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ぴこーん
ブルーマジック 【ゴブリン(白)】を覚えました
【ゴブリン】のレベルが上がりました
【ゴブリン】1/3 Lv.UP!
【ゴブリン(白)】0/3 NEW!
【ホーンラット】-/-
魔石というのは一般的には魔物の体内から見つけられる胆石である。
「これが魔石かぁ」
詩季は迷宮を歩きながらフユが初めの戦いでゴブリンの胸部から採取した赤黒い拳大の石をまじまじと見る。完全な球体であった。
「え”」
「魔石を見たことがないのかい? シキ君の家、使用人居るのかい?」
魔石とは灯りから火種、ほかにも様々な魔器と呼ばれる要は便利アイテムに使う燃料である。それを見たことが無い、というのはなかなか普通は考えにくく、余程の箱入りでもなければ有り得ない話であった。
「いあ!? し、知ってる知ってる、うん! こっちは!?」
訝しげな空気を感じ慌てて今度は白く角張った石を指さすシキ。あまりに常識知らずと思われては不味いと誤魔化す。
「……ホワイトゴブリンの魔石さ」
「魔物の種類によって色や形が違う」
「うん! 知ってる知ってる、うん! ところでさっき、またブルーマジックで覚えたよ!」
「へ? なんかよく解らないジョブさね」
「元々未知の領域。どんな効果?」
シキが上手く誤魔化せた訳ではなく哀れに感じた二人がシキの誤魔化しに乗っただけであるが興味が涌いたのも事実である。
「使って見るねッ」
シキは先ほど【ゴブリン】を使用した時のように今度は【ゴブリン(白)】を使用する。すると【ゴブリン】同様に目の前に半透明なホワイトゴブリンが【ゴブリン】とは違ってシキと対面するように現れ両手を万歳のように上げすぐに消えた。
「あれ?」
「何も感じないさ」
シキは首を傾げるが確かにアキの言うように何かが起きたようには見えない。むしろゴブリンがシキに向かって君の悪い顔でドヤってたのにイラっと来たくらいである。それだけだとしたらとんでもない死にスキルと言えたがフユは気付いた。
「解った」
「え? どうしたのさ?」
「多分回復」
フユはシキに手袋を取った右手を見せる。
「今朝、爪切った時に深爪してずっと痛かったけど、今治った」
「おお」
治った過程を見た訳ではないがフユが実感しているところを見るとまず正解だろうとシキは頷く。
「へぇ……面白いさ。予備動作も魔力の動きも感じさせず回復なんて聞いたこと無い」
「微妙な攻撃よりこっちのは使いどころあるかも? どのくらいの傷回復出来るのか検証する訳にいかないのが難しいところか」
「ま、後で私かフユ君が怪我したらポーション使う前に試せば良いさ」
「出来れば怪我しないで欲しいんですけど」
「検証も大事」
そう言って先に進むとなだらかな逆道となった通路を発見した。
シキはふと、地下何階かあるコインパーキングのスロープを思い出した。この迷宮の構造は何かに似ていると思ったら地下駐車場であったと思い当たり合点がいっただけである。
「下、行く?」
「浅い階層じゃゴブリン程度しか居ないから当然予定通り行くさ」
そしてまた平地に着くがそこは曲がりくねった道と横道で出来た階層で大人二人並んで歩くのには手狭であった。
「私がこのまま先頭行くさ」
「あの曲がり角の上、厄介」
「うわぁ」
フユの言葉に見、そこには何か黒い物が垂れていた。一見すると破れた黒い暖簾が沢山無造作に設置されているようにも見えるが立派に魔物である。
「まだ気付かれてないけど、三十匹は居るさ」
「ボクの【ジェニン投げ】なら一掃出来る」
「それは楽だけど確か五匹以上にぶつけるのって相当お高いって聞くさ。金稼ぎに来て金ばらまいてたら本末転倒さ」
攻撃対象のサイズや数、あとはソードマスターがどの位のコストを賭けて発動させると意識するかで大分変わるが【ジェニン投げ】自体がかなりコストパフォーマンスが悪いことは常識である。
「全ソードマスターを敵に回す発言」
「知り合いのソードマスターが言ってたさ。ソードマスターは貧乏人だらけだって」
「同意」
「はは。ソードマスターの敵はどうしたさ」
「あっちぶら下がってる」
前方の魔物を指さすフユにシキもアキも思わず笑う。
アキに対しフユも大分打ち解け始めていた。元々友人のためにこうやって危険を冒す人格に好意的であったのも大きい。
そして元々フユは頭は悪くない、どころかかなり良い部類に入る。まだまだ経験値が足りないが気さくなアキの調子に色々と学び始めていた。
「じゃ、私がやっちまうさ。フユ君、近づいてきたのは始末宜しく。私の矢に当たらないよう前には出ないで私はいいからシキ君を守るさ。吸血されると中途半端に強くなって面倒さ」
「らじゃ」
