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 その後、一時間ほど掛けて【ゴブリン(白)】を何度も発動させアキとフユの治療を終えた。


「大丈夫? 痛いとこ残ってない?」

「だいじょぶ、ありがと」

「助かったよ。いやぁもう死ぬかと思ったさ」


 ボス部屋で一息つく。シキは何度もマジックを発動させ疲労が溜まっているので休憩することにした。

 本来ならすぐにでも立ち去りたいところだがボス部屋だとボスさえ倒せば再発生(リポップ)するまで安全であり、ボスの場合は一ヶ月は現れないとアキから説明された。


「でもラッキーさ」


 死にかけて何がラッキーだと一瞬シキはカチンと来たが訳を聞くと納得せざるを得ない。


「魔結晶は置いてったからね。これがあれば余裕でナツを救えるさ」

「ボスの魔石だけ抜き取って魔結晶はそのまま、意味不明。そもそも攻撃してきたのも、意味不明」


 アキの脳天気さを突くようにフユは疑問を提したがアキは答えずシキに頭を下げた。


「何はともあれシキ君に感謝さ。始めの一撃防いでくれなきゃ死んでたし命乞いしてくれてなきゃやっぱり死んでたさ。ごめんさね、土下座までさせちゃって」


 アキはあの状況で即座に己から命乞いが出来るとは思えるほどには己が臨機応変に行動できる自信はない。ましてや女であるアキが命乞いするのと男であるシキがするのとでは重みも変わりシキにそうさせるまで追い込まれたことにアキは忸怩たる思いであった。


「あれで命拾い出来るなら安いもんだよ」


 本当に申し訳なさそうにするアキにシキは苦笑しつつ気にするなと答える。


「速過ぎ。スキルも使ってない。意味不明」


 親指の爪を噛みながら苛立たしげに先ほどの黒尽くめにこだわるフユにアキは肩を叩き立ちあがらせる。そろそろ帰還である。


「さしずめ暗殺とか盗賊系ギルドの精鋭ってところさね。まともに生きてて運が良ければもう会わないだろうから何はともあれ帰るとするさ」


 フユの苛立ち、落ち込みようにシキは心配しつつも大人しく帰還の準備をし立ち上がった。


「帰ったら何時くらいですかね?」

「まぁ、十時くらいさね。迷宮から出れば帰還石(テレポーラ)が使えるから町まで一瞬さ」

「あ、そんな便利なのあるんですか」

「使い捨てで一個五万ジェニンさ。高いけどこんな時に使わないとね」


 普段なら不寝番を立てて明るくなってから移動するという。


「今日は酒場で食事取ったら宿で寝よう。明日の朝一でギルドに今日の稼ぎを叩きつけて脳味噌筋肉女の解放手続きするさ」


 シキはまともな食事とベッドでの睡眠にありつけると聞き肩から少し力が抜けた。流石に疲れが溜まっている。


「まぁ、帰りも油断しちゃダメだけどね」


 フユはどこか心ここに在らずだが襲い来る魔物に遅れを取ることもなく、だが時折鬱憤を晴らすかの如く魔物を蹴散らしていたのにはシキもアキも複雑な表情を浮かべるのであった。





 シキは激怒した。


「シキさん、落ち着く」

「解ってたことさね」


 三人は町に戻ると早速酒場に向かった。

 アキは「本当なら打ち上げでもしたいところだけど明日に備えなきゃだし脳筋が合流したら改めて親睦会兼ねて騒ごうさ。代金は勿論払うから好きなだけ食べて頂戴な」と酒は飲まず食事だけのつもりで酒場の席に着いた。


 すると店の奥、壁際のテーブル席に陣取っていた男一人女三人のグループの酔客の発言が聞こえた。


「おいおい、そんな高い酒良いのかよ」

「明後日には慰謝料百万ジェニンだからな! 余裕余裕!」

「デーブ様様だな!」

「あのなぁ。高いの頼むのはお前らの金だから構わないけど俺の取り分は半分だからな?」

「解ってる解ってる。しっかし男からぶつかれば強制猥褻になっちまうんだから世の中恐ろしいわな」

「違ぇねぇ! ハッハッハ!」


 ナツを填めたというパーティーがドンチャン騒ぎをしていたのだ。酒が大分回っているからか声量も大きい。

 見れば周りの客は汚い物を見る目でそのグループをチラチラ見ていた。

 男からぶつかって強制猥褻? とシキは一瞬意味が解らなかったがここはシキにとっては異世界、違う常識が有るのだろうとひとまず状況を飲み込んだ。要は大っぴらにナツを填めたと自供しているのである。


「チッ……二人には申し訳ないけどさっさと食べて宿に行くさ」

「同意」

「今の発言って冤罪の証拠にならないんですか?」

「無理さ。あっちは目撃者(・・・)を用意してたさ。私たちがここで聞いたと言っても言った言わないで審議にもならないね」

「シキさん、ナツさんは早晩解放される。それで納得すべき」

「シキ君、そこまで思ってくれて本当に嬉しく思うさ。ナツだって感謝するし気持ちとしても救われるさ」


 その晩、シキは体はかなり疲れていたがベッドに入っても全く眠りに付けなかった。その原因は、若かりし頃に無茶苦茶な客からの罵倒を浴びせられて以来の久々の憤怒が原因であった。

 何度も酒場で見かけたデーブという肥満男を殴る妄想に駆られるが気が済むどころか憤りは集る一方で朝を迎えるのであった。


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