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 フラグキター!


 シキはアキを見たときにそう叫びそうになった。美少女剣士に助けられ、美少女エルフに頼み込まれ、美女拳闘士を助ける。

 此を王道と言わずして何と言うのか。迷宮で命を落とすかもしれないという危険を前にしているわけだがブラック企業戦士だったシキは無駄にポジティブであったので脳天気にも心配していない。

 それよりも美少女に囲まれての冒険家業に心躍るのである。フユは己のアイテムボックスが必要で、アキとナツは事が無事終わればきっとシキに感謝して一緒に行動してくれるだろうし信頼関係も築けるだろう、と。

 親類縁者の全くない状況で信用できる人脈こそシキが今最も求めているものである。ぼっちは嫌だ、と。ましてやシキが見ほれるほどの美少女達だ。このフラグをシキが逃す訳がなかった。


「二人とも、本当に感謝します」

「おっけーおっけー。それより僕らにもさっきみたいに砕けた感じでよろしく~」


 ずっとぽやぽやした調子のシキにアキは感動を禁じ得ない様子でもう一度頭を下げシキの願いを了承した。


「準備、どする」

「今日はもう暗いから休むさ。丸二日分の食料と水を朝市で買えば十分。回復薬や毒消しも私が持ってるさ」

「食料と水は僕の乾パンと干し肉と水で取り敢えず大丈夫じゃない? 三人だったら余裕で間に合うと思うよ」

「良いのかい?」

「勿論」


 そして三人はひとまずその日は宿屋で一泊した。



「フユ君、君まだ若いのに凄いさ」


 迷宮と言ってもその迷宮はまだ若く『成長』していないため洞窟と大差ない。天井の岩肌に光苔が群生しているため灯りは必要ない中三人は、弓を持ったアキを先頭に、シキが真中、ソードマスターの【後方警戒】スキルを持つフユが最後尾となった。


 既に何組かのハンター達とすれ違ったが魔物は探せば割と多く見つかるらしくアキは警戒されないよう声だけ掛けてやり過ごしている。慣れ合う必要はないが敵意を向けていない、というのを知らせるためだ。


「フユちゃん超強いからねっ」


 シキがフユの代わりとばかりに胸を張る。

 フユが突如岩陰から現れたゴブリンに対し拾っていた石つぶての一発で眉間を割り瞬殺したのである。初心者ハンターの手並みとは程遠い。


 そして他にも隠れていた仲間のゴブリン三匹が一斉に襲いかかったがそれはアキが矢で射るのかと思いきや腰に差していた短剣で凪払った。


「アキさん、アーチャーなのに凄いねぇ」

「矢は曲がったりするし回収しても消耗が激しいからこの程度の相手ならこれで十分さ」

皆死矢(オルゴール)は?」


 シキのゲームの知識だとアーチャーのスキルで矢を消耗せず魔力で矢の雨を降らせるものがあったので問いかける。


「いやいやいや。そんな伝説スキル使えれば三百万ジェニンごとき一瞬で解決出来たさね」


 やはり。シキのゲーム知識はこの世界とかなり被っていると確信する。ただゲーム内では割とメジャーなスキルだったと思ったがこの世界ではそうではなく伝説と言われるものだということでギャップが有ることも確認できた。


「フユ君はソードマスターで、シキ君のジョブは?」

「ブルーマジシャンって奴だよ」

「アイテムボックス使えればジョブなんて関係ないさっ」


 励まされたようだと流石にシキも理解するが苦笑いを浮かべ流した。フユも敢えて何も言わないが藪蛇を避けるためというよりも元々ぼっち歴が長くあまり会話が思いつかないというのもあった。


「お、ゴブリン六匹。フユ君、右翼お願い」

「らじゃ」


 フユは手頃な小石を使い切っていたので五メートルほどまで駆け寄って近づいてきたゴブリンに向かって一呼吸、二歩で踏み込む。


 ギャッぐ


 古びた三十センチほどのショートソードで緑色の肌をした同じくらいの背丈のゴブリン三匹の喉を的確に突いて返り血を浴びぬよう即座に離れた。


「大したものさね」


 そう呟くように賞賛したアキはアキで一匹目の顎を蹴り上げ二匹目の眼球にナイフを差し入れ最後の一匹は返すナイフで首筋を切り裂いた。


「うひぃ」


 シキは緑の血を吹き出すゴブリンの死骸に思わず声を上げた。


「あ」

「シキ君、こういうの始めてかい?」


 一昨日の夜にフユが全滅させたネズミは見ていたものの数は多いがネズミはどこまでいっても小動物。怖いというよりも気持ち悪いという感覚が強かったが目の前で子供くらいの大きさの人型生物が死ぬ光景はさすがにショックが大きかった。

 こうなることに対する心の準備はしていたが流石に目の前で、となると驚きはする。


「う、うん。初めてだったけどだいじょぶ、驚いただけ。でも多分、僕は戦うの無理かも」


 即座にへたれるシキ。彼は己から荷物持ち拳雑用係をすることを心に誓った。何とも情けなく虫の良い宣言だと言った後に思ったが二人の反応はそれが当然とするものだったためホッとする。


「だいじょぶ、戦闘はボクやる」

「アイテムボックス持ちってだけで十分以上に助かるさ」


 さも当たり前のように返事する二人。アイテムボックスが如何に貴重か、ということもあるが二人にとってはシキが美少年かつ仲良くしてくれてる時点でそれ以上何かが出来ても自分たちにとってはオマケでしかなかったためである。


「あ」


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