アキは矢筒から矢を二本抜き即座に射るとニつ固まりが天井から落ちた。そして異変に気付いた残りの蝙蝠型魔物は天井を忙しなくぶつかるよう飛び回る。シキから見ると「えぇ? でかくない?」と思うほどのサイズで下手すると人間の幼児くらいのサイズが暴れ回っているので距離はあっても迫力があった。
「凄い」
「あの位は余裕さ」
言葉の通り、余裕な表情で二本ずつ次々射出し次々落として行く。それから一分経たずに全滅させた。
「魔石回収。二人とも休んでて」
「ありがと」
「すごーい。アキさん弓上手だねぇ」
「アーチャーだから当然さ」
そう言いつつも得意げに賞賛を受け取るアキ。
「三十二個ゲット。あと矢」
「フユ君、ありがとさ。この魔物、アンブレラバットの魔石の相場は一個三百ジェニンさ」
「とりあえず一個三百ジェニンのが三十二個で合計九千六百かぁ。さっきのゴブリン達のは?」
「計算、早い」
「ふむ。シキ君は学があるのさね。さっきのゴブリンはまぁ全部で合計千ジェニンってとこさ。一匹あたりで言うとホワイトが百ジェニン、普通のが五十ジェニンさね」
「一万千百ジェニンか。幸先良くない?」
「そうさね。本来ならこの位の魔物だと魔石も放置するから助かるさ」
「そなの? 捨ててくのは勿体なくない?」
「確かに大人一人が宿に泊まってご飯三食食べるくらいならこれで出来るさ。
けど、さっきの魔石を三十二個、重い思いをして持って歩くなんて割に合わないさ。そんなことするくらいなら町中で日雇いの方が安全だしなんぼか楽、それに確実さ」
「あ、なるほど。そこで僕のアイテムボックスて訳か」
魔石は色違い、形違いでもシキのアイテムボックス内では上限は九十九だとしても一枠しか使わない。他の枠が空いていればそれも使えるのだから荷物持ちとして非常に優秀である。魔石の重さは下手な石よりも重く、密度が高い。それこそ三十個を大した金額にもならないのに持ち歩くなどなかなかやろうとは思えない。
もしやるとすれば迷宮探索を続けもっと割の良い魔石や素材を見つけられなかった時のために適当に隠しておく位である。
「ま、それもこれもシキ君のアイテムボックスのお陰さ」
「反則級の便利さ」
フユもアキもシキの美貌や人なつっこさだけじゃなく、このアイテムボックスの存在によってシキに戦闘能力や戦闘支援を求める気にならない。
「迷宮は魔物の巣さ。そして、思った以上に私たち三人は迷宮と相性が良いさ」
「同意」
「この魔物の素材は良いの?」
「これは基本魔石だけ回収さ」
「素材は使えないの?」
「使えるは使えるさ。主に傘」
名前そのままである。
さきほどまで相手していたゴブリンは食べても不味く素材としても何の価値もない魔物なため魔石を抜いた死体はそのまま捨ててきた。
「後は水をよく弾くから雨合羽とかさね。一応高級品だけどそんなに需要は無いからここらじゃあまり美味しい素材じゃないさ。王都では養殖もされてるし。それに大して強くはないけど皮を傷つけたら駄目だからブラックマジシャンかタイムマジシャンでもなきゃ割に合わないさ」
丁寧な説明にシキは関心したように頷く。
「フユちゃん、知ってた?」
「知らなかった。流石Cランク」
「ま、全部ナツや知人達からの受け売りさ。じゃ、行こ」
そう言うと気を引き締めたようにアキは弓に矢をつがえながら歩き出す。
「アキさんとナツさんって付き合い長いの?」
「ん? ああ、かれこれ五年の付き合いでね」
のほほんと歩くシキにすると薄暗い迷宮をただ歩くのは退屈で思わず二人に話しかけてしまう。本来は御法度な行為だが、フユやアキにしてみれば見目麗しい美少年が愛想良く話しかけてくるのだから心浮き立つものがあるのは否めない。そう感じつつも二人は腕前はそこそこ立つので現状においての警戒レベルとしては問題無かった。
「魔物発見」
フユの言葉にアキは目を凝らす。アキの方が先鋒ではあるしアキ自信視力に自信はあるがそれより先に見つけるフユにアキは思わずまじまじと見返した。
まだ若いのに中距離・近距離においては中々腕が立つのにその腕に溺れず最低限の労力で倒すべく罠でゴブリンを転ばせる少女にアキは内心驚いていた。
「あそこ」
「おっと、そんなこんなで二階層第二戦の相手は」
アンブレラバット再来。
「さっきより多い。がんば」
「頑張って~」
飛び交うコウモリなど面倒で相手をしたくないフユとそもそも戦力として怪しいシキの応援にアキは苦笑する。元々ここまで和気藹々とした雰囲気になるとは思ってもいなかったのだが彼女にとっても嬉しい誤算であった。
「まぁ、シキ君に持って貰うから良いさ。普段だったら絶対舌打ちするけど」
「同意」
危なげなくアンブレラバットは地に落とされた。
ぴこーん
ブルーマジック 【バット(傘)】を覚えました




