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遊里、熱が出て体調不良になる。

精力的に仕事をこなす遊里。

しかし、ある日、体調が悪くなって・・・

私はため息をついた。

いつもの事。

「おとなしく離れて頂戴、ね?」

つとめてやさしく言う、強く言うのはご法度だ。

「嫌です、今日は遊里さんと一緒い居たいです。」

甘えるように身体に絡みつく腕。

本日の私の被写体のアイドルだ。

なんでかなあー、いい男なんていくらでもいるだろうに何で皆私に固執するんだろう。

「黒崎さん・・・」

私は彼女のマネージャーに助けを請う、頼むなんとかしてくれ!と。

「はあ・・・」

はあ・・・って、何なのよ!この男!!苦笑いしてないで何とかしなさいっての!

「このあと、また仕事なの。離して頂戴、ね?」

道具を片付けながら内心うんざりする。

甘えれば落ちるっていうのは誰にでも通用する物じゃないわよ、特に私は。

「じゃ、じゃあ、メルアドと番号教えてくださいよー」

「悪いわね、私は教えない主義なの。」

「何でですか?」

何でって、仕事以外でやっかいを抱えたくないのよ。

滅多に冴子は私の携帯は見ないけど、ふと見られたら生きた心地もしないわ。

私は何とかまとわり付く彼女をひっぺがしてその場から逃げ出した。

まったく、疲れるったら・・・。

次の仕事場でもそれは同じで、相手が女性であれば同様な対応をしないといけなかった。



ドサッ。

バックを助手席に投げて疲れた身体を運転席に落とした。


 今日は特に疲れたわ・・・・これなら冴子を相手にしてたほうがまだマシ。


若いだけにこっちが圧倒される、心身共にまだ未熟なくせに大胆なんだから。

「?」

バックの中で音がした、携帯・・・・。

私は手を伸ばして携帯を取り、確認する。

 冴子だわ。

「もしもし?」

疲れた身体に清涼感か、更に追い討ちか、どっちかよね。

『・・・ちょっと大丈夫? 疲れてるんじゃないの?』

「わかる?」

声にも出ていたか。

『分かるわよ、投げやりな出かただもの。』

「疲れたから今から帰るわ。」

『帰れるの?』

「おしまい、オシマイ。待ってて頂戴。」

『夕飯はいいわ、買ったから。遊里の分もあるから。』

それは嬉しいわね、帰ってから家事ていうのはすごく疲れるから。

私は少し気が楽になった気がした。

ハンドルを握ってがんばってマンションまで運転することにした。

早く帰って休みたい。


「ただいま・・・・」

もうすでにダウン寸前な私、こんなのは初めてだった。

お風呂に入らなくてもいいかな? 入るのも面倒くさい。

「おかえり・・・って、随分ね。」

私の顔を見るなり、苦笑する冴子。

「随分、堪えたわ。」

よろよろしながら玄関で靴を脱いで上がる。

「熱でもあるんじゃないの?」

「大丈夫よ。」

おでこに当てられそうになった手を振り払おうとしたけど出来なかった、手が上がらないのだ。

「・・・遊里、だるくない?」

「だるい? そんなことは・・・・」

「熱があるわ。」

熱? 自覚が無いんだけど。

疲れの為かと思ってたけど、熱があったの?

