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 シキを助けた少女はフユと名乗った。二人はフユの起こした焚き火を囲んでいる。


「シキさん……そんな軽装でこんな森深く、何事?」


 フユは見た目十歳程度の美少女である。己をDランクハンターだと名乗った。シキの知っているDQの世界ではハンターすなわち何でも屋であり、この世界でもそのイメージで相違は無かった。


「銀髪とかってコスプレ以外じゃ初めて見たよ。フユちゃん超可愛い」

「か、可愛いっ? え、か、からかう、なっ ひ、人の話、聞くっ」

「え、ごめんね?」


 突然のシキの発言に驚いたフユは体育座りから後ろにひっくり返る勢いで後ずさった。

 シキも見た目小学生な美少女が怒れば取り敢えず謝る。


「えーと、記憶喪失だよ! 気付いたら森の中に居たんだ」


 嘘だ。フユは即座に見抜く。こんな元気に現状把握し記憶喪失だと自己診断で断言する患者がどこに居るのだ、と。


「そ…………う……大変だ、ね」

「うん! さっきは有り難うね!」

「……はぁ」


(こんな美人がボクを可愛いとか言う時点で怪しい……男の人が危険な目に遭ってるのに放置はできなかったから仕方ないけど……ぁあ……もう……赤字だ)


 礼を言われてどよーんとした様子のフユにシキは流石に気付き理由を問いただす。


「ボクの使ったスキル、ジェニ投げはりあるまにぃを投げる、から」

「あー。フユちゃんってソードマスター?」


 シキの知るファイナルファイティング(FF)の世界ではジョブシステムと呼ばれる兵種設定があった。剣が得意なファイターや徒手空拳で戦う武道家、治癒が主体のホワイトマジシャンや攻撃が主体のブラックマジックなどなど様々な兵種が有り『ジェニ投げ』はソードマスターという兵種が持つ多対スキルである。


「ん」


 シキは併せて思い出す。投げた金は投げられた瞬間に物質変化を起こし光の矢となり複数の敵に降り注ぐ。ソードマスターが得られる広範囲多対スキルであるが貨幣経済に対する冒涜とも一部から言われていた。投げれば光って消えるのだから発行する国としてはたまったものではないが禁止して取り締まればソードマスターたちを敵に回すことになるので現実的に止める手段が無いため野放しであった。


「あのネズミ一匹一匹は雑魚だけど、一気に全部倒さないとどこからともなく仲間が現れて切りがないし中途半端に倒してもパワーアップしたのが現れて始末に負えなくなる」

「あー、だからジェニン投げだったのね。さっきのネズミ達を倒すのにいくらくらい使ったの?」

「五万、ジェニン」

「おお、五桁……ちなみにその位有れば何が出来るの? 何が買えるの?」

「え? ……普通の宿屋で十日泊まれる……普通の昼ご飯程度で贅沢しないなら百食程度」


(箱入り息子? 着ている服は上等な装備っぽいし、杖の玉は多分ブルードラゴンの瞳を加工した一級品……世間知らずのお坊ちゃまの家出?)


 シキをまじまじと焚き火の明かりで観察するフユ。


「なるほどなるほど」


 リアルな金額かつ日本の相場設定に近い額と単位にシキは驚く。ちなみに国や町ごとの物価、売買する商品ごとの相場にもよるが大凡一ゼニン=一円である。

 フユが言うにはネズミの素材や魔石を取っても一匹十ジェニン程度にしかならず、手が汚れるわ面倒だわでやらない方がマシだという。


「えーと、町に連れてって貰えれば返せるかも」

「何か当てが?」


 金持ちのボンボンなら実家に言って礼とともに払って貰うことをフユも考えたが記憶喪失だと自称する見た目十代半ばの美少年が何を言い出すのか予想が出来ない。


「この杖売れば払えないかな?」

「それを売るなどとんでもないっ」

「え?」


 店売りされているマジシャン用杖はシキが持つ杖と比べるのもバカらしくなるほどに性能が低い。ゲームで言えばラストダンジョン突入前の最強武器レベルである。


「たぶん、ここらの店じゃ値段が付かない」


 フユの言葉にシキは価値が無いと勘違いする。


「そっか~。じゃあ干し肉とか乾パンは?」

「誰が作ったか解らないのをわざわざ町で買い取る人は居ない」


 そりゃそうだけど世知辛いなぁ、とシキはうなだれる。


「あとは水なら沢山あるけど、水なんてどうしようもないしねぇ」

「売るのは無理。今……ちょっと欲しい」


 フユは町から歩いて半日程度の場所であるこの森で高級素材である夜行性の魔物を捜していたのだが身軽になるため最低限の食料と水しか用意していなかったのである。まだコップ一杯分ほどは皮袋に有るには有るが目の前の少年が持っているというのなら念のため分けて貰った方が良いと判断した。


「はい、どうぞ」

「え」


 何も無い空間に手を伸ばしたかと思うと少年の手には水が入った皮袋が握られていた。


「あ、アイテムボックスっ」

「え? あ、まさかこれって珍しい能力だったりする?」


 定番な展開だ、とシキは苦笑しつつもフユに尋ねるとフユはコクコクと高速で首を縦に振った。


「か、なり……珍しい。よ、容量は?」


 努めて冷静にフユは尋ねた。


「えーと、今は水が九十八個入ってて。干し肉、これね。これが九十九個、乾パンが九十九個で空いてるっぽいスペースが七つだね」


 同種上限が少なくとも九十九個、十種を保有出来るアイテムボックスなどフユは聞いたことが無かった。

 そもそもアイテムボックスというスキルはかなり稀少なものであり先天的な才能である。成長はせず個数や種類の上限数も一種類ごとの収納可能な大きさや重さも個々人によって異なる。

 ただ、その稀少なスキルを持っている人間の殆どが種類上限二種類から三種類が殆どでそれでも有用な能力としてどんな職業や組織でも引く手数多であった。


「この、水があと九十八個? ……本当?」

「本当だよ? 全部出したことないけど、出してみよっか」


 そういうとシキはアイテムボックスと念じると出現する己にしか見えない空間の隙間から水入り皮袋を出していく。

 空間に手を入れ出したい物を引っ張り出すのだが傍から見ると空間に差し入れた手が見えなくなる訳ではなく突然手に水入り皮袋が現れたように見えるのである。

 非常に希有なスキルなのだが当人は、一個ずつしか出せないのか、と面倒臭い仕様だとがっかりした。


「い、いや解った。だいじょぶ。しまって」


 フユに止められシキは仕舞おうと意識した次の瞬間には一気に目の前から水はなくなりアイテムウィンドウの水の項目が九十八個に戻った。仕舞うのは楽だと少し安心した。


「………もし、嫌でなければ」


 フユが不安げな顔でシキに提案する。



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