第一話 プロローグ
「それでは卒業生代表、九地ヶ谷 翔さんお願いします。」
「はい。」
今日は中学校の卒業式の日だ。東北だから外には雪がちらついている。そして、卒業証書を受け取り先生たちなどの話が終わり、俺の出番となる。
俺は前期に生徒会長だったので卒業生代表の言葉を言う。
俺はこの時を待っていた。
椅子から立ち上がり、ゆっくりと移動し、ステージの上へ。お辞儀をして、正面を向く。
そして、1年半ずっと考えてきた言葉を口にする。
「俺は、2年生の一学期からいじめられてきました。」
その言葉に、会場の雰囲気が一瞬で変わった。
眠っていた者は誰もいなくなり、保護者の何人かはスマホで俺を映している。
一番表情が変わったのは、俺のクラスメイト全員と俺のクラスの担任である。
俺は話を続けた。
「具体的には、靴を隠されたりするのは日常的です。むしろ、それが無い日はありませんでした。机の上には油性ペンで落書きがされ、怒られるのはいつも俺でした。ロッカーには、ごみ箱が詰め込まれてたり、わざとらしく女子の体育着が入っている時もあり、それが見つかると晒し者にされ、先生からは体育着の持ち主に謝れと強要され土下座までさせられました。」
教師たちの席はざわめき、俺のクラスメイトの連中は「本当なのか?」とか、ほかのクラスの奴に質問攻めにされている。必死に否定しているのか俺のことを指さしたりしている。
今更だが、俺の親は卒業式には来ていない。仕事らしい。
「あれか?具体名を出さなきゃ信じてくれないか?…新堂。俺は一番怒ってるのはお前だからな?一番最初にいじめてきたからな。その次に新堂を止めないで、いじめてきた安田。」
名指しされた新堂と安田は、顔が青くなっている。その周りの奴らも遠慮なしに質問攻めにする。
「あと、担任。二者面談の時にお前はなんつった?覚えてるか?『いじめアンケートに嘘を書くのは辞めなさい!さっさと書き直せ!私のクラスにいじめなんてあるわけないでしょ!』って言ったこと覚えてるか?」
俺の担任は女だ。自分の予定通りに事が運ばないと怒りだす典型的な自己中だ。そんな俺の担任は、校長に詰め寄られていた。
「まぁ、なんだかんだで一番心に傷がついたのは、クラスメイト全員からの『死ね』の大合唱だな。クラスの全員が俺に向かって『死ね』って言ってきた。全員だぜ?言わなかった奴がいないと気付いた時はマジで傷ついたよ。」
俺がこれを言い終えると、俺のクラスメイトの女子が一人泣き出した。事実を言われて動揺でもしたのだろうか。
「二番目に傷ついたのは、生徒会の役員選挙の時に俺の推薦者が、女子になってそいつがドッキリだったっていう時だな。最初から選挙が終わるまで傍にいたくせに、選挙が終わった途端に、なんか呼び出されて『私が心からあんたのこと応援してたとでも思ってんの?』って言われたのがマジできつかった。」
泣いていた女子がさらに泣き出した。泣くなら卒業式が終わった後に泣けよ。保護者達はギャーギャー騒いでいた。
在校生は静かにしてるというのに。
「という訳で、俺は必死に考えた。何処までも考えた。俺をいじめた奴らがどうすれば苦しむかを。」
全員が黙る。俺が何をするか知りたいようだ。
俺は黙って、忍ばせておいた包丁を取り出した。
学生ズボンって意外と大きいんだぜ?
「答えは一つだ。“ここで死ぬ”。」
「待って!私は何ができる!?あなたが死なないためには何ができる!?」
包丁を胸に突き立てたその時、泣いていた女が立ち上がって叫んできた。
「何も無いよ。強いて言えば、お前がその言葉をもっと早くに言えば止めれたんじゃないか?言えないだろうけど。言えなかっただろうけど。巻き込まれるのは怖いって思って逃げてたから言えなかっただろうけど。」
女は黙ってしまった。図星で困ったんだろう。
「未練は!?未練は無いの?」
黙ったかと思ったら、また口を開いた、周りの視線に気づいたほうが良いよ。
「あるけど、もうどうしようもねぇよ。“普通の中学校生活を送る”だから。」
女は席に力なく座って、また泣き出した。俯いて、顔を隠して。
「さぁ、俺は死ぬぞ。あ、そうそう校長先生。ここに読んでもらいたい物があるから、俺が死んだら読んどいてね。」
そう言って、鳩尾に包丁を突き立てた。会場は一気に悲鳴などで包まれ、混乱に包まれた。
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「九地ヶ谷さん、お待ちしていました。」
そんな声で俺は目を覚ました。覚ました目に映ったのは、女神だった。その後ろには、何も無く、何かあった。そんな訳の分からない空間だった。そんな空間に、俺と女神だけが存在していた。
「死んだら、三途の川を渡ると思ってたんですがね。」
気付いたら声に出てしまっていた。
「あー、それは一般コースですね。九地ヶ谷さんは当たりなんですよ。というか、突っ込まないんですね。」
「え?何がですか?」
「お待ちしていました、というところにですよ。」
一瞬口調が崩れたのは気のせいだろうか。ロリなのかロリじゃないのかはっきりしない身長で微笑む。どう反応すればいいのだろう。
「俺は、女神さまに待たれるほど俺は有能ですか?」
「……えぇ。」
その間はなんだよ。しゃあない。話を進めよう。
「で、何をすればいいんだ?」
「世界を救って欲しいのです。」
無理。無理ゲーだろ。自殺したら世界救いました、ってか?
笑えないよ。
「一般コースに戻してください。」
「決定事項なので、申し訳ありません。」
もういいや。とっとと救って、早く死のう。やり残したことなんざ、もうないんだから。
「はいはい。救うよ。救えばいいんだろ?」
「ええ。分かってくれたようで何よりです。不快にさせてしまったようなので、女神からの贈り物を二つにさせて頂きます。何か希望は?」
マジか。開き直って良かった。
「色々あって、人間不信になっているようなもんだし、女の奴隷を一人と、俺が言ったことが現実になる能力が希望だね。」
いろいろ悩んで、この二つにした。別に後者の能力さえあれば、奴隷の問題も簡単だけどもらえるものは貰っておかなければ損だ。
「それくらいでいいのなら、今差し上げますね。」
女神様マジで女神様。話が速すぎるだろ。
喜んだ瞬間に、頭の中に無機質な声が響いた。
__『言発現実』を獲得しました。
なるほどね能力名は、言発現実っていうのか。無理やり四字熟語にせんでもいいのに。
そう思っていると、目の前に綺麗な女の子が出現した。
「私はイネラ。カケル様の奴隷です。」
160センチ位の身長で、金髪が胸まであって、ある程度膨らんだ胸がある女の子が出てきた。目は碧眼である。服は白いワンピースのようだ。…貴族じゃないんだよね?奴隷なんだよね?
「よろしくな。イネラ。」
「はい。」
口数が少ないけど、どうしてなんだろう。まぁ嫌いなわけでもないし別にいいや。
「九地ヶ谷さん。それではいいですか?」
「大丈夫だ。それより名前は?」
「リロよ。」
思わず笑いそうになってしまった。ロリじゃないけどロリっぽいから、特徴に合いすぎだろ。
お、体が光に包まれてく。仕事早いなぁ。
「じゃあな、ロリ神様。」
俺は、体が完全に光に包まれる前にそう言葉を残した。
「許しませんよ!」
そう聞こえたのは気のせいだろう。
こっちはゆっくり進んで行きます。
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