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20/27

迎えを待つ冴子。

今回はサブタイトルあまり良いものが思い付きませんでした・・・短いので暇潰しにでもなればと思います。

暑い、重い、ウザい。


私は三大苦の状況にいた。


早く迎えに来いっ。


思わず、口に出してしまいそうになる。


 いや、実際出した。


多分、近づかないと聞こえないくらいに小さい声で。

コンサートが終わってだらだら居るのは嫌なので出てきたのに遊里ってば迎えに来てないのはどうしてよ。

終わる時間は正確に伝えたのに。

あとどれくらい夕方とはいえ、暑く蒸す時期に外で待たされるのだろう。

 それに視線。

お目当ては別の人だろうとは思うけれど暇らしく私の方をチラチラ見るクラシックのファンたち。

私は見せ物じゃないわよ。

そう思っていると前をアウディが通り過ぎて5mくらい先に止まった。


 やっと来たわね・・・。


歩いて止まったアウディに近づくとバクン、とトランクが開く音がした。

私はトランクに放り込んでから助手席に乗り込んだ。

その間、2分くらい。

急いだつもりはなかったけれど、暑さからも視線からも避けたかったのだ。

「遅いわよ。」

開口早々、思いっきり文句を言ってやった。

「ゴメン、道が思いのほか混んでいて・・・・」

遊里が手を合わせて謝る、文字通り平謝り。

今日は仕事が無いっていうから足にしたのに。

「この暑いのに外でずっと待ってたのよ。」

「ゴメンって。」

そう言いながら車はすぐに発進する。

「じろじろ見られるし。」

「いいじゃない、少しくらいサービスしたら? にっこり笑うとか。」

そういうことを言う?!

「したくないことはしないわ。」

「・・・だよね、冴子は。」

遊里は運転しながら苦笑した、もちろん前を向いたまま。

「今日は何? 晩ご飯。」

「おなか空いてるの?」

「空いてるわ、腹ぺこなの。」

死にそうとは言わないけれど、空腹。

シジミ汁が飲みたい、あのダシが恋しかった。

「シジミ・・・」

我知らず口から出る。

「いつものヤツね、分かってるわよ。ちゃんと買い置きがあるから帰ったら作るわ。」

「魔法瓶に入れて持ってきてくれたら良かったのに。」

ふと思う。

よく持ち歩く魔法瓶にシジミ汁を入れて持ち歩いたらどうだろうかと。

いい案のような気が!

