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フユという少女、齢十歳のハンターは孤独であった。ずっと持ち前の頭の回転の良さと身体能力でハンターとして何とか食いつないで来た。
同世代のハンター達からはとある理由から避けられていたがフユも己より明らかに自分より弱いにも関わらず見下してくるような連中と組むメリットはなくその気も無かった。ただ同時に年上のハンター達が見たまま子供であるフユと組む訳も無かったのである。
フユは懐の寒さよりも心に来る寒さに大分参っていた。要は寂しかったのである。
「ハンターとして、ボクと、ペアになって……働いて、返す感じで、どうか、な」
美少年を囲うだけの経済力も無いフユは、はじめはこの少年を町まで送り届け謝礼を貰おうと考えていた。ただシキが持っている金目の物は杖だけ。それもおいそれと売って良いものとも思えず、しかしフユが貰い受けても売る当ても無ければ己が使用出来る武器でもない。
タダ働きかと思ったところにシキのアイテムボックスの存在だ。
単身で腕に自信が有るが稼ぐという意味では難が有るフユの問題点を一気に解決出来る存在が目の前に居るのである。それは他のハンター達でも同じ事が言えるのだが、フユの場合は更に切実なものであった。水だけで一日大人一人が二千ml飲むとしても二人で十日は余裕で持つ計算で重さとしても約五十リットル、五十kgを荷馬車を使わずに運べる。アイテムボックス内の全てを水入り皮袋で満たせば約五百リットル。相当な労力がシキ一人で運べるのである。
彼女は戦闘能力自体はそれなりだと自負していたが如何せん小柄である。
獲物で大物を狙ってもそれに伴う危険と得られるもののバランスに釣り合いが取れないのだ。
食肉として人気の熊型や猪型の大型モンスターを狩っても持ち運べる重量には限界が有り丸々町まで引きずって帰るなど不可能。その場で解体するのも大変な労力であり血の匂いで他の肉食動物やモンスターを引き寄せ襲われる可能性も有る。単純に割りに合わないのである。
かと言って護衛などでは見た目で門前払いなので狩猟や討伐専門となっていた。ほかにも彼女なら出来る仕事は有るのだがフユという少女には手が出せないものであった。
そんなフユの前に現れた美少年がシキである。それこそ売春や酒を出す店で働けば五万ゼニンなどすぐにでも稼げるだろうとフユは思った。が信用できる店などでなければ騙されて奴隷にされるのがオチだ。
目の前の少年は明らかに世間知らずであり、悪いことを考える人間からするとカモがネギと調理器具と燃料も全て背負って歩いているようなもの。それならば怪物と呼ばれる自分と一緒に居た方がマシではないかと考えた。
フユを見る目が優しく、初めてフユの顔を見た瞬間も悲鳴を上げなかったシキに(見た目で判断しない男性なのかも……いや、あとが怖いから無謀な期待は禁物。だけど、気持ち悪がられなければ、もしかして)と勇気を振り絞り仄かな希望を掴むべく仲間に誘ったのである。
「え? 良いの?」
「え?」
良い、でも、嫌、でもない返事にフユは戸惑う。
「僕、記憶喪失だし世間知らずだから迷惑かけちゃうかもよ? 荷物持ちくらいしか出来ないかも」
「じゅ……十分。助かる」
「本当? やった! いやぁ町についてもその後どうしようかと悩んでたんだよねぇ。助かるよフユちゃーん」
シキは喜び焚き火を回り込んでフユの頭を撫でる。
「じゃ、もう遅いし風邪引くと拙いから一緒寝よっか」
「うぇっ?」
そう言うとシキはフユを背中から抱きしめ寝転がった。ブラック企業戦士だったシキはどこでもいつでも寝られるという特技があり、二秒後には寝息を立てている。猫型ロボットを未来から送りつけられる少年並みの早さであった。
「えぇ? えぇええぇ?」
夜の森の中で不寝番も立てずに寝ようとすることよりも、美少年が己のような醜い女を抱きしめて警戒無く寝る、という状況にフユは(あ、これボクの妄想? 頭がおかしくなった?)と朝が来るまで寝ずに考え続けるのであった。