表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

ハーゲルとハゲの秘薬

 「ふう着いた着いた」

 俺は次の日の正午前王宮に来ていた。

 周りを見渡すと俺と同じように王への怒りと共にハゲの秘薬を見つけてやるという強い意志が感じられるようなギラついた男たちが多く来ている。

 屈強そうな者、頭が良さそうな者、様々な人が集まっていた。まあ、パッと見7割以上が坊主というこの光景には違和感しか無いのだが……

 男だけでも恐らく100人は下らないだろうな。

 まあ冒険に出るつもりはあっても広場に来れなかった人や説明を聞くつもりもなく既に冒険に出ている人もいるだろうから更に人数は増えるだろうけど。


 男と比べれば少数だが女性もちらほら居た。

 何組かはカップルで来ている。


 チッ! こんな場所でイチャイチャしやがってお前なんか一生坊主どころか禿げてしまえば良いのに! くっそー坊主になっても愛してくれる人がいて羨ましいな~

 おっといかんいかん。つい心の愚痴を吐いてしまった切り替えよう


 一人で来ている女性も結構いるようだ。きっと1人で来ている女性は夫や彼氏、または好きな人やお父さんとかがいきなり坊主になるのが嫌で来たんだろうな。健気で素晴らしいじゃないか。

 ほんの少しだけ俺の彼女、いや元彼女か……が居ることを期待し見渡してみるがそれらしき人物は見当たらなかった ハァッ

 深いため息をついているその時に王宮からの放送が鳴り響いた。


 「まもなく国王様による冒険に当たっての事前説明が行われます皆様静かにしてください」


 それまで賑やかだった王宮広場が嘘のように静まり返った。

 すると王宮から王が現れた。皆が一斉に王宮の最上階にいる王を見上げる。

 文句を言う人がいてもおかしくない状況だったが広場は静かなままだ。まあこの一件以外は本当に尊敬出来る王様だったし皆も叩く気にはならないんだろうな。

 それに反発したらハゲにさせられるかもしれないし……

 少しの沈黙のあと王は深く一礼し冒険の事前説明を始めた。一礼したとき見えた王の頭頂部を見て俺はなんとなく虚しくなってしまった


 「えー本日はお忙しいなかお集まり頂きありがとうございます。改めましてカルボ王国国王を努めさせて頂いておりますボールドです

早速ですが皆様には見て頂きたい映像があります。まずはそちらをどうぞ」


 そう言うと王はビジョン! と唱え、王の目の前の空間に大型のビジョンが現れた。

 なんだ? やけに古くさい映像だな ん? なんかあの人物見たことあるな。確か歴史上の人物にいたような。


 「がーはっはっは! これを見てると言うことはワシの子孫が禿げたと言うことじゃのお!! て、子孫からすれば笑い事じゃないか。がーはっはっはっは! おっとすまんすまん自己紹介がまだじゃったな。ワシはカルボ王国初代国王のハーゲルじゃ!! 未来の我が国の国民よ元気か? まあワシの国の国民じゃ! 元気に決まっとるわのお!! がーはっはっはっは!」


 あーそうだ! 初代国王のハーゲル様だ! 豪快な人だったとは聞いていたが正にその通りのようだな。

 後は失礼かも知れないがめちゃくちゃ禿げてるな。まさか映像が残ってるなんて思いもしなかったが。


 「さてこれからワシが話すことはズバリ! ハゲの秘薬についてじゃ!! 見ての通りワシは禿げておる。しかも二十歳の頃から薄くなり始めたのじゃ……こう見えて意外にナイーブでのおワシはずっと悩んでおった。そこでワシは寝る間も惜しんでハゲの秘薬を作ることに挑戦したのじゃ。そしてハゲ始めてから35年ようやくこの薬を作ることに成功したのである!」


 豪快に見えたハーゲル王の目には涙が浮かんでいた。よっぽど嬉しかったんだろうな。でもまだハゲの秘薬の効果は確認出来ていない。


 「では早速この薬の効果を見せようかのお! 目ん玉開いてよー見ておれよ! がーはっはっは!」


 すると王はハゲの秘薬と思われる紫色の液体を頭に豪快に振りかけた。皆がじっと見つめる。少しの時間ハーゲル王の頭には変化が見られなかった。

 皆が懐疑的な目で画面を見つめていたその時だった!!!

 ハーゲル王の頭から太く逞しい髪の毛が生えてきたのだ! 確かにさっきまで頭皮の8割ほどが丸見えのかなりのレベルの禿げだった所がである。

 生え始めてから1分も経たない内に王の頭にはびっしりと毛が生え揃っていた。

 広場では驚きを隠せない者が騒ぎだしていた。

 この国では様々な医療魔法が発達し様々な病気を治すことが出来る。だが、禿げだけは長い研究を費やしても治すことは出来ないと言われていた。禿げは不治の病と言う人がいるくらい克服が困難なものなのだ。


