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ゲームの中の殺人鬼に惚れられまして  作者: 死にたい猫_L
第一部 ゲーム_Outside
7/15

#7状況整理

「…はぁ…ここで立往生しててもなんにもならねーからとりあえず動こうぜ」

タケルが諦めたように頭を掻いた。

タケルの声にはっとして気づくと、殺人鬼が無言で頷くのが見えた。

どうやら協力するつもりらしい。

リアも慌てて頷くと、よろめきながら立ち上がった。

「…っと」

急に立ったせいかふらりと体制を崩しそうになる。

ぱしっと腕に衝撃が走って、さっきと同じ感覚を腕に感じた。

「…あ…」

よろめいたリアのその腕を掴んで殺人鬼が支えたのだ。

「ありがとう…」

リアは小さく言った。

殺人鬼はうっすらと笑ったように見えた。

やっぱり悪い人には見えないんだよなぁと思う。

ましてや人を殺す人間には。

そう思うが、胸にしまっておく。

タケルが先導し歩いて行くと、給湯室のような、調理ができるものが一式揃った場所に入った。使われていないであろうピカピカの流し台とコンロ、側には冷蔵庫と隣に戸棚。

マグカップやティーカップの置いてある食器棚がキッチンの上に、お湯を沸かす給湯器と一緒に置いてあった。蛇口をひねって見るとちゃんと水が出た。コンロも火がつくようだ。

「なんか…おしゃれだな」

洋式っぽい雰囲気を醸し出しているキッチンは色が赤で、コンロは銀じゃなくて黒。

まるでおもちゃのようだ。

「ああ。なんかここにあるものみんなそうだな」

タケルが頷きながら言った。

真ん中に置いてある小さな白いテーブルの側の椅子に座る。

話をしよう、という体制らしい。

リアもタケルの向かい側に座る。

その隣にさらっと殺人鬼が座った。

タケルが眉根を上げるがとりあえずは無視した。

「じゃあ、混乱しているだろうからゆっくり順を追って話していこう」

タケルは腕を組んで話し始めた。

「まずは自己紹介。俺はタケル」

「私はリア」

リアもタケルに続いた。

殺人鬼が頷く。

「…喋れないんじゃ話しようがないな…」

少し間を置いてタケルが言った。

「あ、それなら、これ」

リアがメモ帳とペンを差し出した。

「?こんなのどこで…」

「さっきタケルが起きた部屋だよ」

起きる前に見つけて持っていたのだ。

「たぶん大半は通訳できるけど」

リアはさりげなく付け加えた。

リア…何者…?

という視線で見られてリアがあははと笑った。

「私、人の表情に敏感なんだ。手品とかじゃなくて、なんとなくわかる、って感じかな。家族とか、普段行動を見ていている人とか。わかるでしょ?」

リアが普通に笑う。

笑うと可愛い…じゃなくて。

邪念を振り払い、タケルは咳払いをしてリアを見た。

「リア、リアってさ、育ちいいだろ」

リアの表情が少し固まる。

「なん…「誤魔化すなよ」

リアの言葉をタケルが遮った。

「口調も剥がれてきてる。今まで無理に使ってる感はあったからな」

リアが小さくなって黙り込む。

「…リアはさ、そのままでいいんだよ」

え?と言う顔で顔を上げるリア。

「そんな俺に合わせるような砕けた話し方しなくても」

タケルが少し恥ずかしそうに笑った。

「俺はありのままのリアがいいな」

その言葉にハッとしたように唇を噛み締め瞳を震わせた。

「…あり…がと…」

蘇る不登校になる前の記憶。

『お前さ、ムカつくんだよ』

え…?

『どうせ金持ちアピールだろ?口調変だし」

そんな…金持ちとか…そんなんじゃ…

『私のお母さん絵本作家なの〜』

途端に下品な笑い声がゲラゲラと耳を裂く。

ぐらぐらと自分の大切な何かが崩れてゆく音が、聞こえる。

『だからぁ?』

意地の悪い笑みが向けられた。

『どうせ海外に行ってばっかで帰ってこない親の癖にサァ』

どくん!

どくんどくんどくんどくん

どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん!


『やめて…』

『あ?聞こえねぇよ』

『やめて…!」

『はぁ?なんて?』

『やめてぇっ!!』

自分の口からとんでもない声が聞こえたかと思うと、意識は白い天井に飲み込まれていった。

ぽたぽたと涙が溢れる音がした。

「リア?!…ごめん…傷つけるつもりは…」

遠くでタケルの声が聞こえた。

…駄目だなぁ。

私、駄目だなぁ…

家族とならあの話し方でも平気だったのに。

人と話すと…やっぱりどっかで戻ってきてしまう。

というか、本当はタケルに嘘ついてるみたいで嫌だった。

自分自身の言葉で会話したかった。

それだけだった。

「…ごめん…う…大丈夫…違うから…大丈夫だか、ら…」

なんとか嗚咽を飲み込みながらつっかえつつ話す。

タケルがその反応に複雑な気持ちの色を示した。

涙を拭ったその時、暖かいぬくもりが肌に触れた。

「…っ」

涙で滲んだ視界を向けると、指先が涙を拭った。

「…あ…」

殺人鬼さんが拭ってくれていた。

顔はどこか怪我をしたように苦渋の表情で、眉根を寄せ、痛みに耐えるようにしきりに私の涙を拭う。

「…ふふ…ありがとう…」

気持ちをやわらかく強く、込めた。

言いながら頬を包むその手に重ねるように、自分の手を乗せる。

流れてゆく透明な熱い涙が、殺人鬼の指を伝い濡らしてゆく。

時が止まったような一瞬に、しばらく体を横たえていたい。

そう思った。

すると、もうそろそろ慣れてしまいそうなくらいの反動が体に走った。

「わっ」

押し付けられるこの感じ…

「げっ」

タケルが悲鳴をあげた。

やっぱり、抱きしめられている。

「殺人鬼さん…!大丈夫!大丈夫だから!」

急いで離れようとするが、本当に大丈夫か?という疑念の視線を向けられる。

「私のこと信じてないの?」

上目遣いで見ると殺人鬼はうっという顔をして目を背けた。

勝った!

殺人鬼が名残惜しそうにするすると手を離す。

なんかよくわかんないけど勝った…

不思議な勝利感に包まれて瞬きを繰り返すリアにタケルが言う。

「あぁ、もう。話し合いぐらいちゃんとさせてくれ…」


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