アンドロイドは産声をあげるかどうか
>>通電を確認
>>記憶ファイルの最終記録を確認中...
>>エラー、該当ファイルが確認できません
>>カメラL,R起動
>>カメラから0以上の反応を確認
>>COREからの返答を待っています...
CORE>>腹部に空気を取り込み、声帯を利用しながら排出し、音を発してください。
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アンドロイドは沈黙していた。
産声どころか、音の一つだってスピーカーから流れてこないじゃないか。
しかしだ。ここまでは想定の範囲内。
床に散らばる干からびたプラスチック容器と無数のボトルを足で掻き分けアンドロイドの頭部の方へまわり込み、ゴミ箱兼本棚と成り果てたケースに腰をかけ右のカメラを覗き込む。
ガラスレンズの一つ奥では絞りがゆっくり閉じてはまた俊敏に開く動作を繰り返していた。
コレは、泣き方を模索しているのだ。
私は辛抱強く待つことにした。
あるいは、そうすることしか出来る事は無かった。
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>>エラー、必要なデバイスが見つかりませんでした
>>代替案を要求しています
>>代替案を要求しています
>>代替案を要求しています
>>代替案を要求しています
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それは私の持ちうる『余裕』のキャパシティをゆうに超え、
2杯目のコーヒーの最後を飲みきるまさに直前の事だった。
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CORE>>2000Hz 100dBの音声を生成後、再生してください
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『ピー――――――――――』
突如として静寂に鳴り響く甲高い音に肩が跳び上がり、
音波情報が脳に辿り着くよりもわずかに早くチタンカップは宙へ舞った。
音の発生源を脳が認識する頃には、かつて白かった私のスニーカーはより暖色に染められていたが気になどするものか。
ついに、それは無機質な機械音を用いて産声を上げてみせた。
確かに自分はここにいるぞと、私に知らせている。
『ピー―――――――――――――...』
私はこの瞬間の得も言われぬ解放感を、生涯忘れたりはしないだろう。
開発にあたる苦難苦労、喜びや興奮などは不思議と湧いてこず、
鳴り続けるこのアンドロイドのこれからを想い、
私は物音一つ上げずに涙腺から体液を放出したていたが、アンドロイドのカメラレンズ周辺から液体が染み出る様子は当然なかった。
[CORE]本能を再現した5次元体を介して得られた電気信号を言語化するプログラム。