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ゲームの中の殺人鬼に惚れられまして  作者: 死にたい猫_L
第一部 ゲーム_Outside
6/15

#6思い

「……ん…」

体がだるい。まるで徹夜してゲームした時みたいな感覚だ。

何時間も眠った後のような体の痛さが脳に訴えてくる。

もしかして全部…夢…だったのかな…

少しだけ怖さを持って薄眼を開けた。

視界に、どこかの洋館の廊下のような場所が映る。

廊下…?にしては床が固くないな…

その途端に誰かに肩を抱かれていることに気づく。

反射的にぎゅっと引き寄せられたような動作が肩の上で行われた。


驚いて目を完全に開けると、自分を抱きしめたまま見つめているその存在が目に入った。


「…殺人鬼…さん?」

なんと呼べばいいかわからなくて口にした言葉は「殺人鬼」だった。

しかしそれには反応せず、殺人鬼は目を細めた。

安心した…?みたいだな…


「…っタケルは!」

ハッとしてあたりを見渡す。

殺人鬼はあっちだというように視線を動かした。

そこには体勢を変えて床に蹲るタケルの姿があった。


「タケル!!」

急いで殺人鬼の腕から逃れてタケルの元へ行こうとしたその瞬間。


「わっ!」


殺人鬼はいとも簡単にリアを持ち上げて、自分の膝に着地させた。

脇下に腕を回し、膝を持ち上げて守るように抱えた。

ぎゅっと再度肩を抱かれて、男の人の胸板に押し付けられる感覚に目を回しながら真っ赤になって叫ぶ。


「やっ…何すんだっ…離せっ…この!」


渾身の力で離れようと胸を押してみるが肩に添えられた大きな手はしっかりと掴んで離さない。暴れていると別の人間が動く気配がした。


「…リア…殺人鬼お前!何してんだ!リ、リ、リアから離れろ!!」


タケルが起き上がって赤くなりながらわなわなと震えて指を指す。


「タケル!!起きたのか!」

ついに隙をついて殺人鬼の腕から逃れたリアはタケルの側まで走っていってその手を握った。

「大丈夫か?タケル」

じっと少し潤んだ瞳で見つめられてさらに真っ赤になるタケルがぼしゅっと音を立てて撃沈した。

「タケル?タケル!…タケルぅぅ!!」

うわぁぁぁと悲鳴をあげるリアに見えないところで殺人鬼は溜息をついた。

***

「う…あれ…?」

タケルはゆっくりと目を開けた。

そこは、廊下の端にあった宿泊用の部屋だった。

「タケル!…よかった…」

タケルが横たわるベットの側の椅子の上で、安堵の息を吐いたリアが笑いかける。

「俺…どうして…」

ぼんやりした視界に映るリアの姿を認め、タケルは視線を移す。

そこにはもう一つ無表情な顔をした殺人鬼の姿があった。

「わっ!殺人鬼!」

驚いてタケルは布団の中で後ずさりをした。

殺人鬼は動じずじっとタケルを見つめた。

「な…なんだよ…なんか喋れよこの野郎…」

殺人鬼は眉根を寄せ首を傾げた。

びくりとタケルが震えて訂正した。

「喋れ…くださいこの野郎…」

それを見てリアがあははと少し笑う。

「タケル、多分なんだけど、この人喋れないんじゃないかな」

タケルが目をパチクリする。

「喋れ…ない?」

リアはうんと頷いた。

「ゲームの中でも喋るキャラじゃないし。もともと喋るように設定されてないからだと思う」

「なるほど…」

タケルは納得したように頷いた。

「でも!何するかわからないだろ!最初は襲ってきたんだし…」

「でも、私があの黒い靄に切られた時も庇ってくれたし…」

ぼそりと呟くとタケルは目を見開いて突然私の手を取った。

「切られた?!怪我は?痛くないか?!」

「だ、大丈夫だ…怪我もないし痛くもな」

い、は体が浮いた反動で言えなかった。

「…!?…えっ…」

殺人鬼はタケルが握っていたリアの手を強引に奪うと、そのまま自分の手の中に収め、リアを背後から抱きしめた。

ぎこちない腕がそっと自分を抱きしめて離さない。

「…ちょっ…なに…どうしたんだよ…!」

赤くなって腕から逃れようとするリアを驚き激昂したタケルが助けようと手を伸ばし叫ぶ。

「リアに触るな!」

しかしその手を、殺人鬼はすぐさま叩き落とした。

ぱちん!という音と遅れてやってくる手の痛みにかっとなるタケル。

「…ふっざけんな!触んなって言ってんだろ!!」

ベットから身を乗り出したタケルに、殺人鬼はすっと目を細めた。

