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「う、嘘さね?」

「ほんと」

「フユちゃんは嘘つかないと思いますよ」


 シキの咎める言葉に思わずアキはたじろぐ。シキはシキでフユが人を困らせる嘘をつくなど到底考えられなかった。


「う……も、勿論技術を磨いて強力な装備を揃えれば上位ランクだって狙えるさ」

「ん」


 元気づけるように言うも不発となる。シキとアキにとっては気まずい時間がしばらく続き、フユも静かに頷きつつ己の役目を黙々とこなす。


 四種(クォドルプル)だと通常の人間の四倍ジョブレベルの成長が遅いとされるのだと小声でアキに教えられた。


 やがて、元々口数が多いとは言えないフユ相手に勘違いしているのではとシキは思い至る。シキにはフユが落ち込んでいるようにも見えず、むしろアキの励ましが的外れに思えた。気にしているにしては淀んだ空気を感じないのだ。


「あれ? でもフユちゃん、【ジェニン投げ】使えるよね? あれってソードマスターのLv.2のジョブスキルなんじゃないの?」

「そういえば……まだ十歳かそこらの子供だろうに四種でLv.2は……どういうことさ」


 シキの指摘にアキが混乱する。通常ではあり得ないのだ。十歳そこらであればどんな種族であってもせいぜいLv.2でかなり優秀だと言えるのだ。その四倍も労力の必要な四種(クォドルプル)であればまだLv.1にすらなっていないのが自然に思えた。本当に四種(クォドルプル)なのかと疑いそうになる。


「物心付く前から魔物倒してたから。ジョブはソードマスター、シーフ、忍者、鍛冶士」

「なるほど。そのジョブなら納得さね」


 アキはジョブがもたらす恩恵、能力強化に気付く。


 人は生まれた時から特定のジョブに就いておりジョブチェンジは貴重なアイテムがなければまず不可能な話なため比較検証が成されていないのだがジョブはその人間の身体能力を強化していると言われる。

 例えばマジシャン系は魔力を、戦士系は膂力を、シーフや忍者は器用さや俊敏さなどを底上げすると。それはジョブチェンジした人間の体感で信憑性がある情報として知られている。


 ただしダブルである者、例えばアーチャーであるアキは筋力も器用さも、そして精霊使いとしての魔力も他の専門家よりジョブの恩恵が薄い事を体感と経験で理解している。

 このようにジョブによる身体能力強化の恩恵も半分になると言われるのがダブルである。


 そしてダブルは大きな町に数人居ても不思議ではないがトリプルに至っては殆ど存在せず一つの国に一人居るか居ないかと言われるほど稀少であった。四種(クォドルプル)など文献にこそ残っているが後は「四種(クォドルプル)の役立たず」という人を馬鹿にするための慣用句にしかその存在は知られていない。


 四種(クォドルプル)の恩恵が仮に通常の専門の四分の一だとするとフユのソードマスターの膂力はともかくシーフと忍者の俊敏さと器用さなどが僅かな身体強化だとしても重複するのは不幸中の幸いだとアキは考えたのである。さらに鍛冶士の筋力と器用さ向上が巧い具合に重なっていると感じた。

 これが下手に村人や遊び人という非戦闘系ジョブだったりマジシャン系が混ざったりすると器用貧乏過ぎて目も当てられない。


「あと十歳じゃない、十二歳。子供じゃない」


 フユが一番こだわったのはそこである事に、アキとフユは思わず笑った。ちなみにこの世界で成人は十二歳である。


「私は百十六歳さ」

「おお、流石エルフは長寿なんですね」

「エルフの感覚だと人間換算で十代後半ってところさ。シキ君は?」


 次のシキの言葉に二人は固まった。


「三十一歳」


 女神に再構成されたシキの体はどう見ても十代半ばであるため二人が数分動かなくなり再起動後に何度も聞き返すのは仕方ないことであった。


 所持スキル

 【解析】


 所持マジック

【ゴブリン】1/6 ※打撃

【ゴブリン(白)】1/6 ※回復(小)

【バット(黒)】-/- ※傘

【マンティス(黒)】-/- ※斬撃

【メタルイーター】-/- ※斬撃・刺突撃回避UP

【マーマン】-/- ※火炎系魔術ダメージ減

【ゴースト】-/- ※?

