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「アームロックがきつ過ぎたのかな? でも柔らかくって程良く弾力有って最高の感触だったなぁ……もう死んでも良いレベル。一回過労で死んでるし勿体ないから死なないけど」


 森をひたすら歩き続ける。かなり深い森で木々の合間から見える空は青いのにシキのもとにまで届かない。


 シキは現代日本で三十歳、ブラック企業の洗脳済みサラリーマン戦士であった。

 どれほど洗脳されていたかというと彼の後輩が


「先輩、今月労働時間三百時間超えてるっす……何でこんな」


 と愚痴れば


「お? 一ヶ月は約七百二十時間有るからもっと働けるね!」


 と笑顔で返し


「こんなノルマ無理っすよ!」


 と嘆けば


「1+1は工夫すれば3にも4にもなるんだよ? たとえば1×0=3×0が成り立つ訳だけど余計な0を両辺から消せば1=3が成り立つ。ね? 世の中考え方なんだよ。一緒に頑張ろ?」


 と異次元の返しをする。屁理屈をくっつけるあたり精神論より性質が悪い。ある意味似非科学の皮を被った新興宗教並みに悪質であった。


 本人としては騙しているつもりはないのだが、他の殺気立つ先輩社員になかなか教えを乞う事が出来ないため一見親身で当たりの優しいシキに後輩達が集中してしまったのである。


 そんな彼を、事情を知る同僚たちは『洗脳ホイホイ』と呼んでいるのをシキは知らなかったが打率七割位で彼が教育する後輩陣は洗脳されるので会社上層陣は彼を重宝していた。


「どこまで行けば町に着けるんだろ」


 彼は楽観していた。というよりも長年のブラック企業戦士の習性で良い意味でも悪い意味でも前向なのである。


 シキは身につけた物と背負い袋とアイテムボックスを再度確認する。


 衣服は真っ青な前合わせのローブで腰紐で調節するだけの簡単なもの。下着はパンツだけ、上は無しだがローブが絹のように肌触りが良く気にならない。ちなみにズボンは無い。靴は飾り気の無い革靴でこれもまた紐で締め付けるだけの簡単な作り。


 鏡も無いので己の姿はまだ解らないが手などの肌の若々しさや数時間は歩き回っているのに息が全然切れておらずまだまだ歩けそうな事から女神が自分を三十より若く転生させてくれたのだと実感した。多少の身体能力向上もセットしてくれていたのだがシキは若い頃の自分の体力だと勘違いし調子に乗っていただけである。


 背負い袋に入っていたのは頭に青い、直径五センチ程の玉が付いた四十センチ程の杖。先端は何かの金属で補強され尖っているのでいざ野生生物などに襲われた時にはこれで突こうと腰紐にひっかけた。


 他には何も入っていなかったので流石に楽観的なシキも


「え、ちょっと初期装備がDQ3並みに貧相ってゲームに忠実過ぎない? 食料無しで自分の居る場所も解らずサバイバルさせたいならガイアか特殊部隊呼びなよ~」


 と呟くと次の瞬間ピコーンと直感的な何かが脳裏を走り「あ。アイテムボックス?」と呟くと目の前にゲーム的な半透明メニューウインドウが開いたのでホっとした。


**アイテムボックス**

水入り皮袋(五百ml)×99

干し肉(牛肉 百グラム)×99

乾パン(二百グラム)×99

空き

空き

空き

空き

空き

空き

空き

==整理整頓==

==ゴミ箱==

************


 とりあえず飢え死にはなさそうだ、と安心した。


「女神様あざ~す」


 軽い調子で感謝を伝えるシキだが本当に感謝している。ただ基本馬鹿なので感謝しているようには天界で覗き見していた女神にも見えなかった。


 ひたすら歩くこと数時間。大木が多いため日光が届きにくいからか背の低い草木が少ないので歩きやすくはあったが陽が完全に落ちる前に真っ暗闇。


「寝ますか」


 木の根本で比較的乾燥している場所を見つけ木に寄っかかって寝ることにした。


 シキは基本的にアホである。楽観的なアホである。それを思いついたところで今のシキにはどうしようもないのだが、彼は野生生物に襲われるという心配に至らないほどにアホである。


「ふむ……今後の事を考えなきゃ」


 月明かりも届かない深い闇の中。静かに目を閉じ考える。


「部下には頼られてたけど仕事の範疇越えてなかったしなぁ……孤児だったし友達も疎遠になってたし彼女なんて居たことない……今度の人生でもボッチは絶対嫌だから頑張ろう!」


 とことん独り言の多い男である。


 キー

「きー? 誰っすか?」


 ビクっと起きあがると視界には赤い光が何百も絨毯のごとく広がっていた。


「わっ何何何何!?」


 シキの目には確認できなかったが目の前に群れているのはネズミ。だがただのネズミではない。魔物である。その頭に角が有ることからそのままホーンラットと呼ばれる。

 魔力を帯び魔法や技を行使する生物を魔物とこの世界では呼ぶ。


「ひぃっ」


 シキは暗闇の中、立ち上がるもネズミに囲まれ動けない。逃げようにもネズミの赤い光しか見えず下手に走っても木にぶつかることが容易に予想出来た。

 シキは覚悟を決めて必死に地団駄を踏んでネズミを潰そうかと考えるが決心が付かない。


「動く、駄目」


 そしてそんなシキに救世主が訪れた。


「【ジェニン投げ】」


 少女特有の高めの声が響くと閃光が無数に闇を照らし、ネズミの目から光が消え声も上げずに絶命した。


「だいじょぶ?」


 そして目の前に誰かが立っているのを感じ、驚きと安堵を同時に覚える。




 ブルーマジック 【ホーンラット】を覚えました



 女神の声に似たアナウンスがシキの頭の中で響いた。



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