「明日、仕事はあるの?」

「・・・ある・・・けど、打ち合わせだけかな・・・」

まずい、頭が回らなくなってきた。

これはホントに熱があるのかもしれない。

「打ち合わせだけなら取りやめなさいよ、体調不良のまま仕事をしてもいい仕事はできないわよ。」

私の脇の下に腕を通し、身体を支えてくれる。

「・・・冴子に言われるとはね。」

「なによ、その言い草。」

「ごめん。」

「今日はそのまま寝たほうがいいわ、身体は拭いてあげるから。」

今日はやさしいわね、なんでかしら。

私は冴子のいうとおり明日の打ち合わせを延ばしてもらい、休養することにした。

1日丸々寝ていれば良くなるだろうから。

 ベッドに座り、背中を冴子のほうに向ける。

冴子はお湯でタオルを濡らして私の背中を拭いてくれた、温かいタオルが気持がいい。

お風呂には入っていないけれど、タオルで拭かれるだけでさっぱりする。

「・・・38度5分、よく立っていられたわね。」

タオルで拭かれ、パジャマに着がえた私の体温を測った冴子が言った。

「熱の自覚は無かったんだけど。」

「ダルかったんでしょ?その時点でもうまずいわ、ちょっとは気にしないとダメよ。」

「分かった。」

「遊里みたく上手じゃないから、レトルトでいいわよね?」

テーブルに置かれたお粥を私の前に出す。

せっかく買ってきてくれたものが食べられなくなったのは残念。

「十分よ、ありがと。」

私が手を伸ばそうすると冴子が制した。

「?」

「食べさせてあげるわよ。」

顔を見た。

「なによ。」

「珍しい。」

「病人にはやさしくしないとね、はい。」

レンゲに掬って私の口元に運ぶ。

・・・まあ、それ以上突っ込んだことを言うと怒られそうなので何も言わないことにした。

少し冷まされたお粥を口に入れる。

ほぼ流動で良かった、実際には固形の物は喉を通らなかったから。

ごくん。

何度かそれを繰り返して、作って貰ったお粥を食べ切る。

そのあとで、寝る前に生姜湯これもインスタントも持ってきてくれ、それを飲んで寝ることにした。

「ありがとう、冴子。」

熱い生姜湯を飲みきって身体がぽかぽかしている。

このまま寝れば、絶対明日は良くなってそうな気がするのが不思議。

「別にいいわ、私の時もしてくれたでしょ?」

私の布団をかけなおしてくれながら言った。

「おやすみ・・・」

「おやすみ、遊里。」

さすがに唇にはしていかなかったけれど、私の額に唇を落としていった。

不謹慎にも私はドキドキしたのだった。



次の日は、まだ完全というわけではなかったが昨日よりは大分良くなった気がする。

気分もいい。

結構、汗もかいたみたいだった。

「おはよう、気分はどう?」

タイミングよく、冴子がやってきた。

「大分、いいわ。」

「それは良かった、着替えるでしょ?」

「うん。」

今朝も、冴子は濡れた温かいタオルを持ってきていて身体を拭いてくれる。

「今日はちゃんと寝てた方がいいわ。」

「分かってるわよ。」

子供じゃあるまいし。

「私の方は、人と会うから夕方まで帰って来ないから。」

「仕事?」

「まあね、こんな状態の遊里を置いて行くのは心配だけど。」

よし、と言ってパジャマを渡してくれる。

私はもそもそと着替えた。

「たまの事よ、おとなしく寝てるから大丈夫。」

「何か買ってくるわ、何がいい?」

「いらない、気にしなくていいから。」

「あ、ベッドに入らないでゲストルームのベッド使って。」

布団に入ろうとしたら冴子に止められた。

「え?」

「シーツとか、汗をかいたみたいだし、あとで洗うから。」

ちょっと驚いて、顔を見上げてしまった。

「なによ。」

「だって・・・」

「あのね・・・私は人並みの生活は出来るのよ、家事はしないんじゃなくて遊里がさせてくれないんじゃない。」

ぱっぱと出来るから、てこずる冴子にさせるより自分でやってしまう事が多い。

余裕が無い時はさすがに頼む事はあるけど。

布団を巻き上げられ、私はすごすごとゲストルームに移動させられた。

さっきまでの布団の中とは違い最初は、寒い。

換気の為か、窓も開いているので風通しが良くてさらに寒い。

「お粥でいいわよね? 作ったから。」

「うん、あと水もくれる?」

まだ、固形は無理だなあと感じる・・・喉も渇いた。

今朝は鳥粥だった、ダシの匂いが良い香り。

昨日と同じく梅粥かと思ってたのに、変化をつけてくれたのかな。

「私は急ぐからこれは一人で食べて、悪いけど。」

お盆の上にお粥とレンゲ、ペットボトルの水を乗せて冴子は言う。

 なんだ、残念。

私が残念そうに冴子の方を見ると、それを感じたのか苦笑した。

「良くなる方が先決でしょ、仕事にも復帰できないわよ。」

「分かってるって。」

残念がっても冴子のことだから、どうなるものでもないので諦めてお粥を食べ始めた。

「ちゃんと寝て。」

「一度言えばわかるって、早く行ったら?」

「はいはい。」

肩をすくめ、冴子は扉を閉めて出て行った。

時計を見れば8時過ぎ・・・こんな時間にゆっくりベッドで寝てるのは久しぶりかな。

ここのところ、忙しかったし。

子猫ちゃん達のアタックを躱すのも一苦労。

お粥を食べ、時間を空けてから身体全体を伸ばした。

気持ちがいい、それを私は何度も繰り返した。

全身凝ってる気がする、それも疲労の原因のひとつかもしれない。

布団が温かくなってくると自然と睡魔が襲ってきた、今日は気兼ねなくゆっくりできるからそのまま身を委ねようと思う。

仕事の事を完全に忘れて、休息を取ろう・・・・