【ホーンラット】-/- ※?


**アイテムボックス**

水入り皮袋(五百ml)×90

干し肉(牛肉 百グラム)×91

乾パン(二百グラム)×91

皮袋(空)×9

魔石各種×99 (計:五万ジェニン相当) 

魔石各種×66 (計:三十八万二千ジェニン相当)

空き

空き

空き

空き

==整理整頓=

==ゴミ箱==

************



「これは便利だねぇ。魔物、気付かないよ」

「シキ君のブルーマジック、結構反則さね」

「あはは、これ使えばお風呂とか着替え覗き放題だラッキー」


 シキ流のギャグだったのだが文字通り猿ぐつわ(ギャグ)になって二人を絶句させる。


「え、冗談ですよ? 覗かないですよ?」

「え、は……い」

「敬語!?」

「まぁ……そんな痴漢聞いた事ないし。シキ君は面白い人さね」


 新たに覚えた【ゴースト】によりシキ達は気配を消しながら移動することが可能となった、と思ったがそれほど簡単な話ではない。


「匂い消えてない。気配も薄くなってるけどせいぜい忍者の【忍び足】程度」


 透明になったりする訳ではなく実際の効果も「何となく存在感が薄くなる」程度の効果だとフユは評する。


「ああ、なるほど。そうなると対人マジックと考えるべきさ」

「なるほどね」

「他のジョブの一スキルを複数使えるマジックの一つとして使えるならそれはそれで大したもんさね」

「それよりこのペースだと厳しい」

「もうちょっと深いと思ったんだけど当てが外れたさ……まぁ後は第二プランでボスの魔石と魔結晶をゲットさ」

「順当」


 既に夜の七時を回っていた。このペースで行くと三百万ジェニンを稼ぐには厳しい。シキはシキで最悪己の杖を提供すれば良いだろうと特別焦っては居ないが気になる単語が出てきた。


「魔結晶って?」

「迷宮の最深部に有る結晶。ハンターギルドが高値で買ってくれる」

「へぇ。魔石の凄い版?」

「それとは別さ。魔結晶が迷宮にある限り延々と魔物は生むしどんどん迷宮が広がって行って厄介だから早期発見して持ち出すべし、というのが常識さね」


 迷宮の心臓部のようなものだろうとシキは認識するも一つ疑問が生まれる。


「でも迷宮が機能しなくなったら僕らみたいな人たち困らない?」

「迷宮なんてそこかしこで生まれるから潰さないと世界が魔物で溢れてしまうし人知れず生まれた迷宮なんてのも探せばいくらでも有るさ」


 迷宮、とりわけ人里近い迷宮は潰して魔結晶を奪取すべし、という方針があるのだという。


「でもそういうのって何か門番というか魔結晶を守るボスとか居そうだよねぇ」

「ボスの魔石は高く売れるからドンと来いってもんさ。まぁあんまり強いのだとナツも居ないし火力不足で手に負えないけどここ位新しい迷宮なら大丈夫さ」

小型竜(レッサードラゴン)位ならだいじょぶ」

「フユ君、とても心強いけどそれCランクパーティー推奨討伐モンスターさ」

「目に一撃で余裕。矢の方が楽」

「まぁ、やったことはあるけどさ」


 あるんかいっ、とはツッコみたくないシキ。これはフラグという奴だろう、と思いつつ前方に現れたこれ見よがしな扉を見つめた。

 鍾乳洞のような空間に明らかに系統の違う物体があれば最早罠にしか見えない。


「随分浅い」

「まだ新しい迷宮だからさね。その分ボスもたかが知れてるから美味しい獲物さ」


 フラグがビンビンに立っている。シキの嫌な汗が止まらない。


「や、止めとかない? 杖売れば大丈夫ですよ」

「ここまで来てそれはないさ」

「アキさんに同意」


 無情にも二人は警戒しつつ扉を開いた。



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