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「アキ……なんだこいつらは」
「そんな事言うなさ。この人たちに協力してもらって迷宮でナツの保釈金と慰謝料稼いでくるのさ」
牢獄の中に居たのは真っ赤な髪を短く刈り込んだ女。貫頭衣から延びる手足の長さからシキよりも頭一つは長身と見てとれた。よく鍛えられた筋肉の塊のような手足だが女性らしいフォルムは保ち健康的な美をシキは感じ生唾を飲み下す。
「男じゃねぇか……止めとけ、お前まで俺みたいになるぞ。俺は大丈夫だからよ」
少女はシキの顔を見て一瞬呼吸が止まった様子を見せたが気の強さを隠すことなく睨んだ。
罪状は迷宮内での男子暴行罪だという。それは暴行そのものというよりも性犯罪としての罪状であった。
「牢屋に入って男嫌いになったのかい? 以前の君なら彼のような人を見たら取り敢えず玉砕しに行くじゃないか」
「へっ 指一本触れてねぇのにこんなとこにぶち込まれたら嫌いにもなるってもんだ!」
「安心して欲しいさ。このままじゃ女だらけの鉱山で死んでしまうか迷宮探索隊で肉の盾にされるだけ。その男嫌いを発揮するには外でなければ無理ってものさ」
事前にアキがシキとフユに伝えていた事で、ナツは仮で組んだ他の町から来たパーティーのメンバーに填められて犯罪奴隷落ちするところだという。
そのパーティーのメリットが何かというと、ナツが支払えない慰謝料を国がナツの身柄と引き替えに払う、ということにあった。女一人をはめて百万ジェン手に入れば悪質な人間にとっては非情に楽で儲けの大きい仕事になってしまう、と。
「うん、解った。フユちゃん、この依頼受けよ?」
「え?」
フユからすると大柄で粗暴な女。しかも自分に負けず劣らずな不細工だ。やはり類は友を呼ぶのかとエルフと赤毛の少女を見てため息をついたがそれでも助けようとする友が居るのだから羨ましい、などとぼっち思考で思っていたところである。
「本当ですか!?」
その言葉に喜んだのは勿論アキ。出会った当初のDOGEZAはともかく物静かというよりも冷静に淡々と話すイメージが強い少女に最も驚いたのはナツであった。
「お、おい! もしもあいつらと同じことをしたら!」
「この人が男を襲ったりする訳ないよ。冤罪だね、フユちゃん」
フユから見ても女は不細工だが、男を無理に手込めにするようなゲスには見えなかった。
まだ会って間もないとは言えアキが下僕となると言い出す程に助けたい人物である。そこに嘘も感じられない上に実際にあった人物もとても悪人に見えない人間であった。
「同意」
血縁であるはずのないエルフと人間の少女の間の絆を引き裂こうとする冤罪ならば阻止してこそ己が目指す淑女だろう、と幼いながらもその心に熱い炎が灯った。
「な、んでお前等は」
「ねぇナツさん。ここから出られたら一緒にパーティー組まない?」
「…………な、んで?」
「四人で冒険出来たら楽しそう。ナツさん、優しそうだし頼りになりそうだから」
疑心暗鬼になっていたナツ。だが、「気持ち悪い」「不細工」「いつかやると思っていた」と形だけの裁判で暴言を投げつけられた自分を目の前の美少年は真っ向から否定した。本当にやっていないのに会う人間会う人間全てにゴミのように見られ罵られていたナツは何が起こっているのか理解出来ない。
初対面の美少年と、不細工だが真面目そうな少女が冤罪だと断言してくれる。友であるエルフ以外の世界中が全て敵に回ったと感じていたのに。
ナツは、何の邪気もない少年の誘いに夢でも見ているのかと呆然とし声を発することができない。
「ナツ、絶対に稼いでくるさ」
ナツを釈放出来ればアキとナツはシキ達の下僕となる約束は有るがあえてアキはナツにその事は言わなかった。今言えばこじれるかもしれない。
が、きっと事を成せばこの友は自ら望んでそうなるだろうと確信していたからである。二人揃って美少年の下僕になれるなら願ってもないことであった。
三人が去った後、ナツは溢れ出る謎の感情を抑えきれない。
「うっ……うぅ………ひぅっ」
嗚咽を堪えながら、釈放されてすぐに動けるよう逆立ちしての腕立てを始めた。彼女は思考を得意としない。だから想いと躯の折り合いをどうにか付けようと必死であった。