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「助けられたこと、礼を申し上げる」
「いえ、それよりもこの脳味噌筋肉が本当に失礼致しました」
護衛隊の隊長だという三十歳前後に見える女性兵士にアキは頭を下げ、フユもシキもそれに倣う。隊長は明らかに平民ではない装いに立派な鎧を身に付けているのでアキは瞬時に貴族だと判断した。
「いや。実際あのままではこの場にいる者全員の命は無かっただろう。とっさのことで敵身方を間違った、ということで咎める気は一切無い」
「いやこの場で一番強そうな奴残して敵だったら面倒だと思ってぶっ叩いただけだぞ?」
恩義を感じて折角殴られた事を無かったことにしようとしているのに余計な事を言って隊長の顔をひきつらせるナツ。何故かドヤ顔である。
「ナッちゃん、ちょっと黙ってようね?」
「お、おう?」
珍しく空気を読んでナツの腕を引いてさがらせるシキにアキは目で「その脳筋押さえといて!」と訴えた。
「本当に、本当に申し訳ございません」
「いや、彼女ほどの実力者から高く評価されたと思えば私は誇るべきところだ。もう頭を下げなくても良い」
外行きの言葉遣いで謝罪を重ねるアキに隊長も不憫になったのかアキの頭を上げさせた。
隊長の説明によると西領主の跡継ぎを護送していた所を襲われたという。それもハンターギルドで護衛として雇った五人組パーティーが内通していたらしく見事に囲まれたという。
フユは馬車の閉ざされた豪華な扉を見て気配を探る。車中に大小三つの気配を感じた。
「領主様の大事な跡継ぎ様に護衛がこの人数なのですか?」
見れば隊長含めて十人のみ。それも見るからに兵士然としてはおらず鎧もなにもかも着慣れていないのが見て取れた。恐らくは正規の兵士ではないだろう。
西領はそれなりの規模であり経済活動も盛んな商業都市を抱えている。
ましてや野盗の類は大抵二十人以上で徒党を組んで襲ってくるのが定石であり、必然的に貴族や上流階級、それなりの規模の商人などの場合は護衛もナツのように一人で十人二十人相手出来るような少数精鋭か二十人以上の護衛団が当たり前のため思わずアキは問いかけた。それが失敗の始まり。
「色々、事情が有ってな」
隊長は苦々しい表情でそう返す。これは面倒ごとだな、と思ったアキは早々に別れようと試みるも横やりが入った。
「西領に行くなら俺らもだから同行するか? あんくらいなら俺一人で十分だし俺ら四人なら倍来たって余裕だぜ?」
「それは助かる! 実はこんな形をしているが私以外は戦闘経験がほとんどないのだ。謝礼は着いたら必ずさせて頂く。そなたらはハンターだろう? なんなら正式な依頼としてギルドを通した上で謝礼もちゃんと支払うぞ。無事送り届けてくれれば一人あたり二十万ジェニン、四人だから八十万ジェニンは私の裁量の範囲で支払い可能だ」
ナツがいい笑顔で頷いた。シキ達のペースで後三日程度、彼らと同行して遅くなったとしても四日五日だ。一日二十万ジェニンの稼ぎと考えれば破格である。さらに倒した野盗の報奨金の権利もナツが有する。ナツは次の街でどんな武具や道具が買えるか今から心躍っていた。
フユはフユでナツのコミュニケーション能力というよりも人助けを自然にしようとする善良さや根の明るさに関心さえしている。
そしてアキは終始頭を抱えていた。このまますんなり全て終わるとはとても思えない。アキはナツが絡むとかなりの苦労人にジョブチェンジしてしまうのである。
「おばさん太っ腹だな!」
「ナツッ!」
「お、おばッ!?」
ムッとするを通り越し目つきが変わった隊長。形は兵士でそれなりの腕前だろうが実際には貴族の隊長は、恩人と言えども流石に見るからに平民のナツの無礼をそう何度も笑って流せるものではない。罰するまではいかなくとも厳重注意くらいはして当たり前である。
「ナッちゃん、こんな綺麗な人をおばさん呼ばわりって失礼だよ!」
シキの無自覚ファインプレーが炸裂し事なきを得るのであった。
後方から二台の馬車で後を付いてくるのは西領主の跡継ぎ一行。
道中でシキは領主の跡継ぎを拝めるかと楽しみにしていたのだが期待に反して馬車から降りてくる様子はない。
自分ではないが助けたのだから礼の言葉の一つも有るもんじゃないのかと思ったが助けた本人のナツも気にした様子はなく御者台で鼻歌交じりに手綱を操っているので気にしても仕方ないか、と気を取り直して弓の手入れをするアキに話しかけた。
「次の街ってどんなとこなの?」
「中央に近いこともあってとにかく商業が盛んさ。お店が一杯あって今の私たちにはピッタリさね。あと、街からちょっと離れたところに迷宮も有るから退屈はしないと思うよ」
弓から顔を上げシキに笑いかける。
「先日まで居たリマジーハの街は割と田舎」
フユはシキの横に体育座りしている。不寝番で最後だったからか今にも寝そうだ。
「あそこは南領から西領への中継地点だからね。宿場町って奴さ。森の恵みも多くて食べるに困らないから割りとハンター達が集まるね」
「あれ、そう考えると迷宮潰れたのは悪いことだったりする?」
「まぁあれは私たちのせいじゃないし」
「潰す方が近隣住民にとっては良い」
なんにしても楽しみだ
シキは次なる町に期待で胸を高鳴らせるのであった。
彼らの旅はまだ始まったばかりである。
ご読了有難う御座います。
本作品はあらすじにも有る通り世界観を自分の中で構築するために書き始めたプロトタイプです。
公開を始める際にこちらでも番外編投稿と共に新しい作品の告知をしたいと思います。
出来ましたらブクマをそのままにして頂けると嬉しいです。
ちなみに本作品の登場人物は下記リンクにもある現代が舞台の
あべこべ世界で人生をやり直します!
と同じで所謂スターシステムという奴です。
そちらも是非ご一読を。
有難うございました。




