太公望
「釣りとしては激しく手順がおかしいが、こちらからの依頼は完遂・・・だな・・・うーん」
ポセイドーンによって甲板に引き上げられた龍王を背景に、呂尚が少し遠い目になっていた。
元凶のアオイとクリスティナは互いにサムズ・アップしていた。
ドランは龍王の立派な角をペタペタさわっている。
あとピエールさん、龍王をサクサク解体してるんじゃありません。
「龍の血と肉は、滋養強壮にいいのデース」
はい、そうですか。
「それで『太公望』だったな?」
ぴくっとハクとクロクロが反応する。
「『太公望』ってのは、崑崙山の闡教の道士の一人だった姜子牙と言う人物だ」
呂尚が語り出す。
「仙術を用い封神の儀式を生業としていたらしい。神獣『四不像』に乗り、手には『打神鞭』という宝貝を持ち、三百六十五柱の神を『封』じたと言われている」
ハクとクロクロは息を殺し、静かに聞いている。
「『太公望』が呪いに詳しいのは、『封』じる神の力に対抗するために、必死で術を編み出したからと言われている。彼自身はそんなに強いわけじゃなかったらしいしな」
「さっきから言われているとか、らしいという曖昧な言葉が多いな」
ハクが呂尚の話に疑念をいだく。
「そりゃぁ千年以上前の伝説だからね」
呂尚は手を広げ、おどけたように言う。
「千年以上前?伝説?」
ハクとクロクロが驚いた顔をする。
「そうだ、伝説だ。だからこの話は嘘か本当か分からない、証明は出来ない」
「じゃあもう、『太公望』この世にはいないという事か?」
流石に人は千年以上は生きられない、ハクが絶望したような声をあげる。
「いや生きてるぞ?そもそも彼は道士なんだ、不老不死と言われる仙人の一人なんだよ」
呂尚はにやりと笑う。
「生きてるいるというならば、何処に行けば彼に会えますの?」
クロクロが呂尚ににじり寄る。ジト目の迫力が怖い。
「ん?・・・ココにいるじゃないか。姓は姜、氏は呂、字は子牙、諱は尚。姜子牙こと呂尚。『太公望』とはオレの事だ!」
呂尚はダダーンと京劇のようなポーズをとり、自分に指をさしながら言った。
物凄くドヤ顔だった。
「やっぱりか」
「ですわよね」
「そうじゃろなぁ」
「だよねぇ」
「かな」
「・・・」
「キルキルキル」
「今日の夕食はなにかしら」
「香草焼きもいいデース」
誰も驚かない。
ついでに途中から話題がズレている。
「えぇえええ、なんでぇえええ?」
呂尚が皆の反応の薄さに困惑している。
しかもかっこつけのポーズまでやったのだ、気恥ずかしさで精神的ダメージがゴリゴリとはいる。
「だってお前、放浪の釣り師というわりには式神を使うとか色々能力高すぎるし」
「神鎧も持っていますしね、普通の人とは思いませんわね」
「俺様は楽しんだからいいけどな」
呂尚は甲板に手をつき落ち込んだ。
「くそぅ・・・サプライズ狙ったのに・・・」
呂尚が落ち込んでいる間に、釣り上げられた龍王は、ドランとピエールさんによって、元の形も判らないくらいにバラバラに解体されていた。
ドランは角、骨、鱗を黙々と調べている。時々ニヤニヤ笑っているのが恐ろしい。
ピエールさんは、肉や内臓を部位別に切り分けながら、色々やっている・・・色々・・・うん・・・色々・・・
まぁね・・・バレバレですよね




