えず、アドンたちを置いて逃げて出した。


「ロキ!俺たちも避難するぞ!この数は尋常じゃない!」


「俺は逃げ遅れた奴を探しに行く!」


「バカヤロウ!お前も死んじまうぞ!俺たちは行かねえからな!」


「俺一人でいい、お前らはギルドにこの事を報告しておいてくれ!」


 そう言うとロキは、ゆっくりと集まってくるラットマンの群れに向かって走り出した。


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