逃げ場は残さない
今回も栞視点です
ヒトゴロシ
その、五文字だけが
その、血で書かれた五文字だけが
その、黒板の緑と正反対の色覚の色で書かれた五文字だけが
今も、後も、私を表す五文字だけが
今も、後も、見たくない五文字だけが
今も、後も、私に付きまとう五文字だけが
後にも先にも、見ることは無いと信じたい五文字が、
彼の、限りない恐怖の心が、
彼の、限りない畏怖の心が、
彼の、限りない怨念の心が、
彼の、限りない怨恨の心が、
私に入ってきて、
私を染め上げた。
「…あ、あぁ、あぁぁあ、あああああ。ああああああああ!あああああああああああ!!」
気付けば私は、叫んでいた。
無意識のうちに叫んでいた。
周りの視線がどうとか気にしなかった。
むしろできなかった。
どうしようもないほどに恐怖した。
「どうしたの?大丈夫、栞ちゃん?」
誰かが声を掛けてくれた。
聞いたことのある声だったが、思い出せない。
そのことにもまた、私は恐怖した。
「大丈夫だよ。うん、大丈夫。大丈夫だから。席に座れば落ち着くよ。」
恐怖に染まった体を無理やり動かして、私は席に座った。
そして、机の中に手を入れて違和感を見つけた。
小さく折りたたまれた紙が入っている。
どうやら、私の他に席に着いた人も紙を見つけたらしい。
その紙を見た人は、全員顔を青くしていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と、呟いている人もいた。
隣の人も、紙を見て震えていたので、内容を読んでみた。
他人に対して書かれたことにだったら、恐怖はしないだろうから。
紙に書いてあった内容には、恐怖せざるを得なかった。
『俺を、自殺までに無視した回数 82回
俺を、自殺までに悪口を言った回数 3064回
俺を、自殺までに陰口を言った回数 4028回
俺を、自殺までに叩いた回数 73回
俺を、自殺までに殴った回数 32回
俺に、自殺までに給食を押し付けた回数 164回
俺に、自殺までに物を盗んだことを擦り付けた回数
560回
お前が俺にしてきたことは法的に考えたら
3000万は下らないぞ。
お前が死ぬことは許さない。
お前が死んだら呪う。
お前が死ななくても呪うけどな。
お前に「死ね」と言われたから、「死んだ」翔より。 』
私の手紙に何が書かれているかを考えたら、恐怖せずにはいられなかった。
「逃げるなよ?」
頭の中に、自殺する寸前の彼の声が響いた。
その現実を認める前に、また声が響いた。
「自殺して逃げられると思うなよ?
否定して逃げられると思うなよ?
反省して逃げられると思うなよ?
その事実は、覆らない。
逃げても、逃げても、追ってくるんだ。
罪悪感は消えないんだ。」
お前は逃げるようなことも許されない。
なんて暗に言われた気分だった。
結局、自分の机に入っていた紙を読んだ。
『 面倒くさくなってきたから一つだけ
お前は一番、逃げちゃいけないんだ。むしろ逃げること以上のことをしろ。』
意味が分からなかった。
後ろの人に、意味を聞こうとして私はまた叫んだ。
後ろだけを向いて前に進める訳ないだろう?
前を向けよヒトゴロシ
教室のロッカーの上にある掲示物を張るスペースに、これもまた血で書かれていた。
私たちは、教室に入ってくる時は、後ろのドアを通って教室に入る。
つまり、後ろのドアから入ったことによって、黒板が第一に目に入ることになり「ヒトゴロシ」に目が行く。
その「ヒトゴロシ」に耐えられずに、後ろを向いた人が、このメッセージを見つける。
そのメッセージに従い、「ヒトゴロシ」に目が戻る。
そしてまた耐えられず‥‥のループに入る。
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
そのことを一目見て、理解した瞬間に私は、叫んでいた。
もうやめて!栞のライフはゼロよ!