 「うおおおおー!!! やったやったのじゃ!! やったのじゃーー!!!!!」

 ハーゲル王は号泣していた。それから5分ほどひたすら喜ぶハーゲル王が映されるという異様な光景が流れていた。


 「ハーゲル様ハーゲル様! 喜びは十分伝わりましたので説明の続きを」

 王の側近らしき人物が声をかける。恐らく現国王の側近ジーニアス様の先祖だろうな。


 「あーそうじゃったのぉ! 見ての通りこの秘薬を使えば一瞬で禿げが治ってしまうのじゃ! しかもワシの見立てでは効果は500年は続くと思っておる。つまりワシの子孫は500年くらいは禿げないと言うことじゃ! 恐らく今この映像を見ている時はこの国が500年以上続いていることになるからめでたいことじゃのお。がーはっはっは!」


 確かにいまカルボ王国は建国されてから510年がたっていた。ほぼドンピシャじゃないか。ハーゲル王ってマジで凄いんだな……


 「ここからが重要なんじゃがワシはこの薬の作り方を後世に残すつもりはない! なぜならそんなことをしたらワシがつまらんからじゃ!」


 広場に集まった者はポカーンとしていた。

 頭の上に?マークが浮かんでいるのが見えるようだ。


 「ワシはこの薬をもう1本作っている。それをこの広大な国カルボのどこかに置いてきた! さあ探すのじゃ!! 優秀なカルボ国民よ! そして世の禿げ共よ!!! な? こっちの方が面白そうじゃろ? んじゃ頑張ってくれい! 達者でな!!!」


 ハーゲル王はどや顔を作りとても満足気だった。


 いやいや、ハーゲル様よー素直に大量生産出来るようにしててくれよ……そうすればこの国でハゲで苦しむ人も居なかったかもしれないのに。貴方の子孫も含めてな……


 「皆様、ご視聴ありがとうございました。少し私の方から補足がありますので聞いて下さい」


 ボールド王の補足によると映像では演出のため秘薬を丸々一本使っていたが、残された文書によると本来は1滴垂らせば完璧な効果が得られるという事


 フサフサの状態で使った場合には禿げの予防として効果が得られる事


 500年以上経っているが強力な保存魔法により鮮度は全く問題ない事などが説明された。


 「最後に皆様が気になっている秘薬を見つけて私の元まで届けて頂いた場合の報酬を発表します。」


 待ってましたとばかりに広場はざわつく。俺も実は楽しみにしていた。とりあえず報酬が出るようで一安心だ


 「では発表します! 報酬は100億ハーゲルと私が使い終わった後のハゲの秘薬の使用権利を譲渡することを約束します!」

 ひゃ、百億!!??

 そんなに貰えるのかよ!? 何代も遊んで暮らせる額じゃないか 

しかもハゲの秘薬まで使わせてくれるって……もうおっさんになろうが一生ハゲになることに怯えなくて済むってことかよ!

 しかもこれも何代も先まで続くし。これなら安心して子孫を残せるな。まあ、相手を見つけられたらだけど……


 うおおおおー!!! 会場は沸きたっていた。そりゃそうだよな

中には禿げてる人もいるしそりゃ~燃えるだろうな。髪にこだわりが無い人でも100億貰えるんだから絶頂ものだ。


 「えー最後になりますが、冒険をする人数は勿論自由です。一人で行くもよし複数人のパーティーを組み協力するもよし全て皆様にお任せします。王宮出口にて心ばかりですが物資の支給を行いますのでぜひ受け取って下さい。では皆さん頑張って下さい。 

 てか俺を救うと思って頑張ってくれ!!! 頼みます!!!!!」

            

がん!!!


 それまで冷静だった。いや冷静を装っていたのであろう王が突然号泣しながら土下座をした。

 二十歳にして禿げると言うことは本当に辛いんだろうな……そりゃ必死にもなるよな。同じ男として禿げてはいないが何となく分かるぞうんうん。

 会場からは王様に対する様々な声が響いていた。

 任せてください! 王のためにも必ず見つけてやりますよ! といった王を励ますような声が多かった。


 よし! そろそろ行くか!! でもどうしようかな1人は心細いけど俺には知らない人にいきなり話しかける度胸なんて無いし……

 周りでは颯爽と一人で飛び出していく人や順調にパーティーを組む人に別れていた。

 俺みたいな人は少数だった。どうしようという焦りが込み上げて周りをキョロキョロ見渡していると突然声をかけられた。 


 「すみません。少しいいでしょうか?」


 俺は動揺を隠しながら声が聞こえる方へ振り向いた。が、そこには誰もいない。気のせいか? と思ったがまた声が聞こえた。


 「そのまま顔を下に向けて下さい! ここですここ!!」


 俺は言われた通りに目線を下に移す。するとそこには少女らしき人物がポツンと立ち俺の方を見上げていた。俺はロリコンでは無いのだがなかなかに可愛らしいではないか。


 「気付いてもらえましたか! 突然すみません。わたしはリスキィと申します。単刀直入に言いますと貴方とパーティーを組みたいのですがどうでしょうか?」


 「いま 何と?? パーティーがどうとか聞こえた気がしたんだが」


 「その通りです! わたしは貴方とパーティーを組みたいのです! どうですか?」


 ええー!? 何で!? こんなに大勢いるなかでなぜ俺をピンポイントで?分からねぇぇーー!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