#3ゲーム
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
後方から射撃。
ヒット。
背中に着弾。
Game Over のかすれたホラーな書体の文字にだらだらと血が垂れてくる。
「っつ!ぅあー!あーあ死んだー。」
頭を抱えてコントローラーを投げ捨てる。
「あっ、ちょ、投げんな!」
コーラを2缶片手に一つずつ持ってきたタケルが背後から怒る。
名前をフルネームで聞いたところ、亘理 健 (わたりたける)と言うらしい。
「…あ、ごめん…」
えへへ、とおどけて見せるとタケルが少し固まる。
?キモかったかな?
でも心なしか顔が赤いような…
「タケル?どうしたの?」
「べっ、別に?なんでもない…」
よくわからないけどまあいいや。
にこにこ笑って待っていると、タケルがぶっきらぼうにコーラを差し出した。
「ん!」
「…!…さんきゅ!」
ふにゃっと笑うとリアってなかなか可愛い…いや、別に、なんとも思ってないし…
と、タケルは思う。
やや赤く染まった頬を冷ますようにコーラの缶を頬に当てる。
冷たい…
「なあ、続き、やらない?」
「お、おう…」
笑顔の誘いに断れないタケルだった。
肩を並べてゲームに集中する二人。
2時間奮闘するも、なかなか勝てず疲弊する二人。
「…はぁ…はぁ…ト、トイレ借りていいか?」
「…いいよ…廊下んとこ…」
「さんきゅ…」
疲労感が背中を襲う中、廊下を歩いた。
「…ただいまー」
「おかえりー」
帰ってくると、タケルがパソコンを開いて何やらカチカチとマウスを動かしている。
「何やってんの?」
「ん?」
「…?フリーホラーゲーム?素人自作のゲームなのか?ふーん…げっ殺人鬼出てくんのかよ…」
「本当になんでもやるんだな…」
タケルが呆ながら言った。
「いやーゲーム中毒なもんで…」
あはは、と笑うと、わかるけどな、と言葉を返してきた。
「で、どうする?やる?」
「…っへへ。愚問っしょ!」
***
結局やることになった。
「これ、なかなかのクソゲーだな…」
「ああ…なんか殺人鬼クッソはえーし」
開始五分で疲れが出てきた二人。
ストーリーは、いきなり殺人鬼に追われる幼馴染の少女を助けて一緒に逃げる、という内容だ。
殺人鬼の容姿はこれまた殺人鬼らしくなく、金髪のオールバックにスーツ、となかなか派手だ。しかもイケメンに書かれている。武器は大きめのサバイバルナイフらしい。
「…っ…このっ…う…あ、やば!」
コーナーを曲がりきれずに追いつかれそうになる。
手に汗握るプレイにタケルが息を飲む。
「なんかループしてね?」
「確かに…あ、これ、この廃校じゃない?」
マウスを握りながら視線で廃校を指す。
「そうかも…入れる?」
「お…っけ…っしゃ入れた」
ふぅ、と一息ついたところだった。
ストーリーが進み、ボロボロの体育館のような広い場所が映し出された。
少女と少年が緊張に震えながら辺りを見渡している。
と、いきなり画面に殺人鬼が映し出された。
「…っ」
思わず息を漏らす。
逃げ場をなくした少年が先に切られ、少女も切られた。
リアもタケルも言葉をなくし、黙り込むが、一向に画面は切り替わらない。
「…?ゲームオーバーの画面もないのか?まさかこれで終わりじゃないよな?」
「あー、わかんない、バグったのかな?」
タケルもマウスをいじるが動かない。
「ちっ…なんだよ…」
タケルは諦めてマウスを置いた。
「…やば。11時じゃん。帰らないと。」
リアが時計を見て慌てて帰り支度をする。
「…送ってくよ。お、女の子の、一人歩きは危ないからな!」
タケルが少し頬を染めながら言った。
「…あ、ありがと」
初めての女の子扱いに気恥ずかしさを覚えるリア。
二人はマンションをでて、街灯に照らされた道を歩き始めた。
外に出た途端、視界の端に人影がチラッと映ったように思えてリアが目を細める。
「どうかしたか?」
タケルが聞いてくるが、リアは答えなかった。
少し不吉な予感が胸をよぎる。
何故だか、見覚えがあったような気がするのだが…気のせいかな。
不安な思いはリアの神経を少し敏感にさせた。
あれは一体、なんだったんだろう…