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採集は順調であった。シキはしゃがんでフユに教えられた薬草を腰の痛みを感じつつもひたすら摘み取って行った。
「シキさん、これもお願い」
「はーい。あ、もう一杯になっちゃった」
フユから新たに渡された薬草の束をアイテムボックスに仕舞うとアイテムボックスがカウンターストップした。
「何個になった?」
「えっとね、九十九個×七カ所だから、六百九十三個だね」
「おお。計算早い」
「あはは、そう? このくらいで宿代になるかな?」
「なる。戻ろう」
森で野宿した翌日にそれなりの時間をかけて歩いて町に戻りそのあとすぐに採集に行ったので二人とも疲れていた。出来れば風呂に入ってすぐに寝たいと思うほどにシキも流石に疲れていたのである。
疲れて居たからこそ、フユは失念していた。ましてや彼女は一晩中シキに抱きしめられ眠れぬ夜を過ごして眠気でふらふらですらあった。シキのアイテムボックスの異常さを忘れていたのである。
「こ、こんなに!?」
「頑張りました~」
「アイテムボックスのスキル持ちはたまに居るけど、それにしてもあなた、ボックス容量大きいのね……びっくりしたわ」
ハンターギルドの買い取り所で薬草を何も無い空間から取り出し続けカウンターに積み上げたのである。つまりは受付や周囲にたまたま居た人々を驚かせてしまったのである。
それに気づいて頭を抱えるフユ。ブルーマジシャンという未知のジョブだが、ただでさえ貴重なマジシャン、の格好をした美貌の少年である。たとえ戦闘で役立たずでもパーティーに引き入れたいと考えるハンターが居て当たり前で、さらにその少年がアイテムボックスの持ち主だとすれば勧誘合戦が始まるのも当然である。
「君。アイテムボックスなんて凄いね。どう? お姉さんたちのパーティーに入らない?」
傍に居たフユの存在を無視して早速声を掛けてくる女ハンター。
フユから見てかなりの美女であった。装備から実力的にもそこそこだろうと見て取れる風体でもある。後ろに控える三人も同じく美女であり、腕も悪くなさそうなパーティー。おそらくはこの町のハンターギルド内では中堅どころか上位に位置するだろうとフユは察した。
一ハンターとして考えれば悪い誘いではない。故にフユは内心冷や汗をかいていた。折角自分と一緒に行動してくれるという仲間。それもアイテムボックス持ちであり自分を見ても嫌悪感を抱かないどころか抱きしめて寝てしまう程に懐っこい少年を失いたくはなかった。
ただ、恩義はあったとしても誰と組むかはシキの自由である。フユが口を挟めることではなかった。仮に借金の事を盾にしても五万ジェニンくらいならばシキの代わりに払ってでもシキを引き入れる方が断然お得なのだから意味がない。
「え? うわ」
「うわ?」
「あ、ごめんなさい。僕はこの子と組んでるから」
半ば絶望していたフユの耳に届いたのはシキの断りの言葉である。
「ええ? そんな弱そうな奴より私たちの方が絶対に良いって」
「そうだよ。そんな不細工より私たちとの方がきっと楽しいよ?」
フユもその意見には己のことながら同意であった。腕にはそこそこ自信あるが中堅どころのハンターを一人二人ならともかく四人まとめて相手にするのは少々厳しい。さらにフユの容姿はこの世界の基準で言えば超絶不細工である。どっちについて行けば得なのかは火を見るより明らかであった。
ただしその判断は、シキでなければ、だ。シキは険しい顔つきでフユを馬鹿にした女ハンターを睨みつけた。脳天気なシキは珍しく怒ったのである。
「は? この子、凄く強いし超絶可愛いですけど? 目が悪いならお医者さんへどうぞ」
「え?」
思わず勧誘してきた女ハンター達と声が被ってしまうフユ。
お世辞や断り文句にしても無理が有りすぎる、とフユは半ば呆れるものの、もう半分は感動であった。彼女をそうやって誉めたり庇ったりした人間はこれまで親を含めてさえ只の一人もなく、文字通りフユにとって生まれて初めてのことだった。
「フユちゃん、行こ」
「え、あ、う、ん」
そしてシキはフユの手を取ってハンターギルドを後にした。
シキに断られ残されたハンター達は呆然とするだけであった。