「…?なんだよその目…」

殺人鬼はゆっくりと、見せつけるようにリアの手を取り、その手の甲にキスをした。

「…あっ…」

なにをされたのかわかってリアはさらに顔を赤くして硬直する。

「…ってめぇ!許さねぇ!!」

殴りかかろうとするタケルを避けて、殺人鬼はさらにリアを抱きしめる。

殺人鬼の行動に意味もわからず硬直したままのリアは抵抗できずただただ抱きしめられる。

「…のやろ!リアを離せ!」

殺人鬼はさっと身を翻して巧みにリアの体をお姫様抱っこで抱えたまま部屋を飛び出した。

「わっ…馬鹿…降ろせ…ひゃっ…」

右に跳躍と着地の振動。

「待てこの野郎!!ぜっったい許さねぇ!リアに…リアに…あ、あんなこと…」

言ってて自分でも赤面しつつタケルは全力で追いかける。

「降ろせってばぁ…もう…何がしたいんだよ…」

ぽかぽかと弱々しく胸を殴るリアに殺人鬼は少しだけ愛おしそうな視線を送る。

「……へ」

そのあまりに真剣な表情にどきっと胸を揺さぶられるリア。

なんで、そんな顔…すんだよ…

黙りこくった無表情の顔には真剣さが漂っていた。

「待てコラ!」

憤りながら走り回るタケルを撒いて開いていた別の部屋へ飛び込む。

「……」

リアは壁に背中を押し付けて、殺人鬼は前からリアに覆いかぶさるような格好で息を殺す。

走り去って行くタケルの足音が遠ざかった。

てか、なんで私は息を止めて声を殺してるんだ…?

別にタケルは敵じゃないのに…

自分の行動が変に思って塞いでいた口を開くと、今まで緊張していて気づかなかったものが見えてきた。

真剣な顔のままの殺人鬼が顔を近づけてじっと自分を見つめていたのだ。

「…ち…近い近い…離れろ…!」

ヒソヒソと話してどけようと殺人鬼の胸を押すが、殺人鬼は一向に下がる気がないようだ。

むしろもっと近づこうと距離を詰めてくる。

「や…ちょ…」

その勢いを止められず赤くなったまま俯くと、さらに近づいた顔が間近まで迫ってくる。

「ひ…う…」

何をされるかわかったリアは、強張ってぎゅっと目を瞑った。

その唇が触れるか触れないかのところでその怒号は聞こえた。

「ここかー!!」

タケルが部屋に飛び込んできたのだ。

その先の光景にあっと小さく悲鳴をあげてあんぐりと口を開けた。

「う、」

腹の底から押し出されるようなうめき声が聞こえた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

タケルはがむしゃらに二人の間に突っ込んでいくと、殺人鬼を突き飛ばし、リアを壁からひっぺはがすとリアを守るようにぎゅっときつく抱きしめた。

「お、おおおおおお前!ななななっ…駄目だからな!絶対駄目だからな!」

わなわなと震えながら必死に捲したてるタケルにリアが苦しそうに呻いた。

「…タ…タケル…苦しい…」

はっとして腕の中を見ると、苦しそうな表情を浮かべたリアが目に映った。

びっくりしてぱっと手を離す。

「ご…ごめん…」

小さな呟きは赤い顔を隠すための袖にこもって聞こえた。

一方突き飛ばされた殺人鬼は衝撃にグラグラしていた頭を振って意識をはっきりさせると、リアを探して視線を泳がせた。

タケルと目が合いキッと睨まれる。

溜息をついたようにリアを見ると、リアは少し怯えたように体を震わせた。

それを見て少しだけ悲しそうな顔をすると、殺人鬼は床を這ってリアに近づいた。

さらにリアが怯える。

緊張に押されてタケルが動けないでいると、殺人鬼は長い腕をすっと伸ばした。

反射的にリアが目を瞑る。

距離は、タケルがリアの横にいるのにも関わらず顔に触れられるぐらい近い。

長い長い一秒が過ぎた。

「…っ…」

身構えたその時、リアの頬に温かいものが触れた。

大きな、温かくて優しい手。

指先の熱が明瞭に伝わってくる。

そっと目を開くと殺人鬼はただ、頬に手を添えて、それから少しだけリアの髪を撫でた。

「…ぁ…え…?」

緊張の糸が切れたように漏れ出す息が安堵のように囁かれた。

目を見開いたリアによく見えるように頬から手を放し、殺人鬼は両の手のひらを開いて軽く広げると空中で止めた。

何もしない…って合図…なのか…?

ぼんやりと、そんな考えがリアの頭をよぎった。


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