秘密の園
夕方
まるで仕事の疲れでフラフラと「しているかの様に」装い、帰宅する男
自宅の玄関に入り、やはり演技として、もう少しリアリティを出すのなら、あまりフラフラとするのもおかしいのかな…などと思う
「ただいま…」
『お帰りなさい…』
帰宅した「二太郎」に向けて、キッチンから「一姫」の声が聞こえる
リビングに座り一息
『今日も、ずいぶん疲れてるのね』
「前にも言ったけど、新しい「先生」とあまり合わなくてねぇ…」
『そう…本当に大変なのね…「園」は…』
「君はもう、あの組織から抜け出た身だ『大変なのね』とか軽く言いやがって…」
『ごめんなさい…そんな意味で言ったんじゃなくて…』
「イイよもう、もうやめてくれ、風呂入って来る」
『うん』
とある組織「園」
通称「秘密の園」
この国の最高機密にいずれ関わる事になる、選ばれた者達だけが属する事の出来る組織
いくつもの試験、個人的能力、果ては家族構成に至るまで調べ尽くされ、それでも「園」に入る事は難しい
そんな組織「秘密の園」
風呂から出た二太郎は、キッチンに立つ一姫の後ろ姿を見ながら
「さっきはすまなかった…別に、怒ってるとかじゃないんだ…」
『…うん、大丈夫。分かるから』
………………
無言で着替える二太郎
いつから、こうなってしまったのだろう…
二太郎も一姫も同じくそう考え、悩んでいた
『ねぇ…二太郎…』
一姫は、夕飯を並べながら言う
『辞めてしまえば?…そんなに大変なら…』
その言葉に一瞬キョトンとし、次いで笑い始める二太郎
「辞めるってwwwそれは「不可能」だろうがwww」
『……………だよ、ね…』
組織「園」は、入る事も難しいが、一度組織に属すれば、今度は「決して」辞める事は出来ない
国の最高機密に、いずれ関わる事になった人間に「辞める」などという勝手な行為が許される筈もない
もし辞める事が出来たとしても、その先はもう、まともな世界で生きて行く事は難しい
その上、二太郎と一姫は、通常の夫婦では考えられない大きな「秘密」を抱えている
翌朝、家から出る二太郎に、一姫は思い詰めた様子で言う
『今夜…ちょっと話したい事があるの』
「?…ああ、そうだね…そうか…」
『疲れてるのに、ごめん』
重い気分で出園する二太郎
園には「先生」という人間が存在し、二太郎達は絶対服従しなければならない
この国の根幹を知る特別な人間達で、二太郎達とはトイレや休憩室まで分けられているという時代錯誤も甚だしい存在
もはや「差別」だと訴えても勝てるであろう存在
しかし「園」では「絶対」
訴訟を起こして勝訴としたとしても、二太郎には園での居場所が無くなり、園から去る事になるだろう
園から去れば、その先は、無い
一姫と共に生きる未来は、確実に消える
一日を終え帰宅する二太郎の気分は重い
「なぁんだろうなぁ…話って…」
そう夕暮れの空に一人話しかけながらも、大概の察しはついている
「サヨナラかな…」
サヨナラ…だよな…
「ただいま〜」
『お帰りなさ〜い』
いつもと変わらず、キッチンから聞こえる一姫の声
風呂に入りリビングに戻ると、いつもの様に夕飯がテーブルに並ぶ
当然、二人の間に流れる空気は重い
話って…なんなんだ?
しかし一姫は、何も話しては来ない
んん?
んんん?
なんだ?
なんなんだ?
夕食を終えて、テレビを観ながら談笑し、いつもの様に今日が終わる…
二人でベッドに入った時、一姫がついに口を開いた
『ねぇ…朝の話しなんだけど…』
まさか、このタイミングで?なんだ?
『私…子供が欲しいの…』
やめろ一姫、やめろ。やめろ。やめろ。
それは「この関係」を始める時に、二人で話し合った事じゃないか
二太郎と一姫夫婦の抱える、大きな「秘密」
二人の婚姻届は、受理されていない
と言うか、役所に出されてもいない
二人が「この関係」となった日から、ずっとずっと、リビングの引き出しの中に有る
一姫
二太郎
二人は、実の兄弟
彼等は法的に、結婚する事は出来ないのだ
まして「子供」など
一姫
二太郎
まこと理想的な兄弟
しかし、その「愛」は、大きくネジ曲がってしまった
「一姫…それは、それだけは「イケナイ事」なんだよ…一姫…」
『なんで?…なんでなの?…』
「きんしんそうかんは、ダメなんだよ…一姫」
『そうだけど、なんでダメなんだろうね?』
「きんしんそうかんだから、ダメなんだよ」
『きんしんそうかんって、なんなんだろうね?』
「知らなぁーーい。パパがダメって言ってたから、ダメじゃね?」
『パパ怒るとめっちゃ怖いから、ダメだよね』
玄関が開く音がする
『あ、ママ帰って来た!』
「ただいまぁーーー、あーーー疲れた」
『お帰りなさい!』
「ただいま〜(^^)ん?ベッドで二人して何してたんじゃい?」
『二太郎とおままごと!』
「ベッドでするおままごとってwww」
『きんしんそうかん!』
「は?」
『?(^^』
「今、何て言った?一姫」
『きんしんそうかん(^^』
「その言葉、どこで誰に聞いたの?」
『パパが言ってた!私が二太郎と結婚したいって言ったら、きんしんそうかんになるからダメだって!』
「きんしんそうかんの意味は聞いたの?」
『んーんー、知らなぁーーい』
「あの野郎…教えて良い事と悪い事があるだろうが…」
怒りに震える、一姫と二太郎の母「母恵」
「え?めっちゃ怒ってるじゃんママ…」
『くっそ怖い…何で?』
「知らんし」
『知らんよねwww』
「でも怖いから、おままごと、やめよか」
『えーーー、じゃあ何する?』
「ヒーローごっこやろーぜ!俺ヒーローね!」
『じゃあ、こっち薔薇の魔女!』
「くらえ!薔薇の魔女!必殺!きんしんそうかん!!!!!」
『う、あああ!うわああぁあぁああ!!!ヤラれたあぁあぁあぁああ!!!!』
「二太郎ぉおおぉ!!!絶対に!その言葉幼稚園で使うなよおぉ!!!一姫えぇえ!!!あんたも!絶対に学校でその言葉使うなよおぉ!!!」
その夜、パパのご飯はありませんでした