「・・・そういう手もあったわね。」

遊里はうなづいてなるほど!という顔をする。

「今度、そうしようかな。」

「本気?」

「本気も本気、それなら飲みたい時に飲めるものね。」

「見た目だけだとお茶を飲んでいるようだけど、本当は中身はシジミ汁?」

チラリと私を見た。

「誰も飲まないんだからいいじゃない。」

「インタビューで聞かれたらどうするのよ。」

「聞くだけでしょ? 誰も確認させてくださいだなんて言わないわ。」

いいアイディアだわ、我ながら。

「まあ、それはそうだけど・・・・」

遊里はほんとに本気だとは思っていないみたいだけど。

「それは置いといて、早く家に帰って。」

「一応、急いではいるけれどね・・・あんまり急ぐとスピード違反で捕まっちゃうじゃない。」

「捕まらない程度によ。」

私は座席を少し倒し、リラックスした。

車内はエアコンが効いていて、汗もすぐに引きそうだったし、あとは家に帰ってゆっくりするだけである。

「はいはい、女王様の言うとおりに。」

いつも通りの私の言い方に呆れるように遊里は言った。



ザリザリザリ、ガーーーー。

私はシジミの殻をから入れに入れた。

今日のシジミは粒が大きい方だった、味も満足・満足。

「ごちそうさま、遊里。」

「それはどうも。」

こんもりとシジミの殻。

殻から身を取り出すのは苦痛じゃない、それも食べる行為のうちなのだから面倒と思うのはどうかしている。

インスタントと生の違いは身のプリプリ感を感じるか感じないか。

全然、違う。

やはり、インスタントは緊急の時(無い時)のみね。

「?」

リビングで雑誌を読んでいると微かな音がした。

耳を澄ますとドンドンという音。

「今日、なんかあるの?」

洗い物をしている遊里に聞く。

マンションの中、周りの話は遊里が表だって顔を出しているので私はあまり分からなかった。

「何言ってるのよ、花火大会でしょ?」

「花火大会?」

そりゃあ、夏の風物詩だけど。

立って、窓の外を見た。

近くではないけれど遠くで光を確認できた。

「花火ね。」

「暑い、ゴミゴミしてるって言われそうだから誘わなかったのよ。」

「それが正解よ、ここからでも見えるんだからわざわざ出向かなくてもいいでしょ。」

「言うと思った。」

分かってるじゃない(笑)。

しばらく見ていると洗い物を終えた遊里がやってきた、手にはビールを持っている。

「ここから贅沢に花火見物はどう?」

「・・・いいわね、少しくらいならお風呂に入った後でも外の風に吹かれてもいいわ。」

外国産のビールを空ける、缶ではなく瓶ビール。

「乾杯。」

瓶は冷たいところから出されたせいで結露している、けれど冷えてはいるので満足がいく味。

「美味しい。」

遊里は視線を花火が上がっている方向に向けながら。

「師匠のおすすめ、ドイツ産の本格派ビールだもの。」

「ビールはやっぱりドイツ産。」

「ビールとジャガイモとソーセージもね。」

「月並みね。」

「いいじゃない、別に。」

「まあ、そうなんだけど。」

私たちはしばらく花火を見て過ごした。

最後は大玉、800寸のシダレが打ち上がって終了となった。

さぞかし、現場近くのよく見える場所は人であふれているだろうと思う。

さすがに私は遠慮したい。

「それに家から見る花火の利点もあるわよ。」

「家で見る利点? トイレが近くにある?」

「それもそうだけど。」

分かってないわね、遊里。

私は身体を近づけた。

「冴子。」

「なによ。」

顔が近づく。

「酔ってる?」

「ビール1本で酔わないわよ。」

「知ってるけど・・・」

「知ってるならいいじゃない。」

私は面倒くさいのでその後は言わせなかった。

私がその気になってるんだからさっさと行動しなさいよ。

唇が重なる。

頬を生暖かい風が撫でた。




外は蒸すくらい暑いけどクーラーがかかっている寝室は寒いくらいに快適。

遊里は寒いと言ってかけ布団を掛けているけれど。

「あとは寝るくらいなんだから、何もクーラーをかけなくてもいいと思うんだけど。」

私は布団には入らず掛け布団の上に寝ている。

まだ、直前までの情事の余熱なのか身体が火照っているのか暑い。

「暑いのよ。」

「冴子はいいけど、私は変温動物なので大変なの。」

「大変よね。」

私は遊里の顔をのぞき込む。

「さっさと寝た方がいいわよ、夜更かしは美容に良くないし。」

「遊里が寝るまで見ていてあげるわ。」

「・・・・じっと見られて寝られるわけないじゃない。」

「子守歌でも歌って欲しい?」

『どうせ、アニソンでしょ?』と言う。

分かってるじゃない(笑)。

私は遊里が望んでもいないのに歌い始めた。

さすがロボット物は寝るに適していないので落ち着いた曲で。

遊里はため息をついたけど、文句も何も言わなかった。

30分もすると寝息をついて寝てしまった。

 何よ、ちゃんと寝られるじゃない。

アニソンだってバカにしたものじゃないのよ。

軽くぺしっと遊里を叩いて私は身体を仰向けにした。

背伸びをする。

遊里がくれた快楽に私の性欲はほとんど解消されていた。

迎えに来てくれた時に文句を言ったけど、あれは憎まれ口だと自覚している。

確かにイライラしていたけど、私は誰彼もにわめき散らしたりしない。

私のことをわがままと言う人間が居るみたいだけれど私は言いたいことを言っているだけでわがままを言ったことはないと思っている。

ちゃんと社会での筋は通しているし、年上は敬っていた。

 遊里だけ分かっていてくれればいいわ。

そう思う。

随分、私の中で比重を占めてしまった。

誰かが私にちょっかいを出しに来てもあまり気にも留めない。

少しはくらっとしてもいいと思うのに、遊里を思い出して比べてしまう。

そうすると、必然的に遊里の方に軍配が上がって『ハイ、ゴメンナサイ』ということになる。

遊里側にしては扱いやすいのかもしれなかった。

 少々、悔しい気もしないでもないけれど。

そんなことを考えていたら私も眠気が襲ってきた。

明日も仕事かー、楽しい事ばかりでもないけれど自分の好きな事を仕事にできている私たちは幸せな方か。

 時々、私が本当にチェリストかと疑問がる遊里だけど一応、私はチェロ弾きだ。

確かに、プロの範疇に組み込まれると異様組に分けられてしまうチェリストではある。

 そんな私を好きだなんて言ってくれる遊里もまた、異様組のカメラマンなのかもしれなかった。

私はひとつ、あくびして遊里に身体を寄せる。

なんだかんだと言っても私は遊里の事が好きだ。

普段は照れて言えないけれど、いつも思っている。

時々、最中に口走ってしまうことがあるとそれは私の本心。

そこら辺をわかってくれれば、自分勝手だけれど普段「好き」と言わなくてもいいと思っていた。

 瞼を閉じると一気に眠りの中に私は引き込まれた。

明日起きて、目の前に遊里が居ることは今の私の最大の幸せであることに違いない。

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