世界は木に染まる
なんか短くなった…。
「あ、目を覚ましましたね。」
目を覚ますと、笑顔のイネラが俺の顔を覗き込んでいた。俺はふかふかのベッドに寝かされている。なんか天井も豪華だ。ここはどこだ?
「あなたは洞窟で倒れていたんですよ。見慣れない服を着ていたので、この王宮に運んできたのですよ。」
…は?あれ?イネラは俺の奴隷だよな?今、王宮って言った?あと理由が酷くない?見慣れないから連れてきた?いろいろ酷いぞ。
「…すいません。そうですよね。急にいろいろ言っても分かりませんよね。」
そんな顔されてもなぁ、なんとも思わないからなぁ。それで何回、酷い目にあったことか。いや、何十回か。…俺ってバカだったんだな。
そんな風に思いながら無表情に天井を眺めていたら、なんかイネラが視界から外れた。イネラって俺の奴隷のはずなんだけどな。もしかすると、リロが怒ってこの辺の設定をいじったのかな?そうすると、辻褄が合うかもしれない。能力の方は変わってないことを祈ろう。
「落ち着きましたか?」
イネラがまた視界に入ってくる。一応、何も知らない風に装うか。
「は、はい。俺は何をすれば?」
「いえ。目を覚ましたばかりの人に何かをさせる訳にはいきませんから…。」
お前なぁ、演技もっと上手にしろよ。そんな誘いで普通乗る?…何もされてない奴はホイホイと付いていくか。言われた通りに何もせずに寝るか。
「じゃあお言葉に甘えて、寝かせてもらいますね。」
そう言って俺は、目を閉じた。……振りをした。
イネラは目を見開いて驚いている。今まで、全部上手くいったんだろうなぁ。
そんなことより、このベッド寝心地いいわぁ。保健室のよりよっぽどいいわ。よく、腹蹴られて気持ち悪くなって寝かされたよ。
「え!?どうかなされたのですか⁉国王様!」
ドアが開いた音がして、足音が響く。杖でもついているのか音が不規則だ。イネラはその入ってきた人に、国王様と声を掛けたようだ。…わざわざ、俺の上で大きい声で。起きる気無くすわぁ。
「大事ないわい。儂より、その者の様子はどうじゃ?」
そんなに俺のこと気になる?俺より、自分の孫のうぬぼれ具合心配したほうが良いんじゃないの?
「頑なにベッドから起きようとしません。」
「そうか分かった。起きるまで寝かせておけ。」
「はい。」
面倒くさいなぁ。今たまたま起きて、国王を驚かすのが無理になっちまった。…眠くなってきたし寝るか。やっぱり寝心地良いわ。
「起きた時が楽しみですね。」
俺が眠る瞬間に、イネラがそう言ったのは、気のせいだと信じたい。
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目が覚めると、俺は暗い地下室みたいなところで磔にされていた。イネラが鞭を持って、ニヤリ、と気持ち悪い笑顔をしていた。
「目が覚めたのね。能無し。」
俺決めた。こいつ奴隷にしよう。『言発現実』が使えると良いんだけどな。
「あぁ。目が覚めたよ。『俺の奴隷のイネラ』さんよぉ。」
なんか勝手に強調されたな。これで、イネラが奴隷になってたら成功だな。
「なっ!?私の体が勝手に!?」
イネラは俺に跪いていた。どうやら成功したらしい。…便利すぎないか?この能力。
「イネラ、『俺を磔から外せ』。」
俺がそう言うと、イネラは立ち上がり、俺を磔から外した。イネラは一切喋らなかった。俺を睨みながら作業をしていた。
「イネラ、『磔になれ』。」
俺がそう言うと、イネラは俺を睨みながらも、自分から磔になった。
「イネラ、『この世界の本質以外の全ての記憶をゆっくりと失え』。」
「いやぁぁ!辞めて!消えていく!思い出が!全部消えていく!やめろ!辞めろって言ってんだろ!おい!あ!あぁ!」
俺がそう言った途端、イネラは叫び始めた。叫ぶのが終わったと思ったら、がっくりと首を項垂れた。自我が完全に消えて、何もできないようだ。…あれ?これ人として死んでね?
「イネラ、『俺に忠誠を誓い、俺のために動け。まずは磔から外れろ』。」
「はい。」
イネラは、無表情のまま返事をして磔から外れた。そして、俺に跪く。その動作と同時に、おじいさんが地下室に入ってきた。きっと、さっきの国王的な人だろう。
「じじぃ、『この世界の事を大まかに話せ』。」
名前知らなくても大丈夫かな?
「この世界は、地上が木に覆われてしまい、地下に住むことを余儀なくされた人間達が、木と戦っている世界だ。この世界は木を切ったら救われるのだ。なっ!口が勝手に!貴様!儂とイネラに何をした!」
リロ様?木を切ったら世界は救われるってどういうことですか?いや本当に。まぁ木を切って世界救えるならば、とっとと救おう。
「じじぃ、『俺とイネラを地上に出してくれ。ここから一番近い出入り口でいい。…ただし、黙ってな』。」
じじぃが歩き出したので、それについていった。イネラもちゃんと付いてくる。
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「ここが、地上の入口だ」
しばらく歩いたところで、じじぃが振り向いて案内した。城の裏口みたいなところから出て、長い通路を通ったところに、重そうな扉があった。
「ありがとうおじいさん。もう帰っていいよ。」
「娘のイネラを返せ!」
娘って、その年で娘って…。頑張りすぎだろこのじじぃ。
「『黙ってろ』」
なんだろうな。意図しなくても発動すんのか。便利っちゃ便利なんだけど、いざという時に困りそうだな。
「さ、行くぞ。イネラ。」
「はい。」
俺は、扉を開けて目を疑った。
扉を開けて、一番先に目に飛び込んできたのは木だった。直径40センチぐらいの、杉の木だった。ただ、それが並んでいるだけ。
別に、草が生えていて足の踏み場が無いわけじゃない。地面は木の茶色と、土の茶色の2色しかなく、逆に空を見上げると、葉の緑と、木の茶色と、空の青の、3色だった。
不思議というか、不気味だった。
次回、別視点で始まる