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「まさか自供するとはね」

「それだけ餌が魅力的だったということだ」


 翌日。その日、晴れてナツが釈放となる昼過ぎに合わせて再度ギルドを訪問した三人を出迎えたのはトシら紅兵団(クリムゾン)の五人。


「俺としては炭坑送りや迷宮で使い潰されるのから逃れられるだけじゃなく前科者に成らなくて済むとは思ってなかったんだが」

「シキ君とフユ君の御陰さ」

「シキさんは助けるだけじゃなく紳士的に御礼を辞退した。シキさんが最良の結果を導いた」


 フユが謙遜したような事を言うが彼女からすると本心でしかない。


「金を受け取らないと言われれば他の事で返すしか有るまい。こいつら腕はまだまだだがタダで救われる程安くもない」


 借りを作りっぱなしには出来ない、出来るだけ迅速に返すべし、というトシの意向と状況がマッチしたのも確かであったためフユの発言も的を得ていると言えた。


「ま、何はともあれシキ君の英断さね」


 シキを持ち上げる発言が並ぶが当の本人はナツとアキの感動の合流かと思いきや割と淡々とした様子にちょっとがっかりしていた。


「僕はついて行っただけだから大したことしてなけどね。それより二人とも、もっとこう、感動の抱擁とかそういうの無いんですかね?」


 妙なリクエストをしてしまう程にがっかりであった。シキは前世から女性同士の絡み合いを題材とした物語や映像媒体が大の好物であった。


「え、お、お前に、か?」

「い、良いの? 良いのかい? 強制猥褻とか言わないかい?」


 妙なリクエストを妙な勘違いで上書きする二人にシキはシキで「え、僕かいな。いやそれはそれで役得?」と微妙な計算高さを発揮する。変態であり半ば変質者である。


「だいじょぶ、来なッ!」


 そして貰える物は貰いましょう具体的には胸部の軟装甲の感触を! とガバッと腕を広げる。その姿は無駄に男らしかった。


「来た」

「おお?」

「速ぇッ」

「フユ君いつの間に!?」


 そして真っ先にシキの抱擁を受けたのは俊足のフユ。


「ボクは二人より御褒美があって然るべき」


 そう言われてしまえば助けられた二人は何も言えず腕が宙をさまよう。魔物のゾンビのようだ、とトシらは呆れつつ哀れな者を見る目を向け二人は余計に居たたまれなくなる。


「フユちゃんッ」

「シキさんッ」


 ここぞとばかりに額をぐりぐりシキの胸に押しつけるその様子はまさに親に懐く子供のように思えてシキにはひたすら愛おしい。シキの精神年齢で言えばフユくらいの子供が居ても不思議ではないのだ。娘か妹のように可愛くて仕方ない。


「んッ」

「フユちゃんッ」

「あー。取り込み中悪いんだが」


 何故かずっと一緒に居た筈のシキとフユの間で発生した抱擁イベントシーンに事情を知る訳もないトシは声を掛ける。空気読めとフユは非難がましくジト目なのはご愛敬であろう。


「確認だが、彼女の冤罪を晴らしたのを謝礼として宜しいか?」

「俺は何も言えないんだが」

「私も。フユ君とシキ君の活躍だからさ」


 年長組のアキとナツは問いかけられるても答えようがない。実質二人は紅兵団(クリムゾン)に対して何もしていないのだから当然である。


「フユちゃん?」

「シキさんにお任せ」

「そう? じゃあこれ以上は贅沢ってもんだよね。トシさん、エマさん達も、本当に有り難う御座いました。御礼は十分に頂きました」


 フユとの抱擁を解きつつもちゃっかり手を繋いだ状態で頭を下げた。


「そうか。ところで丸く納まったところで君たち、特にシキ君と言ったか。我らが紅兵団(クリムゾン)に加盟しないか?」


 早速来たか、とフユとアキは冷や汗をかく。アイテムボックス持ちは当然好条件での加盟となるだろうからシキに表だって拒絶しろとは言えなかった二人。

 寄らば大樹の陰、シキを除く三人にもメリットは大きいのだろうが紅兵団(クリムゾン)ほどの大きな組織となればパーティー編成権を上位組織が持っていると考えるのが当然である。

 そうなると拳闘士のシングルであるナツはともかく成長速度に難の有る二種(ダブル)のアキと四種(クォドルプル)のフユはいずれシキと共に居るには力不足と見なされ離ればなれにされる未来が見えてしまうのである。


「あ、僕ら四人でこれからパーティー組むんで。いずれ機会が有りましたらその時は宜しくお願いします」

「ふむ? それは期待していて良いのかい?」


 玉虫色の返事に首を傾げ追求するトシと曖昧な笑みを浮かべるシキの無言の間がしばし続く。


「機会が有れば是非~」

「ふむ。振られたか。何が気に入らないのか聞いても?」

「容疑者の処置が曖昧なんで。なーんちゃって! いや本当に有り難う御座いました! いつかまたどこかで。僕らこれから打ち上げなんで!」


 そう言うとシキはフユの手を引いてギルドを出ていくのを慌ててアキとナツは追うのであった。さりげなく不満を漏らして逃げるあたりにシキの狡猾さと大人げない性格を表していると言えよう。


 金銭面で言えば冤罪が晴れたため保釈金と慰謝料の支払いは不要となった。逆に後日、ナツを填めようとしたパーティーの女四人を裁判に掛け今度はナツが四人から慰謝料をかっ剥ぐ流れとなる。

 ただし主犯とも言えるデーブだけは自首したということで減刑となり多少の罰金と慰謝料で解放された。身元引受人はトシであり、今後デーブは紅兵団(クリムゾン)で働くという。

 その話を聞きアキとフユはさもありなんと「男性は色々得さねぇ」「同意」と男性のシキの前にも関わらずぼやいた。ただナツは「まぁ俺はあの女四人が奴隷落ちならひとまず満足だ」とさっぱりしたものである。

 シキはシキで「一番美味しい思いしてたっぽいあいつが釈放? はぁ?」と憤っていたが後から追いついたエマの説明でひとまず矛を納めた。


紅兵団(クリムゾン)に入れるっていうのは前科がついても良いくらいにメリット有るんですか?」

「いえ、本命はもう一つの条件、トシ様が代表を務める【男性権利評議会】の構成員になることですね。これは男性の憧れとも言えます」

「なんだか良く解らない評議会は置いて置くとして、自白したからってやっぱりあの男だけ得するって酷くないですか?」

「トシ様はデーブのような男を許さないでしょう。短時間で自首させる手が他に無かった事も有りますが、ひとまずデーブとの取り交わしを守らないと信用に関わります。

 ただあくまでこれは一時的な処置なのでご心配なさらず。むしろシキ様の反発を買わないようこうやって私が説明のため参った次第です。

 デーブは余程心を入れ替えればですが良くて飼い殺し、このままならば使い潰されます。

 あれでもホワイトマジシャンですから迷宮の前線にでも突っ込めば使えないことはない、と仰ってました。長くは生きられないでしょう。下位パーティーを使い潰すのは本意ではないようですがどうしようもない連中の見せしめによく使われる方法です」


 それはそれで厳しい、と思わないでもなかったがナツが強制労働させられそうになった経緯を考えればすぐに殺されたりしないだけマシかとシキは思い直し納得することにしたのである。


 晴れて問題は解決し、四人は結成式とも言うべき初めての食事会を開くのであった。


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