私は気持ちの良いまどろみの中に溶け込んで入った。



私はトイレに起きた。

自然現象だからこれは起きないと仕方が無い、私は結構寝ていたようだった。

 爆睡・・・寝ていた時間に苦笑する。

夕暮れに家の電気が付いていないので冴子はまだ帰って来ていない。

朝の具合に比べると体調はかなり良くなっていた。

これなら、夜は冴子に身体を拭いてもらわなくても、自分でお風呂に入れるな。

キッチンにあるお風呂湯沸かしのスイッチを押した。

出来るまで手持ち無沙汰だったから上を羽織って、リビングに移動する。

ほぼ、回復したようだからお風呂ができるまで新聞を読むつもりで。

冴子が帰ってきたら油断するな!って、怒りそうだけど(笑)。

もう、元気なのでジッと寝ているのも退屈なのが本音かな。

パラパラと新聞を捲り、TVをつけて、寝ている間起こった出来事などを頭に入れていった。

日常の時事などは意外と、被写体との会話やクライアントとの会話に役に立つ。

私はどちらかといえば古いタイプの人間でネットでニュースを見るのではなく、紙面で見る方。

ネットのニュースは画一的で偏っている気がするのだ。

その点、新聞は多方面のニュースを見ることが出来る。

そして画面を見るのと紙面を見るのとでは目の疲れ具合も全く違っていて、新聞の方が楽だった。

「あ、おかえり。」

夢中になって読んでいると冴子が帰って来てしまった。

私は急いで寝室に帰る事もできなかったので睨む冴子と対面することになってしまう。

「おかえりじゃないでしょうが、何やってるのよ。」

「新聞見てる、お風呂が出来たらお風呂に入ろうかと思って・・・」

ずいっと私の前に出て、冴子は私のおでこに触れた。

「熱、無いでしょ?」

「体調は?」

「すこぶるいい、お粥のおかげね。」

「インスタントじゃない、それよりホントに大丈夫なの?」

持っていた買い物袋らしきものを床に置く。

「ホントに、1日寝たらすごく良くなった。温泉の元を入れて温まってくる。」

キッチンの方でお湯が沸いた合図のアラームが鳴っている。

「お風呂で倒れないでよ、遊里。」

ため息を一つ付いた。

「大丈夫だって。」

私は冴子の肩をたたいて浴室に向かった。

髪と身体を洗って、さっぱりして温泉の素を入れた浴槽に身を沈める。

これまた極楽、身体を伸ばしてリラックスする。

本当の温泉ならもっと効果が出るのだろうが、贅沢は言わないでおこう。

もう少ししたら、お休みを取って温泉にでも行こうかなという気分にもなる。

冴子は大勢で入るのは苦手だから内湯のある温泉がいい。

気持ちよくて・・・あんなに寝たのに、ここでも寝入ってしまいそうな感じ。

身体の中からぽかぽかしてきたから、またベッドに行ったら速攻寝られるかもしれなかった。


冴子は大丈夫だっていう私を強引に、ベッドに寝かせた。

私に明日の朝までは油断なきように、と言い聞かせる。

その強い口調に押されるように私はおとなしくしたた。

夕飯は冴子が作ってくれたパスタとスープは美味しかった。

料理は全くダメ、というわけではない。

ただ、私が作る料理を見て食べると自分の作る料理が美味しく感じないらしい。

『食べるなら美味しい方がいいじゃない』と言う、それが料理をあまりしない冴子の言い分だった。

「私は洗濯があるから、行くわ。」

昨日、汗をかいたシーツ等。

この間、ハンドクリームを送ったばかりなのに悪く思う。

「たまの事よ。」

昨日、私が言ったセリフを言い返す。

「終わったら来る?」

「・・・病人でしょ、遊里。」

手を掴んだ私に睨んで冴子は言う。

「もう、殆ど全快。」

「だから元気なのね、でも今夜まではひとりで寝て。」

「全快って言ってるのにつれないわね。」

「明日になったら信じるわ。」

ぺしっと私の手をもう一方の手を叩く。

「もう、優しくないのね・・・冴子。」

「そんな風に甘えたって、優しくしないわよ。」

元気なのはバレバレなので優しくする事もないと思ったのかいつもの冴子だった。

ま、いいけどね。

やさしすぎるのも不気味だし、これくらいのキツさがある彼女の方がいい。

「了解、今夜も大人しく寝るわ。」

「そうして。」

冴子は身を屈めて顔を近づけてくる。

今日はおでこじゃなく、唇にしてくれるらしい(笑)。

「ん・・・っ」

せっかくなので、私はすぐには冴子を離さなかった。

腕は掴んでいたので引き寄せたまま。

冴子も振りほどくのは簡単だったのにそれをしなかった。

しばらく、キスをしてやっと離すとその顔は笑っている。

「こんなキスができるなら・・・もう、病人じゃないわね。」

「そうだって言ってるのに。」

「でも今夜は寝るのよ、遊里。」

「冴子。」

そう言う冴子は誘っているように見えた。

言葉では私を言い聞かせているのに、目前にある表情はその反対をうつす。

私の勝手な思い込みかもしれないけれど。

「おやすみ。」

冴子は今度は軽く私の唇に触れ、身を引く。

腕を離す必要はなかったけど、自然と手が離れた。

確かに、”今夜”である必要はない。

冴子はいつも側に、手の届く所に居るのだから。

今日のところは引こう。

「おやすみ、愛してる・・・冴子。」

「・・・・・」

冴子は何も言わなかった。

顔はしかめなかったけど、出て行く時に『バカ』とだけ言ったのが聞こえた。

声色は照れているのか、少し笑いを含んだ感じだったような気がする。

 たまには弱ってみるのも、いいのかもしれない。

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