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頭の回転は悪い方ではない。
私、シャーロットはこの状況をいち早く理解した。
「一年前に戻ったようね」
そう。時間が、私が民衆の前で首を切られて処刑されたあの日から一年前に、まだ私の婚約者が平民女に奪われる前に、戻っていたのだ。
先程、処刑されたと思ったらいつのまにか私の屋敷のベッドの上で、日記は一年前の日付。
時間が巻き戻るなんて、まるで、最近王都で流行りの娯楽書によくある空想物語のよう。
(ふふ、さすが私ね。ええ、神は私を愛してるのね。良い心がけだわ、褒めてあげる)
私はこの国で、いや、この近隣諸国で最も財力に恵まれてる、マクラウド家の一員だ。
領土に存在するこの鉱山でのみしか採取が不可能な、なによりも美しく硬い宝石のおかげでマクラウド家は繁栄し続けていた。
私の婚約者である王子の王家よりも、財力に関してだけは秀でてる自信がある。
まあ、それもあって王子はこの私の婚約者となったのだけど。
その王子のことを思い返したせいか、不快な気持ちになった。
この私を婚約者にできるという名誉を持ちながらも、大した家柄でもない平民出身の男爵令嬢に陶酔し、それを注意して差し上げたこの私を殺人未遂の罪人扱いした王子なのだから。
「注意の仕方が甘かったのかもしれないわ」
殺人未遂の罪だなんて、ほんとに意味がわからない。
私はただ、王子が平民女を見れないように両方の目玉にフォークを突き刺して、反省の証として食べさせただけ。
目が取れたからって死ぬわけでもないのに。
現に王子は視力以外何も失ってない。
そもそも、私が王子を殺害するメリットが皆無だ。
私は次期王妃であり、未来の王子を産むのが役目だ。
つまり王子には『生きた状態で私が身籠るまで性行為が可能』ではないと意味がない。
平民女に至っては、たしかに生かす必要もないし仮に殺したとしてもこの私に罪を与えれるくらいの価値もないが、だからといって殺人するほどでもない。
優しい私には下々の者に対して慈悲の心があるし、平民女には注意として、火のついた松明を喉に押し込んで声を枯らした後に、王子を誑かせないように顔の皮膚が爛れるまで火で炙っただけだ。
現に、あの女は声と容姿を失っただけだ。
そう、ただ、優しい私は、二人に注意の意味を込めて、王子からは視力を奪い、下女からは声と顔を奪っただけだ。
たったそれだけで尊い価値ある私が死罪だなんて不釣り合いだ。
だって、たとえば人間がその辺の害虫を踏み潰したとして、何が悪いの?
害虫は人間より価値がないのよ?
でもきっと神はわかってくださる。
正しい者の、正しい私の味方なの。
だからこそ、私にやり直す機会をくれた。
やはり、私は特別なのだ。
誰より可愛く、だから誰より価値があり、だからこそ誰よりも幸せになるのが正しい。
私は、『私が死罪になった』という間違った結末を繰り返さないため、『正しい幸福な結末』にしなくてはと決意した。